第135話 可愛くないお買い物
「お祝いで渡されても嬉しくない物ってなーんだ」
案内人のメイドさんに付いて行きながら、街中をブラブラする俺達。
その間に、仲間達に向かってそんな質問を投げかけてみると。
「消耗品ならまだしも、家に飾る物……とかかな? どうしたって趣味が合わない事だってあるだろうし。変な物貰っても、ねぇ? わざわざ聞きだしたりすると遠慮されそうだし、相当仲良くないとサプライズは愚策じゃない?」
真っ先に答えたのはダイラ。
コイツはアレだね、“向こう側”では色々あったみたいだけど。
他人との付き合い方って意味ではきっと、俺等の中で一番上手いんだろうな。
仕事云々じゃなくて、個人的な付き合いという意味で。
「まぁ、確かにな。そう言う意味では、本来高価過ぎる贈り物は友人間でするべきではないだろうな。お歳暮などでも毎度思っていたのだが、今度はこちらも相応で返さなければという思いに駆られる」
という意見のイズ。
いやもう君はどんな家庭に住んでいたんですかって聞きたくなるね、ホント。
今時お歳暮とか、義理堅い会社付き合いなんかでしか見ないよ。多分、知らんけど。
少なくとも俺は個人でそんな事をした記憶は無い。
「付き合いがどうとかは、俺には良く分かんないな~。でもゲームなら、皆から何貰っても嬉しかったけど。あ、でも。なんか俺もあげよって思うから、イズのはそういう感覚に近い?」
などと話しつつ、トトンはその辺をテテテッと行ったり来たり。
お話し中は集団行動しなさい、ちびっ子。
また迷子になる上に、その辺雪だらけなんだから転んでも知らんぞ。
などと考えていれば、見事にズルッと。
普段バランス感覚物凄いのに、気を抜いてる時はこれだ。
皆して「あっ」と声を上げてしまった訳だが。
「私がこういう事を言っても、あまり説得力はないけど。気持ちさえ伝わるのなら、何だって嬉しいモノじゃないかしら」
サラッと綺麗な台詞を言い放った魔女が、ずっこけそうになったトトンを後ろからキャッチ。
結果、超モデル級美女に抱きかかえられるちびっ子が爆誕し、周囲の注目を集めていた。
相も変わらず、凄い反応速度です事。
そして何やってても、美人は絵になるもんだね。
「その心は?」
「別に、そんな大層な考えや経験がある訳ではないわ。けど……大好きな相手からの贈り物なら、花の一輪だって私は嬉しかった。それだけよ」
なんて言いつつトトンを元の体勢に戻し、そのまま手を繋いでこっちに帰って来るエレーヌ。
うん、アレだ。
やっぱり根っからの女性は、俺等とは違うね。
回答が非常にロマンスに溢れており、まさかの経験談と来たものだ。
思わず拍手でも送りたくなってしまったが、今考えているのは結婚式のお祝いね。
恋人に送るプレゼントではないんですわ。
「ま、美的センスはエレーヌとメイドさんに任せるとすっか」
「そうだな、それが良いと思う。俺達が選んだら武骨な物になりそうだ」
「二人共……思考放棄しないでちゃんと考えるの。例え選んでもらっても、渡すのは俺達自身なんだからね?」
とかなんとか、非常に普通のショッピングを楽しみ始めてしまった俺達。
……うん、これまでの旅路と方向性が違って何か馴染まない。
でもまぁ、これも経験って事ですかねぇ。
はぁ、と白い息を吐き出しつつ、再び皆でメイドさんの後に続くのであった。
※※※
「この辺などのアクセサリーは、最近街中で流行っておりますね。とはいえ貴族の御婦人方、という意味合いなので……王族に送るとなると、もう少し煌びやかな物が一般的にはなってしまいますが」
「形的には好ましいけど、宝石とか付いてるともっと良い。みたいな感じですかね? ちなみに鉱石系はどんな種類が良かったり、大きさとかカットスタイルとか。そう言うのもこっちの常識の範囲から教えてもらえると……」
「畏まりました、ダイラ様。では店の奥に案内して頂きましょう。多くの種類を見るなら、店内よりもそちらの方が分かりやすいでしょうから」
何か凄く高そうなアクセサリー店でウインドショッピング~! とか気楽に出来たら良かったのだが。
無理です、はい。
店員さんはニコニコしているけど、間違いなく客を監視してるし。
そこら辺に飾られている物だって、ちょっと触れただけで高額請求されそうな程に煌びやか。
思わずヒクヒクと口元を引きつらせてしまったのだが……こういう場所に強いのが、ダイラ。
ものっ凄く普通にメイドさんや店員からお勧めを聞き出し、今では店の奥へと連れて行かれてしまった。
ま、待ってくれダイラ! 俺達を置いて行かないでくれ!
ここには高級店に馴染まない物理と魔法の攻撃担当二人と、やらかして何かぶっ壊しそうなちびっ子。
そして水の上を全力ダッシュする型破りな上に、常識破りな魔女しか居ないんだぞ!?
お前と言う柔らかすぎるクッション無しだと、どいつもこいつも尖り過ぎてて怖いんだよ! 触っただけで何かぶっ壊しちゃいそうで怖いよ!
という心の叫びは相手に届かず。
あっさりと姿を消したダイラ。
「……いいか? お前等。何も触るなよ? 絶対壊すなよ? 変な事喋っただけでも、店の外に追い出されかねな――」
「ねーねークウリー、これなんか良いんじゃない?」
「トトーン!? 自由行動禁止!」
慌ててちびっ子の元へ駆けつけ、何かを触れる前にガシッと後ろから抱きしめる形で拘束した。
やめろ、トトン。止めるんだ、値段をよく見ろ。
確かに俺達は今、それなりに……というか結構金を持っている。
しかし無限じゃないんだ。
そして先程トトンが指さしていた代物は、それはもう厳重な守りの中に飾られていた。
なんか不思議な色をした鉱石? から削り出されたかの様な見た目のネックレス。
確かに綺麗だし、見た目も凄い。
それこそコレなら、ステラでも喜んでくれそうだなって気はするんだが。
如何せん、お値段が可愛くない。
グランドベヒモスを丸まる解体に出して売り払った時の金額と、ほぼ同等。
つまりコイツは、グランドベヒモスなのだ。
「流石に触んないってば! 俺だってそれくらいは分かってるよ!」
「コケてぶっ壊してもヤバいの! 止めてくれ!」
「クウリ、心配性が過ぎるぞ……」
「流石に騒がしいわよ?」
俺とトトンがドタバタやっていると、イズとエレーヌが呆れ顔で近付いて来た。
お前等もちゃんと気を付けろよ!? とか言いたくなってしまったが。
「いやはや、お目が高い。こちらの品は、名のある職人が“氷竜の涙”を削り出して作られた物だと言われておりまして」
店員さんが、まさかのタイミングで絡んで来た。
マジか……どっちかと言うと、追い出しに来たっていう方が納得出来る様子だったろうに。
やけにピシッと決まった男性店員が、件のネックレスについて色々と語り始めたではないか。
しっかし……氷竜、かぁ。
正式名称ではなかったけど、そういうエネミーも居たねぇ。
エピッククエストで登場する、上級モンスター。
初見は結構苦労する相手だが、慣れてしまえばドラゴン系でも優しい方の相手なのだが。
「あの、ちなみになんですけど。その氷竜ってどんな奴ですか? 素材とかそういうのって、結構高値で取引されていたりします?」
「はははっ、なかなか面白い事を言いますね? お客様。氷竜そのものは、御伽噺に登場する様な存在ですよ? それこそ、この地に大昔に封印されたという、“アレ”です」
いや、その“この地の伝説”みたいなのを良く知らないんだけど。
帰ってからステラに言えば、資料とか探してくれるかな?
「とはいえ、件の“氷竜の涙”という鉱石は本物の竜とは関係ございません。あまりにも美しい、そして特殊な魔力の籠った鉱石だからこそ、この名が付いたという訳ですね」
ありゃ、ただそれっぽい名前の鉱石ってだけか。
だとすれば、ゲームに登場したボスエネミーが居る訳では無さそうだ。
とか何とか思いつつ、件のネックスレスをボケッと見つめていると。
「それこそダンジョンで発見された、という物くらいしか出回らないので……コレはどうしてもお値段が張る、という状況ですね。昔は近くの遺跡からも見つかった、なんて聞いた事はありますが。その他にも、色々と珍しい物を取り揃えておりますよ?」
ふと、店員さんが気になる事を言いだした。
「遺跡?」
「えぇ、遺跡です。もしかしてお客様、他の国からいらっしゃいましたか? この王都近くに存在する古代遺跡、結構有名な観光名所にもなっておりますよ。よろしければ、そちらにも足を伸ばしてみて下さいませ。第二の“門”なんて言われていた場所ですから、非常に神秘的ですよ」
そう言って、にっこりと微笑む男性店員。
おっとぉ? これまた意外な所から、意外な話が出て来たモノだ。
第二の門、なんて言うって事は……北の門とやらと関係ありって事だよね?
門って名前の付く場所がいっぱいない限りは。
「あの、そんなに高い物じゃ無ければ何か買いますんで……ちょっとその辺りの事、詳しく教えてくれません? それこそ、鉱石関係……っていうか宝石の事とかなら、多分そこらの人達より詳しいですよね? 店的に、専門家とか居そうだし」
「えぇ、それはもう。ではこちらへどうぞ? お茶と……お勧めの商品など、ご紹介出来ればと思います」
にっこりと微笑む店員さんに連れられ、俺達も店の奥へと踏み込んでいくのであった。
門やら竜やら、それこそ遺跡と鉱石。
その辺に関しても色々と聞けそうだが……何より。
上手い事やれば珍しい鉱石とか、この街で売れるんじゃないか?




