第160話 いつの間にか爆弾を抱えていた
そして問題の夕食! なんだけども。
俺とトトン、借りて来た猫状態。
ドレス慣れないし、周りのテーブルには金持ちっぽい人達もいっぱい居る。
見た目的にも女ばっかりの集団が珍しかったのか、何か妙に見られているし。
なんだよぉ! 見るなよぉ……こっちはこの恰好でさえ緊張してんのに、余計に恥ずかしくなるだろうが。
おかしいな、ステラの結婚式の時はこんなにジロジロ見られなかった筈なのだが……。
あの時はアレか、メカドラゴンの首があったからか。
という事は、この会場にドラゴンの胴体とか出しておけば、皆そっちを見てくれるだろうか?
などとアホな事を考えつつ、ひたすら料理を待っていたのだが。
「メニューを見た感じだと、そこまで煩く言われそうな物は無さそうかな? 多分、恐らく。こっちだと常識が違うとかが無ければ」
「あまり汚く食べない限りは問題無い、という事か?」
「こんなのはシルバーの使う順番さえ覚えておけば、そこまで目の仇にされる事なんか無いわよ」
高身長組は、普通に料理の話してるし。
イズはテーブルマナーの最終チェックをしている感じだけど。
「ねぇクウリ……大丈夫かな、俺達。ドレスに零したりしたら、めっちゃ白い目で見られそう……」
「その時はダイラに“清浄”を使ってもらって……って、そういう問題じゃねぇよな。あぁ、せめてオードブル形式にしてくんねぇかなぁ……パーティーの時みたいに。立ちながらでも良いから、端っこで食いてぇ」
低身長組に関しては、座ったままプルプル。
何でだ、何故皆見て来るんだ。
こう言っちゃなんだが、男性陣はまだ分かる。
イズとかエレーヌはモデルみたいだし、ダイラに関してはボディの時点で注目されるのは理解出来る。
魔女以外はアバターだからね、仕方ないね。
でも俺とトトンまで見る必要無いだろ、こっち見んな。
というか何で女性陣までこっち見てんだよ、おかしいだろ。
冒険者連中とか街中で見られるのは、正直もう慣れた。
けどこんな場所でまで注目を集めた事なんぞ無い。
こんな席だったら、俺等なんぞ小娘以外の何者でもないだろうに。
やはりドラゴンの残骸を出すしか……。
「ホラ、そっちの二人。ちゃんと背筋伸ばして、料理も来たみたいだよ?」
ダイラに怒られてしまい、慌てて無い胸を張ってみれば。
目の前には……なんだ? コレは。
なんかすっごく綺麗に盛られた、ちっちゃい料理。
これは、どう食べるのが正解なのだろう?
はて? と首を傾げている内に、スタッフが何やら説明していたが……名前が良く分からないです、長いです。
アイコンは出ているので、今の俺だったら詳細が調べられるかもしれないが。
違う、欲しい情報はそこじゃない。
食べ方とマナーだよ、そっちを表示しろよ不親切だな。
アワアワしている俺とトトンの様子を見て、スタッフはニコッと微笑んでから。
「お客様、此方のシルバーをお使いください。とても美しいドレスですから、ソースの一滴でも垂れてしまっては大変だ。此方もどうぞ、お膝の上に」
「アッハイ、ドウモ……」
慣れてません! ってのが、見た目だけで分かってしまったらしい。
物凄くニコニコしたスタッフが、膝の上にお零し防止の布みたいなのを敷いてくれて、細かい事まで色々と教わてくれた。
というかよく見たら俺等に料理出してくれた人、ここで受付してくれた人と一緒だ。
つまり、こっちは冒険者ですって事を知っている人物。
その為か、相手は妙に此方に気を使ってくれている御様子で。
「お客様さえご迷惑でなければ、私どもでお手伝い致しますが」
「いや、流石にソレは悪いっていうか……滅茶苦茶助かるのは事実ですけど。実際、慣れてないんで」
「では、こちらのテーブルは私が担当させて頂きますね。なんなりとお申しつけ下さい。我々は、お客様にご満足して頂ける為にこの場に存在しておりますので」
とか何とか、格好良い事を言っているダンディースタッフさんはスッと立ち位置を変え、何やら少々不思議な場所に立ったかと思えば……なるほど。
この人、俺とトトンを他の客の視線から隠してくれているのか。
めっちゃ注目されてるのも気まずいってのが、顔に出ていたらしい。
「す、すげぇ……高い所泊ると、こんなサービスまで受けられちゃうんだね」
トトンに関しても、呆気に取られた様子で相手の事を眺めつつ。
改めて、意を決したようにシルバーを掴んだ。
そして俺と一緒に、恐る恐る何か高そうなご飯を切り分けてから口に運んでみれば。
「「うっま!?」」
「こ、こらこらこら! 二人共、声おっきいって!」
思わず呟いてしまった一言に、ダイラからは慌てて注意されてしまったが。
ザ・ホテルマンの男性は物凄くニコニコ。
「お口に合った様で、何よりでございます。お酒のご用意もございますが、如何致しましょう?」
飲みます! と、口から出かかった瞬間。
コラ、とばかりにまたダイラから静かに睨まれた。
「す、すみません……あっちの二人はちょっと。片方は見た目通り幼いのと、もう一方の白いのは物凄くお酒弱いので。あ、俺達……じゃなかった。私達三人は頂きますね。二人には、何か代わりになりそうな物ってありますか?」
もう一方の白いのって言われた。
仕方ないね、俺全体的に白いし。
主に髪の毛が。
「そういう事でしたら、当施設お勧めのお飲み物をご用意させて頂きますね。少々お待ちください。そちらのお嬢様方お二人も、ご期待に沿える物をご用意致しますので。少し間席を離れますが、どうぞ周囲など気にせずお食事をお楽しみくださいませ」
ダイラの言葉に、ピシッとした雰囲気で言葉を返してから下がって行くホテルマン。
す、すげぇ……高いホテル、というか宿ってすげぇ。
相手に合わせて、こんなに気を使ってくれるんだ。
そりゃ料金も高い訳だし、それでもお客さんが多い訳だよ。
ステラの所では、もはや俺等一人一人に専属かって程メイドさんが付いて回ってくれていたので、申し訳ないなぁって気持ちが強かったが……。
こうしてちゃんと客として接してくれると、単純に感動するわ。
高い所は、高いだけの理由があるんだねぇ。
俺は“向こう側”でも、こんなホテル泊まった事無かったからなぁ。
もう世界が違うわーって、圧倒されてばかりだ。
というかトトンの見た目ならまだしも、俺はそれこそ高校生くらいの年齢には見えるアバターだろうに。
一緒に子供扱いされてんの、普通に恥っず……。
※※※
「すげぇ……旨かったぁ……」
「だねぇ~……でも正直、自分が今何食べてるのか、よく分かんなかった」
「分かるぅ~。俺とトトン、旨いしか言わなかったもんなぁ」
何か良く分からない美味しい夕食を食べた後、部屋に戻って即ドレスを脱いだ俺とトトン。
もう満足ですとばかりに、ダレた格好でデカいベッドに二人揃って横になっていれば。
未だ煌びやかな格好をしている皆からは、やれやれとため息を貰ってしまったが。
「しかし、妙に注目を集めていたのは何故だろうな? 自惚れした台詞を吐く様だが、俺達の見た目が……というだけの理由だけでは無さそうだった」
「確かに……そうだね。トトンとクウリが目立っちゃってたからかな? とも思ったけど、それ以上に注目を集めてた気がする。何かこっちの常識に反する事でもしちゃったかな?」
はて? と首を傾げるイズとダイラ。
というか俺とトトン、やっぱり目立ってたんだ。
ごめんて、挙動不審な態度取っちゃって。
などとやっていれば、借りている大部屋の扉からノックの音が聞えて来た。
いつもの癖で、はいはーいとか言って出そうになったが……不味い、ここは高級ホテルだ。
トトンはジャージだし、俺も物っ凄く緩い格好。
慌ててインベントリからドレスに装備変更し、ちゃんと整えてから扉を開いてみると。
「お食事の後ではございますが、軽く摘まめる物とお飲み物をご用意いたしました。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
先程のスタッフが、ニコニコと微笑みながら夜食を持って来てくれた。
わ、高いホテルだとこんな事までしてくれんの? 相手にチップ多めに払わないと。
などと考えている内に、カートに乗せられたツマミや酒を室内に運び込み。
その後、相手はすぐに退室する訳では無く。
「こう言っては言葉が悪いですが……当施設では、代金を支払っていただいた以上、誰にでも平等におもてなしをさせて頂いております。その上で……差し出がましいようですが、一つ私共からお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい? あ、もしかして俺等……やっぱ何か不味い事しちゃってました? だとしたら、すみません」
慌てて頭を下げてみると、こればかりは仲間達も一緒に頭を下げて来た。
魔女だけは、知らんとばかりに早速夜食を摘まみ始めていたが。
「いえいえいえ、その様な事は決して。しかし私から見たお客様の印象は……こう、“目立ちたい”方々ではないと判断いたしまして。お仕事も冒険者とお聞きしておりますし」
「はい、マジでその通りです。俺等めっちゃ平民なんで、目立ちたくないです」
相手の言葉に、全力でブンブンと首を縦に振ってみると。
ホテルマンは少々困った様に微笑みながら。
「でしたら、明日からはお召し物を少々変更した方がよろしいかと。皆様の非常に煌びやかなドレス……あちら、もしかしてかなり位の高いお相手から頂いたものでは?」
え、ドレスの方に問題あったの?
ていうか、この服の出所まで推測出来るレベルでヤバい物なの?
「私の見立てに間違いが無ければ……皆様が身に纏っているソレは、かなり位の高い人間が親しい方々にのみ差し上げる特別な物にお見受けします。生地、色合い、模様。一つとっても全て一級品であり、計算し尽くされたかのような煌びやかさ。であれば、明日も本日の様に目立ってしまうのは当然かと……」
どうやらこの人、わざわざソレを教える為に俺達の部屋まで来てくれたらしい。
凄いね、サービス精神の塊だ。
というのと。
ステラ……頼む、頼むから。
そういう重要な事は、もっと前もって教えておいてくれ。
王族から貰ったドレスを、こんな所でも着回している俺等がいけないのかもしれないけど。
まさか服の一つでここまで言われるとは、流石に思わないじゃん……。
ていうか不味い、俺等ステラに貰ったドレスしか持ってない。




