第166話 細かい疑問
その後数日間、俺達は兵士達と共に周囲の魔獣殲滅を繰り返した訳だが。
無事、全員通行許可をゲット。
というのも、前衛組は全く持って問題無し。
戦闘さえ起これば普通に前に出られるし、スキルを使わなくたって素の能力でも強い。
そして残る後衛としてダイラ。
此方に関しては負傷者の救護、更にはダイラが居た場所の戦闘員に関しては、そもそも“怪我をさせない”聖属性魔術師として活躍を認められた。
詰まる話、普通の活動において問題になるのはやっぱり俺だった訳で。
それもまぁ、前回の“やらかし”のお陰で問題となる程では無いのは助かった。
などと思っていたのだが。
「パーティ単位ですと、やはりサポーターという方もいらっしゃいますから。そういう方々の場合は、仲間達の半数以上が許可を貰っていれば、書類選考だけでも許可は取れますよ」
という、ウィスロンさんのお言葉に絶句したのも記憶に新しい。
そんな訳で、この街での戦闘面の項目としては全て完了。
姫様の一件があったからこそ金にも構っておらず、もう依頼を受ける必要も無くなったわけだ。
なので本日からは、北に出発する為の旅準備~って感じで動き出した。
なんでもここから先は不毛の大地というか、砦はあろうと容易に物資の補給も出来ないみたいだからね。
必要な物は全てここで揃えろ、十分だと思った倍は用意してから向かえ。
というウィスロンさんのアドバイスに従って、遅くなったが観光を始めてみたのだが。
「あれからあまり話題には出していないが、クウリ……実際のところどうだ? システムメニュー、まだ見えているのだろう?」
買い出しの途中、イズと二人きりになったタイミングでそんな話題が上がって来た。
コイツも普段は気を使っているのだろう。
皆の前で……特にトトンには、あんまり聞かせたくない話題だろうし。
俺だけ異物に一歩近付いたって話になると、アイツもまた騒ぎ出すだろうから。
「ま、今の所変わりなし……だな。本当にゲームと同じ仕様みたいだ、俺が経験した事以外の詳細は殆ど表示されない。戦地ではまた違うみたいで、物やエネミーのヒントみたいなのはくれるが。例えばこの辺の知らない調味料を手に取った所で、何色の香辛料、とか表示されるだけだな」
「あのゲームは、専門外の事に関しては本当に情報を隠蔽するからな……サブ職の影響で、俺は食材関係なら手に取れば何となく分かるが」
「それを正確に文字にしようとすると、どうしても必要なのは経験と知識って訳だ。マップに関しても、地図を貰えば更新されるが。各地の詳細に関しては実際に足を運ばないと表示されない感じだよ」
ユートピアオンラインの特徴。
それは“ただ一人のプレイヤー”になる為に、多くの事を経験しろという方向性。
初めて見る様な食材であれば、フレーバーテキストなんてろくに出てこないし。
資料を目にすれば図鑑の様な情報は表示されるが、味や食感と言ったような“経験”の文章は表示されない。
ゲームシステム上、謎解きや未知のスキル、そして戦闘用の道具の使用方法などはある程度表示してくれるが。
それ以外は、全て“キャラクターの経験した事”が反映されるのだ。
もちろんスキルだって全部を表示してくれる訳では無い。
だからこそサテライトレイの習得条件は分からなかった訳だし、習得前は効果も正確には書かれていなかった。
まさかあんなヤバいスキルだったとは思わなかったけど……。
「お前自身は……どうだ? 慣れた、という言葉を使って欲しくはないが……大丈夫か?」
やけに心配そうな瞳を此方に向け、更に声を抑えるイズ。
機能がどうこう、あれから変化は無いのか。
そっちに関してではなく、聞きたかったのはそっちか。
「まぁ、元々はゲーム中ずっと見えてたモノだしな。その辺は問題無いさ」
とか何とか、軽く笑って見せたのだが。
相手は少しだけ眉を顰め、ちょっと怒った雰囲気で。
「……おい、クウリ。俺にまで気を使うな」
「……わり、やっぱ変な癖が付いてるっぽいわ。今後の事を考えるなら、せめてイズだけには全部話して相談するべきだよな」
大人組、なんて言ったらおかしいが。
俺とイズに関しては、普通に社会人だったのだ。
ダイラもそうだが、まだ学校を卒業したばかりだったみたいだし。
やはりこの辺りは、俺達でしっかりと考えてから他のメンバーには情報共有したいところ。
これもまた、俺等の自己満足なのだろうけど。
「正直、やっぱ邪魔だわコレ。はっきり言っていらねぇし、半端に情報が掴める分混乱する事も多い。ウィスロンさんの接近とか、俺の能力じゃ気付けなかった影響でマップでも瞬間移動したように見えたし」
「ステータスによっては仕方ない、と言える状況ではあるのだが……やはり便利なものがあれば、無意識にそちらに頼る様になる。だがリアルでは“仕方ない”では済まない、致命的な一手になる可能性がある」
「だな。だったらこんなモンに頼らず、視線と感覚で警戒してた方がマシだ。あると便利だが、万能じゃない分この油断はデカい。戦闘面に関してはこんな所だけど、普段だと迷子にならない程度にしか役に立たん。仲間の位置をマップで追えるのはデカいが、それだって原始的な方法で代用可能だ」
「お前の場合は、それも重要な項目だがな? クウリとトトンは、人混みに紛れると本当に見つからない」
「うっせ」
などと軽口を挟みながらも、現状の報告を上げていく。
未だ運営からのメールは更新されない事。
書かれている内容のバグは修正されず、未だに読み取れない文章が並んでいる事。
ステータスは見る事が出来る様になったが、正直MP総量くらいしか見る意味が無い事。
当然だ。
HPやスタミナが表示された所で、現実ではほとんど意味が無い。
体調や身体の動かし方でスタミナの減り方は随時変わるし。
攻撃の当たり所が悪ければ、どんなに良い防具を付けていようが一発でHP全損だってあり得るのだから。
仲間達が無理して不調を隠している、なんて事があればこれ等の数字で判明するくらいは出来るかもしれないが。
そんなもん、相手の顔と態度を見ていれば大体分かるってなもんで。
「結局、やっぱ邪魔。それくらいの感想しか出てこない……筈だったんだけど」
「どうした?」
ちょっと、気になる点があったのだ。
プレイヤー自身と、仲間達の状態を見る為のツール。
他の項目に関しても、俺自身が“こちら側”の世界を経験しないと更新されないフレーバーテキスト。
これだけなら、本当に邪魔な物が見える様になった程度で済んだのだが。
「ステ情報……妙なんだよ。レベルはそのままだし、レベルキャップが更新された気配も無い。あとはスキル、こっちもツリーには目立った変化なし。俺の場合はリジェネやサテライトレイなんかが表示されてるけど、俺が認識している以上の詳しいテキストも無し」
「となると、何が妙なんだ?」
訝し気な表情を浮かべるイズに対して、此方は答えの無い言葉を紡ぐしかないのが申し訳ないが……こればかりは、やはりコイツに真っ先に相談するべき内容なのだろう。
「ポイント、カンスト以上に蓄積されてるんだ。ゲーム内なら、一定の数字で止まった筈なのに。経験値とスキルポイントだけは、まだ増え続けてる」
「つまり……制限に達していてレベルとスキルは弄れないのに、蓄えだけが未だ伸び続けている?」
その通り。
経験値なんて分かりやすいが、レベルがカンストした所で数字は止まる筈。
スキルに割り振る筈のポイントなんかも上限が定められている為、9999~みたいな表記でそれ以上は増えない仕様になっているのだ。
数字のリセットや、スキルツリーの見直しでもやらない限り、これらはもはや使えないただの数字。
だというのに……その数字が、限界突破して蓄積されている状態。
単純に考えれば、制限が解除されればまだ強くなれる可能性がある。という事になるのだが……生憎と、現状これ以上弄る事は出来なかった。
当然アバターのベースとなるステータス項目に関しても同様。
では何故、こんな数字だけが動き続けているのか。
ヘルプの項目も役に立たないし、聞く相手も居ないというが……なんとも、不安を煽って来る。
この世界に俺等を呼んだ奴は、まだ何か求めている事があるのだろうか?
もしも今ある“カンスト”という枷が無くなった時、この数字を使って更に何かを求められるのだろうか?
そんな事を思うと、やはり不安は積もっていくというもので。
「クウリ~イズ~! なんかすげぇテント売ってるー! こっち来てー!」
二人揃って難しい顔をしていれば、別の店からトトンが顔を出し、デカい声を上げながらブンブンと両手を振っていた。
この光景に、思わずフッと表情を緩めてから。
「ま、ヒントが無いのなら今考えてもしかたないだろう。思考停止は良くないかもしれないが、悪く考えすぎるのも良くない」
「だぁな、今はお買い物を楽しみますかね」
という事で、俺達は他の皆がお邪魔している店へと足を運ぶのであった。
なるべく気にしない様にしてはいるが……やっぱ、コンソール邪魔だわ。
ふとした瞬間に気になって仕方ねぇ。




