第15話 厄介事
「さぁ皆様、それではお茶会の続きを――」
「待った待った、それより話す事があるでしょうに」
何やら雑談を開始しようとした姫様? に対し、慌てて止めに入る俺。
こういうのも不敬になるのかもしれないけど……お茶会の間だったら、なんとか許してくれるだろう。
許して、くれるよね? 多分。
ビクビクしながらも、そんな声を上げてみると。
「良くお似合いですわよ? クウリさん。やはり見立ては間違っておりませんでしたわね、貴方の月光の様な銀髪には、漆黒のドレスが映えます」
「ちがぁぁう!」
「相手は王族だぞ、クウリ」
「ク、クウリ……落ち着いて」
慌てた様子でイズとダイラが俺を抑えて来る訳だが、何故かトトンは此方をガン見したまま固まっていた。
分かってんよ、似合ってない事くらい。
そんなに見るな、その珍しいモノを発見して驚いた顔を今すぐ止めろ。
レアエネミー発見して、叫ぶ寸前みたいな顔してんぞ。
というかコイツはアレか? ドレスを着せると物凄く静かになるのか?
鬱陶しい時はドレスを着るように指示を出すか。
「私としては、皆様と親睦を深める為にも楽しい会話を……と思ったのですけれど、駄目でしたか?」
「いや、あのですね。そもそも俺達がこんな所に呼ばれた理由も聞いていませんし。皆高そうな服を貰っちゃって落ち着かないというか、汚したらどうしましょうって感じな訳ですよ。こんなの弁償する金持ってないですからね? 俺等。冒険者なんて貧乏ですからね?」
他の人の懐事情はしらないけど、イメージ的に。
などと思いつつ相手を見つめていれば、悪役令嬢さん……ではなく姫様はクスクスと笑ってから。
「汚れたり、破けてしまった時は代わりを用意しますから。遠慮せず言って下さいまし」
「おかわりが欲しい訳じゃないの! 違うの!」
駄目だこの人、というか俺が乗せられまくっている。
全然話が進まない上に、相手は楽しそうに笑ってばかり。
いったい何のためにココに連れて来られたのか、分かったもんじゃない。
そしてこのドレス、何故かスカートが結構短いのだ。
トトンは割と普通というか、お人形さんみたいになっているのに。
何故俺だけこんな羞恥プレイを受けなければいけないのか。
キャラとして見るなら喜んだろうが、今は中身が男なのだ。
嬉しい筈がない。
「では本題に入りましょうか……私は第三王女、イーニステラ・ローラント・ディアスと申します。以後お見知りおきを」
「……イーニ、えっと」
「フフッ、覚え辛ければステラかローラとでもお呼びくださいな。あっ、敬称も不要ですよ? 公の場では不味いですけど、普段は呼び捨てで構いません」
「じゃぁ、えと……ステラさんで」
「ステラで結構です」
「あー、はい。じゃぁステラ」
名を呼んでみれば、彼女は嬉しそうに微笑むのであった。
凄いなぁ王族、全然名前覚えられる気がしない。
何それ、長い。
そんでもって、第三王女……第三ってどうなの? どれくらい偉いの?
更に言うなら、そんな人が俺達に何の用なの?
色々と混乱しながら、彼女の言葉を待っていれば。
「もうお察しだとは思いますが……はっきり言って、私にはほとんど権力なんてモノがありません」
え、そうなの?
令嬢系のお話とかあまり読まないから、全然分からないんだけど。
王女ってだけで凄いんじゃないの?
「簡単に言いますと、私の歳まで嫁ぎ先も無く、親元で暮している時点でお察しでしょう? 兄や姉は優秀、妹や弟も優秀。でも、私は何も無い。だからこそ、この歳まで“姫様”などと呼ばれている訳です」
「あのぉ……ちなみに、ご年齢は?」
「18です」
若っか! いや普通に若いわ!
でもあれか? 中世とかの世界設定だと、もっと若い頃に結婚とかすんのか。
あんまり詳しい訳ではないが、子供みたいな歳で嫁ぎ先に行くとか、そういうのどっかで見た事ある。
更に姫様って言われれば、政略的な感じになるのかなぁって思っていたけど。
「その表情からするに、お察し頂けた様ですね」
そう言って、少しだけ悲しそうな顔をする姫様。
ごめんなさい、全然理解していません。
ウィキをくれウィキを、ちょっと歴史とか調べるから。
「王家の娘など、他国との交渉材料として使われるのが普通です。しかし私にはその役目が果たせない。コレは私の外見と、中身の問題」
え、もしかして滅茶苦茶性格悪いの?
確かに悪役令嬢みたいな見た目はしているけど。
目とかキリッとして鋭いし、髪とか先っぽがクルクルしてんのはアレなのかな、流行なのかな。
でも見た目が悪いって事は一切ないと思うのだが……。
「私には、魔法適性も無ければ……勉学に関しても普通。更には容姿も目立つ所は無し。つまり政治的な意味で嫁を取るのなら、姉や妹を選ぶと言う訳です。それくらいに私は何も無い、“売れ残り”と言う事です」
「はぁ、そう言う物なんですか」
この世界は贅沢だねぇ、という感想しか残らない。
だってこの姫様、めっちゃ綺麗だけど。
そもそも王妃として迎える条件とか、俺にはよく分からない。
勉学とか魔法適性ってのもいるの?
別に姫様にバトって貰う訳じゃないから、そういうのいらないんじゃないの?
それともこの世界では王様の護衛みたいな扱いで、何かあった時に一番近くに居る王妃がビーム撃ったりする必要があるのだろうか?
ひたすら困惑しつつも、首を傾げていると。
「そこで、私も何かしら“強み”が欲しいと思いまして」
そういう彼女は、キラキラと輝いた瞳を此方に向けて来た。
それはもう、物凄く嬉しそうに。
「クウリさん、貴女のパーティ全員。私の私兵になりませんか!? 今後お金に困る事は無いとお約束しますし、位が必要なら騎士として迎え入れましょう!」
「お断りします!」
即座にお断りを入れてしまった。
いや、無理でしょうよ。
この世界の常識すら分かっていない、更には俺達の実力さえ正確に計れていない上、どこまでやって良いのかも分からない。
もっと言うなら、貴族社会に適応するなんて夢のまた夢。
彼女の私兵として雇われた場合、様々な席に参加する事になるんでしょう?
パーティー会場でこの子が、ステラが襲われた場合どうする?
トトンやダイラなら何とかなるかもしれないが、俺とイズは無理だ。
イズのスキルではパーティー会場を血に染める可能性があるし、俺なんか会場その物が無くなってしまう可能性だってあるのだ。
とてもではないが、ソレは彼女の護衛とは呼べないだろう。
こちらの第三王女は、常に核弾頭を脇に抱えている。みたいな噂が広まってしまいそうだ。
「どうしても、ですか?」
「どうしても、です。そもそも俺等はまだ色々と検証しないと、まともに戦えません」
はぁぁ、とため息を溢しつつ返事をしてみれば。
彼女は更に目を輝かせ。
「では、その“検証”の場を私が用意いたします! 冒険者の依頼として、こちらが全て用意いたしますわ! その上で、もう一度考えてはくれませんか!?」
それは、どういう意味なのでしょうか。
もう完全に、嫌な予感しかしないのですが。
「皆様の実力からして、周辺の魔物討伐では力不足でしょう!? であれば、国として対処しないといけない問題を、皆様に依頼致します! それなら存分に暴れて頂いても結構ですし、いくらでも力試しは可能ですよね!?」
あぁ、コレ……絶対面倒事の予感。




