第134話 お祝いの品
結局ギルドには転移手続きをしに行った程度で、その後はほぼお屋敷生活。
というのも、長期間仕事に出る様な行動は控えてくれと言われてしまったのだ。
とはいえ、いつも通り数日程度空けるくらいなら問題なさそうだけど……ギルドでの印象“アレ”だしなぁ。
せめて式に参列するまでは、多少は大人しくするかぁってな感じにはなったのだが。
なら街中を散策して、色々と調べておくかーという話にもなったりもしたけど。
お屋敷のメイドさん達が本気を出し、徹底的に此方をお世話する体制。
物品は用意してくれるし、欲しい情報を伝えると過去の書物なんかも借りて来てくれる程。
試しに北の門とやらの話をチラ付かせてみれば、関連する内容が書かれている本なんかまで用意してくれた。
まぁ現物は童話みたいな内容であり、あまり要領を得ない感じだったけど。
と言う訳で、結局引き籠りになってしまった。
「なぁ~ステラさんやい。結婚式とやらはいつになったら上げるんだい? そろそろ暇になって来たんですが?」
「それなりに準備に時間が掛かるのと、色々と厄介な人達を黙らせる時間が必要だったりするので。もう少し掛かる……と、思いますわ。というか、屋敷でゆっくりしているだけで護衛としてお金が入るって……普通だったら喜ばしい状況だと思いますけど」
「金は稼いでも、使い所が無いと意味が無いんだよ~? 金は天下の回り物ってなぁー」
「あら、冒険者らしからぬ全体を見据えたご意見です事」
などと会話しつつ、お姫様は優雅にお茶を嗜んでいらっしゃる。
対する俺等は完全にダレていた。
イズとダイラは借りた本でひたすら読書、と言う名の暇潰し。
魔女に関してはたまに読書したり、寝てたり。
トトンは広い庭へと飛び出して雪遊び! かと思えば本当に暇潰しだった様で。
屋敷の庭に、雪の建造物が作られていた。
あんな風に、雪とか氷でオブジェを作って展示する様な祭りがあったな……まさにソレに近い。
一人雪祭りを開催していらっしゃる。
最初は俺も付き合ったのだが、アイツみたいに上手く作れず、諦めた。
流石ブラックスミス、こういう所でも器用だ。
メイドさん達や、通りがかる人たちが長時間覗いて来る程にクオリティが高いってのも、ある意味才能だよホント。
「あぁ、そういやさ。こっちの結婚式って、ご祝儀の相場とかどれくらいなの?」
「ご祝儀……ですか。意外と律儀なんですね、クウリさん。とはいえそこまで気を使って頂かなくて大丈夫ですよ? 私が無理矢理連れて来た自覚はありますし」
自覚あるんかい、いやそりゃあるか。
天然で面倒事押し付けて来るタイプじゃないもんね、この人。
だとすると本人やら周りにメリットがあると考えて、現状俺達を近くに置いている……というか、式に参加させる事が目的の様に思える。
今回は何が狙いなのやら。
最初の街でも、前回の街でも求めていたのは成果であり、意地でも俺達を懐に入れようって雰囲気は今の所無い。
私兵になって欲しいってのは正直あるんだろうけど、無理矢理ってのは愚策だと分かっているんだろう。
そう言う所、妙に鼻が利くんだよなこの人。
例え周囲から何を言われる結果になっても、引く時はあっさり引く、こっちが不快に思わない程度の関わりを保ち続けるというか。
これで本当に我儘娘なら、最初の街でもっとしつこく食い下がって来ただろうし。
鬱陶しい性格なら、こっちもあっさりとバイバイしても良かったのだが。
「つっても、手ぶらじゃ流石に恰好が付かないと思うんだが」
「そう……ですねぇ。とはいえ王族同士の結婚式などと言われると、一般の祝いの場というより貴族の牽制の方が意味合いとして強いですし。相手に取り入って自らの立場を有利にしようという腹づもりで、大金を詰んだり珍しい物品を送って来たり。そういった行動で、やはり今後此方も無視できなくなったりしますから」
うっわ……やっぱ貴族社会って面倒くせぇ。
結婚おめでとーって感じで、酒飲んで終わりで良いじゃんよ。
今の俺の身体だと、全くと言って良い程酒飲めないけどね。
ご祝儀の額でマウントとか、“向こう側”でもあったんだろうけど……他人の祝いの席で、何やってんだよって話だよな。
「私のお相手は現状、王位継承の争いに参加している様な立場にはありません。なので普通よりかはマシなのですが……とはいえ国に関わる仕事をしている以上、懐に入ろうとする者や、逆に此方を邪魔だと思う存在からの妨害……分かりやすく言うと式の間に恥をかかせて信頼を失墜させたり、もっと凄い場合は暗殺とかも考えられますね。主に毒を盛るとか」
「うへぇ……立場のある人は、パーティーでも警戒する事が多いこって」
「まぁ、それが私達の戦場みたいなものですから」
だそうです。
シレッと恐ろしい事を言っている訳だが、実際政治に関わる様な立場だとそういう戦い方になるのだろう。
こんな血生臭い世界で人間相手に心理戦とか、気が滅入っちゃいそうだね。
思い切り溜息を溢してみるが……ふと、思いついた。
「なぁお姫様や、私兵になるってのは相変らずお断りなんだけども。俺達がもしもステラや、ステラの旦那さんに多少取り入ったとして。その時は前回の街の領主の時みたいに助けてもらえたりする?」
「本来なら、両者にとって利がある状態を保つのが基本ですが……今の発言と、クウリさんの性格から推測するに。立場のある者と関わるのは面倒だけど、権力者などからの厄介事に絡まれた場合は此方に押し付けて良いか? という意図で間違い無いでしょうか?」
「うっ! その言い方だと、滅茶苦茶我儘発言に聞えるな……」
「フフッ、通常なら細々とした付き合いや協力関係があってこその信頼だという事ですよ。要はそういう関わりは面倒だけど、後ろ盾として役立って欲しいという事でしょう? そういう相手にいちいち実力を示して黙らせるというのも、確かに面倒でしょうしね」
仰る通りで。
散々逃げ回っているのに、今更そんな事考えるのは虫が良すぎたか。
当初ステラにはお世話になったので、この際ちょっとした恩返しとかしても良いかなぁ程度だったんだけど。
文無し状態から始まり、最初の街でのダンジョン攻略報酬はかなり助かったからなぁ……。
実験の意味合いでも、何も分からずギルドからの依頼を受け続けていたら、それこそ何倍も時間が掛かった事だろう。
と言う事でそのお礼をする形を取ってしまった場合、相手の立場を考えると貰いっぱなしにはしないだろうなぁと予想した訳だ。
つまりあんまり派手な事をやらかすと、後の繋がりに影響が出そうで怖かったという。
なので、ステラの表現した内容とは些か警戒している方向性が違うのだが、結果としては彼女の言った通りの事例になってしまうだろう。
「なんて、悪い言い方でしたね。どちらかと言うと、その程度だったら関わりを持っても良い。そして何かをするなら、今回の事を理由に動くおつもりでしょう? ただし、出来れば貴女達にもメリットがある形で。というお考えですか?」
ありゃ、見透かされた。
クスクスと笑うお姫様に、シレッとそんな事を言われてしまった。
実際その通りなんだけど、そのまま言葉にしたら何様だって話になるからね。
だからあえて、こちらから“お願い”する様な体裁にしたのだけれども。
「良いですよ? 実際皆様には大きすぎる実績で返して頂いている訳ですし。むしろ此方から取り入りたいくらいですから、多少の無茶や我儘は受け入れるつもりでいます。そういう形にした方が、周囲からも目を付けられ難いでしょうから。それで、今回はどんな事をお考えで? 何を許可すれば、私達を後ろ盾に“して頂ける”のでしょうか?」
わははは、やっぱ王族怖ぇ~。
あっさりと思考が読まれている様で、マジで下手な事言えないなこりゃ。
とはいえこれだけ包み隠さず言葉にしてくれるのだから、此方としては有難いが。
「いや、大した事じゃないんだけどさ。御祝儀は金じゃなくて、“珍しい物品”でも良いんだろ? これまでのお礼も兼ねて、何か用意してみようかなって。このまま引き籠ってるだけじゃ暇だし、実際皆飽き始めてるしな。自由行動を許してもらう意味でも、やる事が欲しい訳よ」
「おや、それはまた……私の予想というか、願望にも近いですけど。それは皆様ならではの品物、と言う事でよろしいですか? 他の貴族の様に、お金に物を言わせる様な真似はしないでしょうから」
何やら興味を持ったのか、ズイズイと此方に身を寄せて来るお姫様。
相も変わらず好奇心旺盛だねぇ。
まぁ、この人らしいっちゃらしいけど。
派手にやらかした冒険者を自ら探し出して、一緒にダンジョン攻略に向かうだけの事はあるわ。
「ま、お試し品って感じになるだろうけどなぁ。防御の魔法付与の付いた物品とか貰ったら、王族としては嬉しいモノ? あとは食事に毒を盛られる危険があるってんなら、万能な解毒ポーションとか。ただこっちの実験含めだから、あんまり大っぴらに見せびらかして良い代物じゃなくなるけど」
「欲しいです! あくまで個人として使用し、他者に作成者の情報を洩らさないと約束致しますわ!」
はい、決定。
暇潰しが一つできましたっと。
トトンの鍛冶師スキルで武器強化は試したけど、物品の生成はまだやってないし。
術師の方で付与効果を狙って付けたり、アイテムによる能力追加も試しても良いだろう。
ポーションに関してはダイラという万能錬金術師が居るので、用意するのは入れ物くらいだな。
王族に渡す物だとすれば、どちらもそれなりの見た目をしていた方が良い筈。
二人にはサブスキルの実験をしてもらい、残りの面々は完成品の実験と付与という形で手を加えるだけになりそうだけど。
あとはお店でお買い物って感じか。
ま、屋敷で退屈しているよりかは良いだろう。
最近インベントリの中の物品、完全に肥やしになって来ているし。
そろそろ昔の物を消費しながら遊んでみるか、と言う訳で。
「鍛冶する為の工房と、薬品作りの道具が揃ってる部屋とか、どっかで借りられたりする? ココで出来ない事はないんだけど、設備があった方が成功率高いんだよね」
「すぐに手配します」
「あと買い物もするから、案内人を一人貸してほしい。価値観とか美的センスとか、多分俺等だと現地の人とだいぶ違うから、そっちのアドバイスも――」
「すぐ手配します!」
やけに食い気味のお姫様は、既にやる気満々の御様子。
珍しい物に目が無いんだろうけど。
あんまり期待され過ぎても、失敗した時が怖いなぁ……とかなんと思いつつ、部屋の窓を開き。
「おーい、トトーン。戻ってこーい、新しい暇潰し見つけたぞー」
庭で遊んでいるちびっ子に声を掛けてみれば、すぐさまダッシュで屋敷に戻って来るトトン。
見た目的には年相応って感じになってしまっているが、トトンは暇になると更に幼児化するのだろうか。
最近行動が幼いぞ、大丈夫かお前。
とはいえ作っていた雪の建造物は、やけにクオリティが高くて可愛げが無いが。
うわ、今日はエッフェル塔みたいな物が出来上がっている。
やはり、流石はブラックスミス。
器用だなぁ……。




