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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
6章

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第137話 観光地の向こう側


「遺跡、だなぁ見事に」


「人、多いねぇ……ホントに観光地だぁ」


「クウリとトトンは手を繋いでてね? また逸れるよ?」


「皆見てくれ。名前を出すと戦争が起こる件の焼き菓子が売っていた、コッチでは丸甘味焼きと言うらしい。中はカスタードに近い物のようだ」


 翌日、件の遺跡にやって来た俺達。

 完全に観光地として整備してあるらしく、遺跡直通の乗合馬車の他。

 入り口付近には大量の露店、そして内部に入ると歩くスペースが決まっていて、順路を巡る形式になっている様だ。

 飲食厳禁という事も無いらしく、結構食べ歩きしている人達も多々。

 古代遺跡、なんて言ってももはや調べ終わった後の代物という事なのか。

 扱いとしては、結構雑の様だ。

 と言う事で、俺達もイズが買って来た大判焼……今川焼き……もう良い、コッチで言う丸甘味焼きを齧りながらテクテク。

 おー、ゲームなんかに出てきそーってな感想を残しつつも、コレと言って目立った物は無し。

 こりゃハズレかなぁなどと思っている内に、観光客が入れるであろう最深部まで辿り着いてしまった。


「でっけぇ~扉」


「何か色々書いてあるねー」


「パンフレットだと、この先に“門”らしき物がある……みたいだけど、普通の方法じゃ開かないって書いてあるよ? ココから先は関係者以外立ち入り禁止書いてあるし、全部調べ終わった訳じゃないのかな?」


「RPGなら謎解きが始まるか、エピッククエストが更新されそうだな」


「どっちにしろ、その物を確認出来ないのならハズレね。この何とか焼き、最後の一個食べて良いかしら?」


 各々感想を洩らしながら、最深部にあったドデカイ扉を見上げた。

 とは言っても、扉だーくらいにしか感想が出てこない。

 ステラの結婚式まで暇だからって事で出て来たけど、完全に観光になってしまったな。

 別に良いんだけどさ、これまで忙しい事ばっかりだったし。

 たまにはこうして異世界観光も悪くはな――


「ねぇクウリ~こっちの石碑、めっちゃヒント書いてあるけど。コレでも開かないのかな?」


「んぉ? どれだー?」


 最後の焼き菓子の半分を魔女から分けてもらい、適当にモグモグしつつトトンの方へと近付いてみれば。

 これまたデカイ石碑……なのは良いんだけど。

 うん、確かにヒントがデカデカと書いてあるな。

 ゲームの謎解きとかでも思った事あるけど、鍵の掛かった扉の近くにコレがあったらダメじゃない? ってくらい分かりやすい感じで。

 とはいえ、文字が何と言うか……達筆というか。

 歴史の本でしか見た事無い様な形の文字をしており、非常に読みづらい。

 こういう場合は、読める所だけ拾ってどうにか謎解きするってのがセオリーな訳だが。


「西……光の、なんだ? 盾がどうとか。東に月の……?」


「随分と古い書き方ではあるが……まぁ要約すると。西に光の星……つまり太陽だな。が落ちる頃、掲げられた盾はどう見えるか。東から上る月明かりに照らされた剣の色を答え、南に鏡を供えよ。そして最後に北に瞳を向ければ、門は開かれる。雪の舞う季節……つまり今か。は、この形で良いそうだ。夏は上下左右を逆にせよ、と。何にせよ、半年に一度門は閉ざされると書いてあるな。開けっ放しには出来ないと言う事か」


 ウネウネした文字に苦戦していれば、隣から覗き込んで来たイズがスラスラと解読し始めた。

 わぉ、イズのお家は剣術道場だとは聞いていたが。

 古文にも強いのね、まさに古き良きお家柄ってヤツだろうか。

 なんて事を思いつつ、謎解きに関連しそうな物を探してみると。


「あーなるほど。アレかな? 門の脇に、模様が描いてある石板がいっぱい並んでるね。あれをどこかに、それから指示通りに嵌めれば開くんじゃない?」


 とか何とか、ダイラの指さす方向に視線を向けてみると。

 いやぁ、見事に緩い謎解きって感じのアイテムが転がっているじゃありませんか。

 とはいえ石板の数が多い事多い事。

 つっても、こんな分かりやすいヒントがあれば誰だって開けられるだろうし。

 やっぱりココには何にも無かったと見るべきなんだろうなぁ……。

 と言う訳で、満足したとばかりに皆揃って出口へと足を向けたのだが。


「貴女達、アレが読めるのね? 本当、多才の様で羨ましいわ」


 ポツリと呟いた魔女の一言に、全員揃ってピタッと足を止めてしまった。


「……え? だって普通に書いてあるじゃん」


「書いてはあるわね、“よく分からない文字”が。そっちの世界の言語なの?」


 はい? と首を傾げてから、もう一度石碑の方へと振り返ると。

 俺達に続いて文章の解読に入ったらしい男女が、キャッキャウフフしながら文字を指さしている。


「いいかい? 僕の研究だと、アレは女神と神の恋の物語が描かれていて……」


「流石、博識なのね! 貴方ならまたいつか、この扉だって開けちゃうんじゃない?」


 傍から見ていると「うげぇ……」となりそうな程イチャコラしているカップルが盛り上がっているが、残念な事に彼氏には扉が開けそうにない。

 つまり、現地の人達は本当に読めないという事。

 踵を返して、もう一度石碑を覗き込んでみると。


「あっ、なるほど」


 エレーヌの言っている意味が分かった。

 コレ、日本語だわ。

 達筆な文字で読みづれぇ! という感想が先行して、ここに“向こう側”の文字がある事の違和感が抜け落ちていた。

 つまり、ここって。


「俺等みたいな、転生だか転移して来た日本人が関わってる遺跡……って事?」


 もしもエレーヌに聞いた通り“門”とやらが、それらの事情に深く関わっているとすれば。

 これもしかして、大当たりを引いたのではないか?


 ※※※


「今度は遺跡調査、ですか……しかも一日貸し切りで」


「……やっぱステラでも厳しい?」


 一旦お屋敷に戻り、お姫様に“あの遺跡調べさせてー”ってお願いしてみたのだが。

 相手はものっ凄く渋い顔をしていらっしゃる。

 まぁね~、アレだけ人が集まる観光地になっちゃってるしねー。

 貸し切りなんかしたら、それだけで結構な損害だろうし。

 入場料だけでも、一日の売り上げ凄そうだしなぁ。

 ある種駄目元ではあったのだが、出来れば調べておきたいんです。

 と言う事で、姫様権力を頼って我儘を聞いて貰えないか相談してみたのだが。


「どうにもあそこは、大手の魔道具研究所が管理しているらしく……私からでは当然無理ですし、夫の方でもすぐに手を回せるかどうか……」


「魔道具の……研究所? なんでまた」


「あぁ、それはですね」


 なんでもあの扉、何千何万通り……いや、石板の数を見るとそれ以上か?

 それを全部試す勢いでゴリ押しした結果、過去に開いた事はあるんだとか。

 しかししばらくすると扉が閉じてしまい、また一からやり直しという。

 石碑の文字も変わった事を確認しているらしく、調べるまでに結構な人手を使わざるを得ない場所。

 おぉー石碑の文字まで変わるのか、とは言っても“読めれば”大した事は無いのだろうけど。

 んで、問題はそこから。

 過去に扉が開かれた時、その初回。

 どうやら最初はゴーレムが立ちはだかる様にして現れたらしい。

 しかもこれまで見た事無い程に巧妙な作りだったとかで、魔道具の専門家達がえらい金額を出して所有権を申し出たのだとか。


「と言う事で現在はそのゴーレムも居ませんし、残されていた古代の資料などは全て持ち出された後ですよ?」


「ま、だろうね。その資料を見せてもらうって事が出来たりすると嬉しいけど、むしろそっちの方が難易度高そうだな……だったらやっぱ、チラッとでも良いから中の方を見ておきたいなぁ……」


「好奇心旺盛ですねぇ、ホントに」


 貴女だけには言われたくありません。

 と言う事で、いきなり手詰まりかぁ~とため息を溢してしまった訳だが。


「あるとすれば相手がクウリさん達に興味を示して、向こうから協力をお願いしてくる。などの状況を作れれば早いのですが……相手は魔道具専門、つまり興味を示すのは道具です。それこそ生活必需品から、戦闘に至る道具まで携わっている方々です。流石に彼等を黙らせる様な物をお持ちでは……ない、ですよね?」


 そう言ってお茶を濁す……かと思いきや、チラチラと期待の籠った瞳を此方に向けて来る王女。

 おい、コレ完全に珍しい物出せって言ってますよね。

 しっかし……トトンが遊びで作った様なモノでも、“こっち側”では結構エグイ効果になっちゃいそうなんだよなぁ。

 そもそもトトンの専門は“ソッチ”じゃないし。

 鍛冶師スキルを存分に発揮するのは、そう言った便利道具ではなく俺達の武装関係。

 コレをメインに置きながら、他は完全に“趣味”に走ったステ振りをしているのだ。

 俺達が全員で協力して「やりたい事やろうぜ」ってパーティだったのもあるが、そう言う意味でも汎用性は皆無。

 こっちの魔法の仕組みすら完全に理解出来ていない俺達が、専門家を唸らせる程の代物を用意出来るかと言われると……どうなんだろう?

 これまでみたいに、とりあえず高威力出しておけば良いやーって訳では無いだろうし。

 ちょこっとプラス値とか付けて、それっぽく調整する事は出来るかもしれないけど……。

 そこまで試行して、一つ可能性を思い付いた。


「カマかければ……あるいは?」


「お、お? 何かあるんですね? 今度は何が出て来るんですか?」


 ズイズイと迫って来る王女様に対し、コッチはポケットから先日購入した指輪をポイッと投げ渡した。

 そいつをマジマジと見つめるステラだったが、ジトッとした眼差しを俺に向け。


「これ、市販品ですよね? このブランドは私だって知っていますよ?」


「そ、市販品。しかも昨日、この街で買ったヤツ。そんな物を“手遊び”で、強化と高火力魔術を付与した術師と鍛冶師が居る。本来魔道具とも言えないソレだが、攻撃用魔道具にも引けを取らない程の一品。根底から違う、なんて言われればそれまでだが。そもそも魔道具ってのは、“魔法の道具”だ。お前等にソレが作れるか? なーんて言ったら、ムキになってくれそうな人達だったりする?」


「ほほぉ……それはまた、面白そうな事をやったみたいですね。つまり私は“煽り”を入れた上で、一日でこんな物を作り上げる人達の情報を彼等に提供すれば良いと」


 此方の言いたい事は伝わったらしく、姫様が少々悪い顔をしながらニッと口元を吊り上げた。

 ハッハッハ、この人がこの顔すると怖ぇ。

 旦那さんゴメン、貴方の嫁さんは少々コッチ側に染まり始めてしまいました。


「そゆこと。どうよ? 交渉出来そう?」


「この指輪次第、とはなりますが……もしもクウリさんの魔法の一つでも発射されれば、驚かない人など居ませんわ。切っ掛け、としては十分かと」


 そんな訳で俺達は、二人して黒い笑みを浮かべるのであった。

 ちなみにソレを見ていた仲間達からは、これまた深いため息を溢されてしまったが。

 どうせこんなの俺達じゃ使わない中途半端な品だし、あげちゃって良いよね?


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