第146話 単純なバグ技
「んん~……なんだろう! 銀色のカマドウマみたいなのがいっぱい! 数不明、キモイ! でも生モノじゃないだけマシ! ロボット!」
とてもいい加減な報告がトトンから上がり、思わず気の抜けた笑い声を溢しそうになってしまったが。
ちびっ子に続いてイズとエレーヌが飛び出して行き。
「フンッ! ……問題ない! 刃は普通に通るぞ!」
「本当に数が多いだけね。本当に……多いけど」
二人が正面に居た数匹のデカカマドウマを両断した。
確かにロボットっぽい。
銀色の身体に、関節部分は良く分からんギミックが見える。
そんでもって、サイズは多分俺よりデカい。
どうしてこの地域の虫は皆巨大なのか、全く度し難い。
コイツ等メカだろうに、作った奴は何故デカくした。
更に言うなら、どうして虫なんだ。
もっと恰好良いの居ただろうがい。
そしてもう一つ……エレーヌが何故二回言ったのか、よく分かった。
広い室内を埋め尽くす勢いで、銀色のカマドウマがウゾウゾしているのだ。
ついでに言うと、壁にもくっ付いている。
キッショ、俺コイツ等リアルでも嫌いなんだよ。
「魔法は効きづらいって話だが……どうよ!? “チェインライトニング”!」
後衛組も飛び込み、杖の先から雷撃を放ってみれば。
雷に打たれた個体はビクビクと痙攣してから、プシューとばかりに煙を上げて動かなくなった。
ありゃ? 普通に効くじゃん。
とか思ったが……効果があったのは一体のみ。
チェインライトニングなのに、周りの奴等にチェインしない。
つまり叩き込まれた一体に、俺の魔法が飲まれた結果になる訳だ。
倒せない事は無いが、特殊条件付きって感じか。
威力を軽減されている感じはするものの、俺の攻撃なら通るには通る……が、これは確かにやり辛いな。
ダメージ自体はレベル差のゴリ押しで何とかなるが、付属効果を無効化するって雰囲気が近いのかも。
こりゃチマチマやっても時間しか掛からないな。
「やっぱ細かい魔法は駄目だ! キリが無い! 前衛組、悪いけどしばらく頼む!」
「「「了解!」」」
そのまま翼を使って天井まで舞い上がり、フロア全体の様子を確認してみれば。
いるわいるわ……ウジャウジャゴチャゴチャと銀色の虫共が。
さっき攻撃が一匹だけに吸われたのは、恐らく個別攻撃のスキルだったからこそ。
全体攻撃が出来る放射系なら、まとめて呑み込めるとは思うのだが。
生憎とココは屋内、しかも結構な数のフロアを真っすぐ突き抜けて来たのだ。
このまま大技を使えば倒壊の恐れもある上に、崩れた場合には現在地のすぐ上が地面、または天井だけとは限らないとも限らない。
もしも屋根の上はドデカイ山でした、なんて事態になったら間違いなく生き埋めになる事だろう。
いや天井が降って来るだけでも十二分に脅威なんだけどさ。
つまり、壁や天井には攻撃を届かせず。
更には地中だった時の事も考慮して、あまり強い振動を起こす訳にもいかないと来たものだ。
ついでに言うと、相手は古代とも言える時代からココを守護しているメカ共。
エージングなんかの風化の呪いも、大した効果は期待できないだろう。
となると、やはり個別攻撃を繰り返す他ない訳で。
俺に出来る事と言えば、ドレインを使って相手の魔力を吸い上げるか。
それとも個別にチマチマ低火力スキルを連発するかの二択。
こういう時だけは、極振りキャラってのは本当に使い辛い。
というか、この環境がとにかく俺に合っていない。
「チッ! 仕方ねぇか……」
舌打ちを一つ溢してから地面に戻り、正面に杖を構えた後。
「数が多過ぎる! 次の扉までの距離も長い! “合わせ技”で一気に片付けるぞ! 前衛組、後退!」
此方が叫ぶと同時に、前衛三人がすぐさまバックステップ。
やはり思う存分戦えないというのが痛いポイントの様で、誰もが一匹ずつ潰している状況だったみたいだ。
三人共あり得ないくらいの速度で殲滅している訳だが、それでも相手の数が圧倒的と言って良い環境。
このまま前衛組に任せれば対処可能ではあるだろう。
しかしながら……それでは“俺達らしくない”というモノ。
ていうか、時間が勿体ない。
「ダイラ、皆と……あと俺の防御、頼むわ」
「了っ解。“アレ”使ってる時、ルインと一緒で動けないんだから。変な所で発動しないでよね?」
トトンとエレーヌがダイラの後ろへ飛び込んだ瞬間。
ウチの補助兼魔法盾が、ニッと普段は見せないやる気の満ちた表情に変わった。
うっし、んじゃやりますか。
「イズ!」
「合わせる! いつでも良いぞ!」
杖を天井に向け、俺の二つ目の奥義を発動させていく。
今ではサテライトレイもあるので、正しくは三つ目になる訳だけども。
足元からは紫色の魔法陣が広がって行き……その大きさは、このフロア程度ならすっぽりと収まってしまいそうな程。
「「“覚醒”!」」
イズと共にオーバードライブ状態に持っていき、準備は完了。
攻撃魔法を特化させた影響で取得できた奥義、“デウス・マキナ”。
そしてコッチは、とにかくMPの総量を増やし、呪術系にステを振り分けた影響で発生した奥義。
その名も。
「奥義、“無限の狂乱”」
スキル名を呟いた瞬間周囲に広がった魔法陣は、より一層薄暗い色の光を放ち。
更にはその光を浴びた仲間達の瞳が、俺と同じ紫色に輝いた。
呪術師らしいとも言える、仲間達に呪いを掛けるぶっ壊れスキル。
ただし行使したプレイヤーにはとにかく制限が多いという、本来は前に出ない術師こそが手に入れたい代物だ。
使用者はスキル行使中、移動どころか一切の行動が不可能。
その身に受けるダメージは三倍にも膨れ上がる。
つまり攻撃を受ける事自体がタブー、守られていないと絶対に行使不可能な奥義。
もっと言うなら使用者のMPはゴリゴリ削れていき、魔力が空になると同時に効果終了。
要は最大MPがあればあるほど効果が続くって訳だ。
適当に作ったキャラクターでは、覚醒時間どころか十秒保たせるのだってヒーヒー言う事だろう。
しかしコレだけの分かりやすいデメリットを発生させるコイツは……メリットに関しても一級品。
コレの効果は、非常に単純明快。
“無限の狂乱”の範囲内に居る間……パーティメンバーの消費MPを完全にゼロにするのだ。
「イズ!」
「奥義……“一閃”!」
それだけ言って、イズの姿が掻き消える。
視線を更に先へと向けてみれば、残っているのはアイツが放った斬撃が纏った炎の軌跡のみ。
たった一撃。
それだけでまとめて数多くの敵を叩き斬った上に、残された炎が戦場を火の海に変えていく。
その光景に、思わず口元が吊り上がった。
奥義“一閃”。
これだって、かなりの制約がある使い辛い技なのだ。
はっきり言って、使いこなせる奴の方が少ない。
本人曰く視界はジェットコースターよりも酷い事になる上に、刃を振り抜くのは自分自身。
つまり剣術ド素人が振るった所で、どんなに強いキャラクターを作ろうがまともに当たりゃしない。
しかもこの一撃で全てのMPを使い切るという、とんでもない自滅技。
だが、その分効果も頭がおかしい。
自らの持てる最大火力、要はクリティカルや設定したスキルを含めた追加ダメージや攻撃範囲。
武器の付与効果も含め、とにかく“キャラの出せる最大ダメージ値”の2倍を瞬間的にぶち込む攻撃。
バフや武装のダメージ追加効果も重複する上に、刃さえ通れば相手の防御力を無視する確定ダメージという壊れっぷり。
全てをこの一撃に乗せる、正真正銘イズの最大火力と言う訳だ。
そんでもって、何故こんな有象無象にその一撃を使わせたのかと言えば。
「“一閃”のスキル、一撃なんて書いてあるけど……MPが空にならないと、効果続いちゃうんだよねぇ」
だからこそ、俺との合わせ技。
正直、修正されていないバグを使った反則技とも言って良いと思う。
此方の“無限の狂乱”と、イズの“一閃”。
一発でMPを空にするスキルなのに、俺の奥義のせいで空にならない。
効果はそのまんま。
つまり俺が魔力切れにならない限り、俺が討伐される心配がない限りは。
イズ、正真正銘の無双状態。
俺が絶対安全であり、この時間内にフィールド内全ての敵を絶対に狩り尽くす必要はあるのだが。
「「クハハハハッ!」」
二人して、テンションがぶっ壊れた。
目に見えない程の速さで駆け回るイズ、残されるのは斬撃の炎のみ。
実際の所制御の方が難しく、とてもじゃないが普通はこんな事出来ないらしい。
非常に単純なコンボである為、他のプレイヤーも真似しようとした者も居たのだが。
誰も彼も、イズの様に動ける剣士は一人としていなかった。
倍速の様な速さでギュンギュン動き回る視界に、剣を振り抜くタイミングはプレイヤー次第。
PVPであれば、間違いなく一撃で相手のHPを全ロス出来る火力の、文字通り“必殺”のスキル。
ただし、使用者を選ぶという訳だ。
そんでもって、コレは俺が絶対安地に居ないと成立しない組み合わせなので。
こちらが攻撃に参加する様な戦場では、絶対にやってはいけないタッグ技。
エレーヌの時にコレをやったら、間違いなく俺の首が飛ばされていた事だろう。
アイツ、この状況のイズにも対処しそうだし……此方のMPが切れる前に倒し切る自信とか持てなかったし。
まぁソレは良いとして。
フロアを暴れ回るイズ、魔力タンクの代わりになっている俺、そして此方の奥義の恩恵を受けながら防壁を張り続けるダイラという。
ある意味物凄く頭が悪い“ぶっぱ”が繰り広げられ。
結果として、フロアは瓦礫の山が広がる無法地帯と化した。
銀色の昆虫共は、文字通り瞬く間に駆除されていく。
イズの武器、攻撃範囲拡大とか多段ヒットとか色々付いてるからね。
そんなモンを正確に叩き込まれたら、どんな軍勢でもこうなるよね。
仕方ない、こればかりは。
身体が動かない為、うんうんと心の中で頷いていると。
「相変わらず、ひっどぃ組み合わせだよねぇ……こればっかりは、他の人からチートって言われても仕方ないと思う」
「まぁクウリの執念含めた特化と、イズのプレイヤースキルありきだから……ただのバグ技って事で。この二人を真似してキャラ作った人達も居たけど、ちゃんと成功させてるの……この二人しか見た事無いし」
「ちょっと楽しそうね、アレ。私にも出来ないかしら」
背後からは、非常に呑気な声が聞こえてくるのであった。




