第165話 ハッピーバースデー
兵士に同行し、魔獣を狩るお仕事を受けた二日目。
本日も俺は大した活躍が出来ず、周りから「どうしたぁ? “本気”とやらはいつ見せるだぁ?」的な視線を向けられながら帰る事になるのか……などと、思っていたのだが。
「全員警戒! 空から来たぞぉぉ! 術師、弓兵! 対空戦用意!」
隊長さんの一言により、集まっていた皆様が一斉に視線を空へと投げる。
そこに居たのは……もはや懐かしきかな。
空を飛んでいる俺達にバードストライクをかまそうとしてくれた、デカい鳥の魔獣達。
コイツ等さえ居なければ、コイツ等が夜の間も飛び回る夜更かし野郎でもでなければ……なんて感情も湧いてくるのだが。
「待ってましたぁぁ! ハイハイハイ! 俺がやります!」
元気な声を上げてから全力で挙手し、やらせてやらせてとばかりに自己主張した。
周りの皆様から一瞬ポカンとした視線を向けられてしまったが、件の隊長さんだけはニッと口元を吊り上げてから。
「やってやれお嬢さん! お前の本気ってヤツを見せて来い! 術師、弓兵はお嬢ちゃんに続いて攻撃準備!」
一応俺の攻撃を見た事がある? 彼だけは楽しそうに言い放ち。
先手を俺に預けてくれる指示がその場に轟いた。
やったね、来たぜ。チャンス到来!
という事で物資運搬用の馬車によじ登り、空に向かって杖を構えた。
狙う先からは、随分と数の多いでっかいのがパタパタパタパタ。
御大層に集団でやって来るのが見える。
その数、二十数羽ってところ。
本気装備に変更する訳にはいかないが、これくらいなら十分に迎撃可能と言えるだろう。
「っしゃぁ! これまでのフラストレーション、一気にぶつけるぜぇ! 目立って兵士からの推薦状ゲットだ!」
「クウリ~、やり過ぎない様にね~」
「地形だけは変えるなよ? 頼むから」
トトンとイズにはそんな事を言われ、ダイラに関しては本当に大丈夫? みたいな視線を頂いている。
そして魔女に至っては、今回は完全に俺に譲るつもりなのか。
どーぞとばかりに、掌をヒラヒラ。
という事で。
お見せしようじゃないの、“ぶっぱ”に特化した攻撃術師の実力ってヤツを。
「“覚醒”!」
「「「オイ」」」
「“シューティングスター”! “プラズマレイ”! “アイシクルエッジ”! “ルイン”!」
「どう考えても、やり過ぎね」
という事で、初手ぶっぱが楽しいスキルをまとめて使ってみた。
結果、此方からは数々の攻撃魔法が空に向かって放たれ。
数多くの魔法の軌跡と、巨大な氷柱が大量発生。
一斉に飛んでいくが、オーバードライブ状態で使用している為に見た目も派手。
プラズマレイなんか、分かりやすくレーザーの数を増やしているし。
シューティングスターに関しても、そりゃもう輝きと数がこれでもかって程に増加。
更にはアイシクルエッジの氷柱は通常時よりデカいし多いし、何よりも速度が上昇。
それら全てが相手の群れを飲み込み、木っ端微塵になる程の殲滅力を発揮したところで。
最後のルインがブラックホールを生み出し、欠片さえも綺麗に呑み込んでいく。
そんな訳で、さっきまで空を飛んでいた団体さんは綺麗さっぱり居なくなってしまった訳だが。
「満・足!」
「クウリのアホ! やり過ぎだってば!」
「あちゃぁ……やっぱりクウリに“ぶっぱ”を封印させるの、良くないね」
ダイラの叫びと、トトンの呆れ声に視線を下ろしてみると。
周囲からは、何とも言えない視線の数々が俺の方を向いていた。
おっとぉ……そんなに見ないで頂けると助かりますかね。
実力を示さなきゃだから、目立たないといけないのは仕方ないんだけど。
そこまで熱烈に見られると、流石に気まずいんですが。
分かってるよ、やり過ぎたのは。
でもちゃんと目立っておかないと、チャンス無さそうだったし。
そんな事になったら、俺等北に向かえなくなっちゃうし。
だから、ね? 今回ばかりは仕方ないっていうか。
「シューティングスターかプラズマレイだけでも、十分だったな。間違いなくオーバードライブは要らない」
「これなら配下の骨と幽霊を使った方が、まだマシだったんじゃない?」
残る戦闘狂二人の前衛からも、呆れた視線を向けられてしまった。
「で、でもさ? ここでやらないと、俺ホント小技しか使えないし……目立たないと、許可証貰えないかもしれないし……」
「普通の術師なら、その小技の使い所こそ見せ場なんじゃないかしら」
なんかエレーヌから凄くまともな事言われたんですけど!?
すみませんでしたねぇ火力しか盛ってない術師で!
少人数だとサポート技増やすより、メイン火力になった方が都合も良かったもので!
とかなんとか言い訳したくなるのも、アバターの影響を結構受けているからなのだろうか。
いや、これもまた俺の戦闘スタイルと性格のせいか……。
とはいえさっきのは、今更ながらだいぶ子供染みた行動だった気がする。
シュンと反省しながらも、いそいそと馬車の屋根から降りていくのであった。
※※※
「ウィスロンさん、コレは何。いったい何事」
「ハハハッ、流石は“魔王”様。二日目にしてさっそく兵からも認められたそうで、本日はそのお祝いでも……と。我々からの、細やかな贈り物です」
その日の夕食時、ホテルの大食堂にて。
俺たちのテーブルには、随分と巨大な食後のデザートが運ばれて来た。
デカい、ケーキ。
ホテルのデザートだもの、ケーキが出ても不思議じゃない。
けどね、幅がデカいのよ。
普通にホールなのよ、しかも二段。
ウエディングケーキかな? とか言いたくなったが。
何故か蝋燭まで立てられており、傍から見たら完全に誰かのお誕生日だ。
どうやら此方の世界でも、こういうケーキを祝いの席で食べるという風習はあるらしく。
周りの客さん達も、何やら微笑ましい笑顔を此方に向けているし。
以前ギンギラお坊ちゃまに絡まれていた老夫婦とか、アラアラと言わんばかりにニコニコしており、視線が合うと微笑みながら小さく拍手を送って来てくれた程。
確かにお祝いかもしれないが、違います。
本日は誰の誕生日でもありません。
むしろ多くの人前で広範囲殲滅魔法をぶっぱした、俺にとって忌むべき日になったかもしれません。
「あの……ウィスロンさん。多分俺等だけだと、こんなに甘い物ばっかり食えないので……会場に居る皆様にお配りする事などは……」
「もちろん、可能ですよ?」
という事で、巨大ホールケーキは目の前で解体されて行き。
本日夕食を共にしたお客様一同に、スタッフの皆様が配膳してくれた。
なんか妙な感じで目立ったが、まぁこれで一安心……なんて思っていたのだが。
「お誕生日、おめでとう。随分綺麗なお嬢さん達だから、思わず見とれちゃったわ」
「はい?」
「ご馳走様、お嬢さん達。良い一年を」
「ほへ?」
食べ終わった皆様が、結構な割合で一言挨拶に来てから食堂を後にするのだ。
お祝いの席……というのは、間違いないけども。
何度も言うが、実際今日の仕事で通行許可は貰えたし。
けどさ、間違いなく皆勘違いしてるよね。
俺等が戦闘で成果を上げた、なんて微塵も思っていないだろうね。
分かるけどさ。
俺等の見た目、本当に見た目だけなら絶対戦闘員じゃないし。
思わずヒクヒクと頬を引きつらせながらも、続くお礼の御挨拶に応えていると。
「ケーキご馳走様でした! お誕生日だったのは……」
ホテルに家族揃って泊りに来たのか、両親に連れられた小さな女の子が俺達の元へとやって来た。
そして彼女の質問に対し、仲間達が全員揃ってズビシッと俺の事を指さして来る。
おいコラ待てや、誰が誕生日じゃい。とか言いそうになったが。
相手の女の子はとても良い笑顔を浮かべながら。
「私もね! 実は今日誕生日なの! だからここでご飯食べようって、お父さんとお母さんが連れて来てくれたの!」
「そ、そっかー……それは丁度良かった。一緒にお祝い出来て、俺も嬉しいよ~……」
「ケーキまで食べられると思ってなかったから、ありがとうございます! 綺麗な銀色の髪のお姉ちゃん!」
「う、うん……どういたしまし……て? 君も、誕生日おめでとう。良い一年をね」
なんて会話と共に、元気に手を振って去っていく女の子。
その一家を見送った後、テーブルへと視線を戻してみると。
仲間達がプルプルしながら、必死で笑い声を我慢していた。
「相変わらず、年下には優しいよね……クウリ」
「クウリ、見た事無い程優しい顔で、頑張ってニコニコしてたね」
「お、お疲れ様クウリ……それから、誕生日おめでとう」
コ、コイツ等……完全に人の事ピエロにしやがって。
グギギと奥歯を噛みしめつつ、恨みがましい瞳を向けていたのだが。
「別に良いじゃない。あの子、嬉しそうだったわよ?」
「あぁそうですねぇ、結果オーライですよってな。ったくもう、恥ずかしい。この歳で、盛大に誕生日会開かれた身にもなれってんだ」
「誕生日おめでとう」
「お前まで乗っかるなっつぅの!」
結局、魔女にまで揶揄われてしまうのであったとさ。




