第133話 雪の街とモコモコ装備
王女の護衛、という名前だけの依頼を受けた俺達は、これまでに無い程あっさりと次の街へと到着した。
移動に関しては大集団だし、飛んだ方が速いのは確かなのだが。
何をしなくても順調に移動出来る、しかも知らない人とのトラブルも無しというのがとても楽だ。
到着しても入り口の門の列に並ぶ事すら必要無く、紋章の付いた馬車はほぼフリーパス状態。
確かにね、相手国のお偉いさんが乗っていれば待たせる訳にいかないもんね。
「次の街に到着しましたーっと。相変わらずログインボーナスはねぇけど」
「今までに無いくらいにあっさりだねぇーホント」
トトンと一緒にボヤキながら、窓の外を眺めてみる訳だが。
これまた今までの街とは随分違う雰囲気だねこりゃ。
道中妙に冷えるなぁとは思っていたが、もはや完全に雪。
降って来たわぁって程度では無く、雪国ですかって勢いだ。
周囲は真っ白な景色に染まり、街中でも随分と積もっている御様子。
本当に観光というか、ごく普通に旅をしている間ならテンションが上がったのかもしれないが。
生憎とお偉いさんと一緒に馬車に揺られている為、余計な事は出来る筈もなく。
ボケェっと外を眺めつつ街並みを拝んでいたのだが。
「これは……恰好から見直さないと不味いかもな」
「寒そうだねぇ。コートとかも用意しないと……常にバフを掛けておく訳にもいかないし」
イズとダイラも外を眺め、そんな言葉を洩らしている。
まぁ、なんだ。
ポツポツと会話するくらいしかやる事が無いというのもあるけど、俺達は現状どこへ連行されているのでしょうか?
一応護衛だからね、途中で降ろしてとか言う訳にもいかないし。
もはやタクシーよろしく、そこら辺で降ろして~って言いたくなって来るんだが。
まさか急にお城とか連行されないだろうな。
「ダレてますねぇ、皆様」
ステラに関しては此方に向かって呆れた瞳を向けて来るが、やはり馬車の旅に慣れているのかどうか、の差なのだろう。
俺等に関しちゃ、座っているだけってのはちょっと疲れると言いますか。
何にもしないで運ばれているだけってのも退屈なもんだね。
魔女とか既に寝てるし。
「こっからどうするの? 今後の予定とか何も聞いてないんだけど」
このお姫様の事だから、街に着いたら護衛もお終い! またね! とはいかないのは予想していたんだが。
まさかとは思うけど、このまま指名依頼が続いたりするのだろうか。
街中の護衛はちょっとなぁ……特に俺がなぁ……。
小技でも殺人、大技使ったら国際指名手配とかされそう。
「そうですね、依頼としては道中の護衛をお願いしただけなのですが……以前にもお話した通り、寝泊まりする場所は此方で用意しますから。式にも参列して頂けるんですよね?」
「アッ、ハイ」
そこからはどうしても逃がさないつもりで居るらしい。
結婚式かぁ……最後に参加したのなんていつの話だろう。
確か会社の後輩だか何だかに呼ばれた記憶は有るけど……あぁいう席って苦手なんだよね。
新郎とか新婦と面識があっても、周りの人間まで知っている訳じゃないし。
会場ぼっちになる事の方が多かったので。
今回ばかりは仲間達も居るが、俺等みたいなのがお堅い席に参加しても浮きそうだしなぁ。
「空いてる時間はこっちの自由にして良い?」
「えぇ、それはもちろん。皆様は冒険者ですし、ギルドにも向かいますよね? 此方から案内を出しますね」
見張りを付ける気満々の御様子。
何かもう徹底的に近くに置こうとしてるよね、ここまで来たら諦めるしかないんだろうけどさ。
「いいのか? クウリ」
「ま、仕方ないっしょ。この街では色々と諦めよう。大事にならない限りは、大人しくしてるしか無さそうだ」
イズとそんな会話をしつつも、ガラガラと音を立てる馬車はこれまたデカイ建物へと向かっていくのであった。
あぁ~どこに言ってもご立派な所に住んでいらっしゃいます事。
※※※
「なんかもう、全部準備してくれるじゃん」
「ねー、モッコモコ」
「普通ならこれくらい着ないと過ごせないって事なんでしょ。バフでどうにかしようとすると、多分周りから変な目で見られるね」
「少々動き辛いな……」
姫様の別荘……ではないんだろうけど。
この街でお世話になるらしいお屋敷に付いた瞬間、メイドさん達に取り囲まれた。
なんだなんだと慌てている内に採寸され、とりあえずサイズの合う物をという事で服を用意され。
また後日俺達専用の服を用意してくれるそうだ。
私服云々の話か? いやいやそっちは自分達で……とか思ったが、どうやら結婚式に参加するドレスやら何やらも一から作り始めるとの事。
マァジか。
完全VIP待遇で、全く持って慣れない。
ついでに言うと、急に雪国装備になってしまい身体的にも落ち着かない。
皆モコモコとしたコートとか着ているし、貴婦人か何かですかってくらいに高そうな服装にされてしまった。
俺とトトンまだ温かそうだねー、くらいで済むのだが。見た目が若いので。
ダイラとイズ、そしてエレーヌに関しては冬物コーディネートの雑誌とかに載っていそうなスタイルに。
こんな格好のままギルドに行って大丈夫かよ……なんて思ってしまうが。
よく考えたら、こういう所の冒険者の雪国装備ってどんな感じなんだろう?
ゲーム時代は環境的なデバフとして発生しない限り、どんな恰好だろうと関係なかったが。
リアルになってしまえば、流石にそう言う訳にはいかないだろう。
もしかして、武器屋とか防具屋とか見てから行った方が良い?
とか考えたのだが、案内人として俺達に付いてくれたメイドさんはズンズンと進んでいく。
ちょっと寄り道して良いですかとは聞きづらい雰囲気。
などと考えている内に、目的地には到着してしまったらしく。
「皆様、お疲れ様でした。こちらがこの街の冒険者ギルドになります」
「はい、どうも……それじゃ、俺達はちょっと用事を済ませて来ますので――」
「では、どうぞ。手続きも此方で済ませますので、お任せください」
にっこりと柔らかい微笑みを浮かべながら、メイドさんがギルドの玄関扉を開けてくれる訳だが。
ちょっと待って頂きたい、まさかこのまま転移手続きまでこの人がやるつもりなのだろうか。
今の俺達の格好はどう見ても冒険者には見えない、というか街中に居る一般人に見えてしまう事だろう。
そんなのがゾロゾロとギルドに入り、メイドさんに手続きしてもらうって何。
どう考えても、周りから見たら世間知らずの娘っ子集団にしか見えないでしょうが。
「どうぞ、皆様」
「アッ、ハイ」
もはや有無を言わさぬ微笑みで、メイドさんに「早く入れ」と圧を掛けられ、諦めてギルド内へとお邪魔してみれば。
やはりどこのギルドも同じような作りなのか、視線の先には受付のカウンターが。
そして入り口周辺には酒場かって雰囲気のテーブル席が幾つも設置されている……のだけども。
ものっ凄い見られる。
皆ジロジロと此方に視線を向けて来るし、ヒソヒソと小さな話し声が聞こえて来る程。
「おっ、貴族からの依頼か? 随分と良い恰好だが」
「狙い目だな、他の奴に取られる前に俺等が受けるぞ」
なるほど、今の格好だと依頼人に見えるのか。
そんでもって、周囲の皆様の格好を見て雪国装備というものを理解した。
アレだ、某狩りゲーみたいな想像をすれば良いのか。
モコモコとした装備ではある物の、鎧やら何やらとちゃんと組み合わせているのが分かる。
術師に関しては結構普通な見た目だが、前衛に比べてより一層分厚いコートなんかを羽織っている印象だ。
なんて、落ち着いて観察出来たのは最初だけであり。
「皆様の登録証をお預かりしてもよろしいですか? 面倒な手続きは此方で済ませてまいりますので、少々お待ちくださいませ」
俺達が全員入場した後に入ってきたメイドさんからそんな事を言われてしまい、大人しく全員分の登録証を差し出した。
結果。
「なんだ、貴族のお遊びか……チッ」
「せっかく金になるかと思ったが……ハズレだな」
周囲の冒険者達からは、此方にも聞こえる程の大きなため息が零れたのが分かった。
勝手に期待されて、勝手に失望されたんですが。
でもまぁ、そうよね。
周りから見たらそうにしか見えないよね、ごめんて。
「本日は転移手続きだけでよろしいですか? お屋敷の方で姫様もお待ちですので、出来れば午後はソチラでお過ごしください」
だそうです。
とりあえずこの街で俺達の第一印象は、良い所育ちのお嬢ちゃん達になってしまった。
この恰好だしね……仕方ないんだけどさ。
どう見たって戦闘員には見えないよねぇ。
「早めに誤解を解かないと、仕事受けさせてくれねぇんじゃねぇか?」
「あーそれは有りそう。火山地帯でも新人だって言ったら止められたもんねー」
「あ、あはは……まぁ、仕事してる暇があると良いね」
「今回は、色々な意味で前途多難だな」
「あまり堅苦しいのは好きじゃないんだけど……」
各々ため息を溢してしまう事態になってしまった訳だが。
ホント、この街に居る間どういう生活になるんだろ。




