第130話 別れの言葉、どころではない
その後、街に戻った俺達は。
「ステラさんや、コレは一般的に監禁と言うと思う」
「あらあら、旅支度を済ませるなんて言ってそのまま出発するおつもりでしょう? 駄目です、護衛依頼をお願いしましたし」
ステラ王女の寝泊まりしている館から、出して貰えなかった。
旅に必要な物が欲しいといえば、使用人が揃えてくれるし。
毎食落ち着かない程の豪華なご飯が出て来るのも凄いが。
「暇!」
と、トトンは不満を溢し。
俺とイズに関してはテーブルマナーに苦戦し。
ダイラは。
「平和だねぇ」
一人だけ、環境を満喫していた。
うん、知ってた。
これまで結構派手な旅をして来たけど、コイツは基本荒事嫌いだもんね。
久々にまったりしてるよ、それはもう全力で。
「……いつまでココに居るのかしら、出来れば早く出発したいのだけど」
暇そうにしている魔女様も、少々不満を覚えている御様子。
俺に言われてもねぇ……とか思うけど。
一応コレも王女からの気配りだと思って良いのかもしれない。
前回の戦闘、今まで以上に派手だったからねぇ。
ギルドに向かえば、下手したら帰ってこられないかも。
それらの鎮圧と、情報統制を彼女が権力を使いまくってどうにかしている様だ。
ついでに言えば、今回の依頼主である領主? か何かに、今の内から釘を刺しておくんだとか。
呆気なく解決してしまったので、今のままでは相手の所業を白日の下に晒せない……訳ではないが、徹底的にお潰しになられる御様子で。
一度王都に向かいしっかりと此方の国での立場を確立させた後、それはもう悪事の一つ一つまで丁寧に“処す”と言っていた。
しかしながらそれでは逃げられる可能性がある、と言う事で何人かこの街に置いていくそうな。
生きてさえいれば良いという指示を本人の前で配下の皆様に伝達し、“そういうお仕事”の方も数名残して来たんだとか。
うん……権力者って、やっぱり怖い。
あと、残っていた最初のサキュバスは普通に首チョンパされたらしい。
やっぱり権力者って……いや、もはや何も言うまい。
むしろビームで大量に薙ぎ払った俺が言える台詞ではない。
もっと言うなら、どうやら今回の依頼主さんは何でもサキュバスの“ご試食”をなされていたそうで。
ここ最近は大変楽し気な声が寝室から聞えていたそうだが……サキュバスが一頭身になってしまった事により豚面蝙蝠さんとご対面。
色々と真っ白に燃え尽きたそうな。
うん、それは知らん。どうでも良い。
「しっかし、出発前にアイツ等にも挨拶しておきたかったんだが……こりゃ無理かなぁ」
仕事が終わった後は、そのまま少年少女組と別れて帰って来てしまった為。
その後どうなったのか、全然知らないんだよね。
「まぁ、この場合は仕方ないさ。どうしたって王家の人間を相手にしている訳だからな、自由が利かなくなる事は分かっていた」
「皆元気でやってるかなぁ? ある程度は教えたけど、無茶してないと良いね」
イズとダイラから、そんなお言葉を返されてしまった。
トトンに関しては「大丈夫じゃねぇ~?」と軽い雰囲気。
エレーヌはもはや興味すら無さそうだ。
薄情な奴め、相変わらず無情だなお前は。
などとやっていれば。
「皆様、お客様がいらっしゃいました」
俺達の集まっている部屋に、いつも姫様の近くに居たメイドさんがやって来た。
そんでもって、彼女がその“客人”とやらを入室させてみると。
「先生方! お久し振りです!」
先程話題に上がっていた少年少女達が、揃って顔を見せてくれたではないか。
「おぉっ、丁度今話してたんだよ。久しぶりー、元気だった?」
「はいっ! 皆さんもお変わり無いようで、安心しました!」
何かすんごいビシッと決めて来る若い子達。
最初の緩い、というか若い雰囲気がもはや懐かしいねぇ。
そんな彼等に、あれからギルドがどうなったのか話を伺ってみると。
どうやら、俺達の想像以上に凄い事になっているらしい。
「連日色んな所から、噂を聞きつけた人達が来ていまして……魔人の軍勢を倒した冒険者に依頼を出させろ、話をさせろって。凄い事になってますよ」
だ、そうです。
うん、姫様に全力で頼る形になったの正解かも。
多分依頼がどうとかって言っても、恐らく普通の仕事じゃないよね?
俺等の事調べさせろっていう、そういう意味合いが強いよね?
良かった。
そんな面倒臭いのに絡まれたら、その日の内に夜逃げする所だった。
「まぁ俺等の事は良いや……アレからどうよ? 仕事の方は順調?」
「はいっ! 先生達から貰った装備と、御教授頂いた戦い方で、前より格段に効率が上がりました! 最近はちゃんと毎回良い食事が出来る様になりましたし。正直……コレが一番成長を感じますよ。本当に、ありがとうございます」
そりゃよかった。
というか、改めて見てみるとちょこちょこ装備も変わっている様だ。
前衛組は鎧も一新したみたいだし、後衛組に関してもアクセサリーの類も増えている。
うんむ、非常に順調そうで何よりだ。
「今では結構指名依頼も増えて来まして、懐にも余裕が出来て来ました。本当に、何とお礼を言って良いのか」
「いいや、俺等は基礎を教えただけだし。上手くやっているみたいで安心だよ。でも、前に言った通りその武器に拘り過ぎるなよ? より良い物を見つけたら、すぐに切り替える事。それも生き残る術だからな」
「はいっ! 肝に銘じておきます! それから……あの、何と言いますか。これはコッチの事情で、直接先生方には関係の無いお話なんですけど……」
何やらリーダーのカイ君がモジモジし始め、妙に視線を逸らし始めたが。
なんだろう? あ、もしかしてパーティ内で色恋沙汰みたいな?
そういうご報告なら、ケッ! と吐き捨てた後に一応祝福してやろう。
などと、下らない事を考えていれば。
「パーティに、一人……増えました」
「え? 子供が?」
「ち、違いますよ! メンバーが、です!」
どうやら俺が想像した様な内容では無く、普通にメンバーが増えたという報告だった。
流石にそこまで俺達が口を挟む事ではないし、好きにやれば良いんじゃね? って感じではあるんだが。
「その……前に先生方も言っていましたけど、ヒーラーが居た方が安心だって。なので、えと……声を掛けて来た子をそのまま加入させたって感じなんですけど」
「おぉ、ヒーラーか。良いじゃん、何か問題があったのか? 別に困る話ではないと思うけど」
なんて普通に返してみたのだが。
相手は、更に困った様子で視線を逸らし。
「これは、先に謝っておきたいんですが……前回の戦闘時、場を混乱させない為にも皆さんの事を冒険者達に話したんですよ。その方が後々悪い印象も残らないかなって……そしたら、皆揃って応援する~みたいな流れになりまして」
「おっ前……マジか、ある意味凄いな。あの状況で周りの奴等を説得してたの? それで、それがどうかしたのか?」
「あの場で俺の声を聞いた冒険者達が、クウリさんに興味を持ったというか……まぁあの戦場を見た後では、仕方ないと思うんですけど。他の人も、宿の酒場に通っていた人達とか……クウリさん達の事を知っていまして。色々済んだ後、ギルドが皆さんの話題で持ちきりに……俺も調子に乗って、武勇伝の様に語ってしまった結果」
「おい、何か聞くのが怖いぞ……」
ジトッとした瞳で相手を見つめていれば。
彼はガッとテーブルに額を付ける勢いで頭を下げ始め、そして。
「本当にすみません! 冒険者の中で、もはや信仰レベルで皆さんが人気になってしまいました! ……特に、一番目立っていたクウリさんが。ウチのヒーラーもその一人で、俺達に付けば本人に会えるんじゃないかって寄って来たみたいです!」
「いやお前何やってんの!?」
バカタレ、変な奴等に絡まれる状況を作るんじゃないよ。
しかも加入したヒーラーも、その頭のおかしい一人だとは。
もうとっとと追い出した方が良いんじゃねぇの? とか何とか思っていると。
「でも、その……普通に優秀というか、そういう人物なので。まぁ、そのままって事に……それから、今日も先生達に会いに行くって言ったら、死に物狂いで付いて来て」
「おい、止めろ。まさか本当に連れて来たとか言うなよ? そんな狂人を、俺の前に連れて来るな。なんだよ信仰レベルって、頭おかしいだろうが。俺の装備見ただろ? そんなの信仰したら、どう考えても邪教徒じゃねぇか」
「そこはまぁ、大丈夫です。本物のヤバイ人達とは、違う意味でヤバイだけなので。本人も今、この屋敷の門番に止められています」
「全然大丈夫じゃねぇよソレは! 結局ヤバイ奴等じゃん! てかすぐそこまで来てる上に、止められてんのかよ!? どれだけ怪しい奴なんだソイツ!」
と言う事で席を立ち、窓からチラッと外の様子を伺ってみれば。
門の外に閉め出されている状態で、何やら旗を振っている頭のおかしい神官が一人。
そしてその旗には……黒い角と翼の生えた装備で、銀髪の女のデフォキャラみたいなものが刺繍されていた。
「スゥゥゥ……アイツは、何なの」
「ウチのヒーラーです……すみません」
「旗振ってるけど、何」
「一応アレ、彼女の武器なんです。魔法適性の兼ね合いで、“旗手”をやってまして。普通とはちょっと違うバフも使えます……」
「オイそれ! 戦場であんな物振り回してる訳じゃねぇよなぁ!?」
俺の言葉に、スッと視線を逸らす少年少女達。
振ってんのか、アレを。
ゲーム時代にも“旗手”という職業はあった。
当然スキルで色々と出来る事が変わって来るが、旗色によっても効果が変わると言われている珍しい職業。
そんでもって、アイツが今振っている旗は……紫だ。
基本的に物理、魔法攻撃のサポートをする様な効果を発揮する旗色。
でも描かれている柄が問題なのだ。
ゲーム時代でもかなりふざけた旗とか、相当頑張ってアニメキャラ書き込んで旗を振っていた頭のおかしいプレイヤーも居たが。
彼女はどうやら、ソイツ等に近いらしい。
やばい、ゲーム寄りの思考回路の現地人を発見してしまった。
「街を離れる前に、挨拶の一つでも……なんて思っていたが」
「せ、先生? ちょっと、微笑みが怖いんですが……」
「別れの挨拶の前に、お説教かなぁ?」
「ヒィィ!」
と言う事で、教え子たちとの別れは散々なモノになってしまった。
まぁ本人達が頑張っている様なので、そっちは安心だが。
この街には、もう戻って来る事はないかな。
これまでとはまた違った意味で、頭のおかしい連中が発生したみたいなので。




