第136話 インスタントマジック
「おぉ~、見事に無駄使いしてきたね~クウリ」
「無駄遣いって言うなダイラ。話を聞かせてくれた礼ってのと、コレは実験台だよ」
俺達とは別に、何やら色々とお話を伺って来たダイラからは呆れた瞳を向けられてしまったが。
ため息を溢しながらも、街中だというのに随分と綺麗な指輪をピンッと指で弾いた。
コインの様に空中でクルクルと回るソレを、パシッと掌でキャッチしてから眺めてみれば。
思わず……もう一度ため息が零れる。
確かに綺麗な鉱石の指輪ではあるし、角ばった感じのカットデザインもわりと好きなのだが。
“向こう側”の感覚で言うと、こんなのが給料二ヶ月分くらいするんだもんなぁ。
いやはや、何処の世界でもアクセサリーとブランドって奴は怖いね。
「魔術付与の練習台なら仕方ないさ、コチラ側の“上物”がどの程度か調べないとな。あの値段だから、少々勿体ない気もするが……」
俺の掌からヒョイッと指輪を持ち上げたイズが、興味深そうにソレを見つめている訳だが。
これ程高いアクセサリーだって、俺等にとっちゃ耐久テストに使う破損前提の捨てアイテムみたいなもんだ。
そう言いたくなる気持ちも分かるが。
「ま、どれくらい付与出来るかってのと。あとはどれくらいやったら“こっち側”のアクセが壊れるかってのは、実験しないとわからんしなぁ。それから、そういう物でもトトンのスキルで直せるかってのも試したいな」
「あー修繕だけなら可能かもしれないけど、下手に弱いアクセだと完全破損とかあるもんねぇ。あぁなったら、もうゴミ確定だし」
ほへー、と。あんまりやる気の無さそうなトトンも、イズが持っている指輪をジロジロ。
傍から見れば、お姉さん系美女からアクセを見せて貰っている幼女にでも見えるのだろうか。
まぁ、街中でやる事じゃないのは確かだろうけど。
俺なんかソレで手遊びしてたんだから、余計駄目だよね。
スリにでもあったらどうしましょ。
この面子だと、ソイツが殺されないか心配しちゃう。
「そう言う事。魔法付与に関しては俺とダイラ、現物に関してはトトンだな。よろしく~」
「「あーい」」
そんな訳で、しばらくはコイツの実験って事で暇が潰れるだろう。
とはいえ、ずっとそんな事をやるつもりは無いが。
あとやる事と言えば、やはり本日お話を伺った遺跡について。
何でも観光地になっているくらいだし、乗合馬車で気軽に足を運べるらしい。
なので、一度そこには行ってみようと思う。
ほんっとに御伽噺程度の内容だったのだが、まぁ何か分かれば良いねぇーくらいの感覚。
その他で言うと、ココで売れそうな鉱石の選別。
以前の火山地帯で使った様な鉱石は基本的に武具に用いられるが、今回売れそうなのはどちらかと言うと換金アイテムだったり、特殊装飾系。
前回同様鉱石のまま売ろうとしたりすると、色々足が付きそうなので……試しに装飾品を一から作ってみるかー、という思い付き。
んな事しなくてもステラがこっちに付いてくれた以上、色々とやり様はありそうなのだが。
まぁそろそろ、これまで使ってこなかったスキルを試し始めても良い頃合いだろう。
金にも余裕は出来たし、この街に居る間は時間が余りそうってのもあるので。
「トトン、明日からは雪以外の物で遊ばせてやるよ」
「とか言って、今日お店で宝石の値段見てビビっただけじゃないの?」
「ま、ソレもある。別にいいだろ? ゲームの時は違う感じだけど、頼むぜ?」
「りょーかい、時間は掛かるけどね。確かにあんな金額払うなら……“自分で”作っちゃった方が早いもんね」
ニッと口元を吊り上げる俺に対し、トトンはニシシッと悪戯っ子の様な笑みを向けて来た。
コイツがサブ職業で鍛冶師を選んだ本当の理由、というか切っ掛け。
久々に全力の“お遊び”を見せて頂こうじゃないの。
※※※
とりあえず買って来た指輪で色々実験してみましょー! てな具合になり。
現在、姫様から用意してもらった工房。
お目付け役のメイドさんには申し訳ないが、“現地人”の実験台として協力をお願いした。
その彼女は、本日俺が購入した指輪を人差し指に嵌め。
非常に緊張した面持ちのまま、天井からロープでぶら下がった丸太に掌を向けた。
「い、いきます……本当に、絶対大丈夫なんですよね? 急にビームが出たり、指輪が爆発したりしませんよね!?」
「それは大丈夫。そもそもそっちの攻撃魔法は付与してないし、耐えきれなくても指輪が破損する程度……の、筈」
試しに俺が使った時は、普通に発動したので問題は無い。
と、思うんだけどね。
現地の人が使った場合が分からないので、彼女にお願いした訳だ。
ダイラの保護系魔法を付与した状態で。
まぁいつかのダンジョンアタックにも付いて来た人だし、かなり肝は据わっていると思うのだが。
何故か、俺の魔法という言葉を聞いた瞬間からやけに警戒している。
解せぬ。
「で、では……“シャドウバインド”!」
本来は俺が使うスキルであり、この人に闇属性の適性は無いとの事。
しかしながら無事魔法は発動して、影が具現化した様な物体が的に向かって伸びて行き……見事、丸太を拘束してみせた。
「おぉ~普通に使えそうじゃん」
「……私が縛られた時より、魔力が随分弱い様に感じるけど?」
「そりゃまぁ俺の魔法の劣化コピーみたいなもんだから。あとはアクセ付与だと、どうしても威力にレベル制限が掛かる。同等の物を使い捨てとはいえ連発出来たら、それこそチートだからな」
「よく分からないわ」
はて、と首を傾げるエレーヌに説明してみたが、やはりゲームの内容だと意味が分からない様で。
コッチの魔道具と比べてどうかって意見も欲しかったのだが、ソレに関しては詳しい人に試して貰わないと分からないか。
あとは、あまり強すぎるスキルを付与すると破損しやすいんだけどねぇ。
ま、一発屋の使い捨てでも無いよりマシか。
ゲームでは育成途中の初心者とかが、こういうの持ってると有利ってのは確かだった訳だし。
中盤以降からは、インスタントマジックなんぞ使わずに能力値に直接左右する装飾品の方が重宝されるからな。
とか何とか考えつつ、何かフルフルしているメイドさんに声を掛けようとしてみれば。
「あ、あの……た、たたた……」
「たたた?」
真っ青な顔で、彼女は此方を振り返り。
そして、思い切り頭を下げて来た。
それはもう、土下座せんばかりの勢いで。
「大変申し訳ございません! これ程の効果がある魔道具を……私は、壊してしまいました……どうか、どうか命だけは!」
何か凄い事叫んでいる彼女の指先を見てみると、指輪に見事な亀裂が入っていた。
ありゃまー、俺が使ったのも合わせてバインド二発で破損するとか。
こっちのアクセは弱いねぇ……ゲーム感覚で言えば店売りなんだから当然。
しかしコイツはリアルの職人さんが作った一級品、ではないかもしれないけどアレだけ高かったのだ。
なのにここまで脆いとなると……これは本格的に、一からコッチで用意してあげないと使い物にならなそうだ。
「あーいえ、ホント大丈夫なんで。気にしない気にしない。てか、使い心地とかどうでした?」
「小型の魔道具でこれ程の効果が発揮する物なんて、早々見かけませんよ……あったとしても、普通の家なら建つ程の金額はするかと……。そんな物を、私は……私はっ!」
「いや、どっちかと言うと俺のアバターのレベルが原因なんで……ホント、大丈夫ですから」
未だ青い顔で頭を下げ続けるメイドさんを助け起こし、ひとまず指輪を回収。
そんでもって、ポイッとトトンに投げ渡し。
「どうよ?」
「んー、鉱石足して良い? 欠けてる部分の材料は戻ってこないだろうし。でもまぁ多分直るっしょ」
物凄く緩い感じで、トトンがインベントリから鉱石アイテムを取り出し。
そして、ハンマーで軽く叩く。
以上、修復終了。
「直ったぁ。ゲーム通りなら、付与は消えてるからねー」
「んじゃ今度はダイラの方を試すかー」
「はいはーい」
皆して呑気な声を上げつつ、実験を続行。
その後何度かメイドさんが俺達のスキルを行使したが、やはりこの指輪では数回使うと破損するみたいだ。
そこまで強いスキルじゃなくても駄目となると、ほんっとただの装飾品だなコイツ。
いや普通の装飾品なんだけどさ。
こんなもんかとばかりに、何度目か分からない修復をトトンに頼んでいると。
「貴女達、本当に滅茶苦茶ね」
「魔法付与とか魔道具の修復って……こんなにすぐ出来るモノでしたっけ……」
魔女からは呆れた視線を、メイドさんからは摩訶不思議な存在を見た様な目を向けられてしまった。
此方としては非常に地味な実験な上に、俺等だと使い所のないアイテムを作り出している状態なのだが。
もしかしてこれ、魔道具師として一財産稼げるんじゃ……いや、絶対面倒臭い事になるから止めよう。
スキルノート使って、現地の人なりに覚えてもらうくらいの方が丁度良いというモノだろう。
コレじゃ普通に犯罪とかに使われそうだし、そういうの面倒くさい。
というか、俺等が魔道具作りに飽きる未来しか見えない。
「イズは何かリクエストあるかー?」
「ガスバーナーに近い物って、作れたりするか? 可能なら、炙り料理が簡単に出来るぞ」
それは確かに欲しいけど、多分街中で探した方が良いわ。
初級魔法ですら、黒焦げになると予想出来てしまうので。
俺等のスキル、基本的に普通の生活に向いてないのよね。




