第13話 連行
「姫様、兵士達から報告書が届きましたよ」
そう言ってメイド長が差し出して来る報告書を、奪う様にして目の前に持って来た。
そこに書かれていたのは。
「フ、フフフ。やっと、やっとですわ」
「姫様?」
「やっと英雄とも言える化け物が登場しましたわぁぁぁ!」
うおぉぉ! と両手を広げ、叫んでみれば。
メイド達に押さえつけられ、普通の姿勢へと戻って行く。
「お静かに、それからはしたないですよ?」
「でもでも! この報告書を見て下さい! 大量の魔石を持ち込み、更にはギルドの支部長すら戦う前から剣を投げた。更には今回! ヒュドラの群れを討伐……それどころか、爆散しています!」
「冒険者が魔獣を狩る、それは当たり前の事です。しかし素材となる部位を全て消し飛ばしてしまっては、三流も良い所に思いますが」
「そうじゃないんですよ! 重要なのは、ヒュドラの群れに襲われても平然と皆殺しにしてくる所なの!」
ギャァギャァと騒ぎながらメイド長に抗議してみれば、相手は大きなため息を溢しつつ。
「しっかりとお勉強を終えた後なら、冒険者ギルドに足を運ぶ事を陛下に進言してきます。確かに、無視できない存在ではありますので。きっとお話するだけなら、陛下もお許しになるかと思いますよ? ですが貴女の場合勉学を疎かにすることは許されません」
「明日の分も、全て今からやるわ!」
「よろしいので?」
「よろしいのよ!」
それだけ言うと、メイド達は勉学道具を私の部屋に運び込むのであった。
待ってなさい、異例の冒険者。
どんな強面だろうと、私は怯む事等無いんですからね!
※※※
「やぁっぱし、素材かぁ。素材大事。あの戦い方はダメだぁ、却下。お話にならない」
依頼を終え、回収した物をギルドに提出。
解体場で蛇の状態を確認してもらった、その翌日。
つまり本日買い取り金が渡される筈だったのだが……そっちの収入は、ゼロ。
まごう事無き、ゴミ。
まぁサイコロステーキとグチャグチャになった肉片なんて、価値ないっすよね。
と言う事でギルド内部にある酒場にお邪魔して、完全に脱力した。
だめだぁ、俺は。なぁんの役にも立たねぇ。
相手を攻撃すれば必要以上のダメージだし、スキルや魔法を使えば消し炭。
だめだぁ……おらぁ、農作業して田舎で暮らすわぁ。
思い切り溜息を吐きながら、ビールをグビグビと飲み干し。
そして。
「このパーティは、本日をもって解散する! 俺を追放しろぉ~お前等ぁ! 後で成り上がったり、ザマァ展開にはせず、田舎で大人しく暮らすからぁ……頼むよぉ、皆だけで幸せに生きてくれぇ……俺は駄目だぁ」
涙目になりながらテーブルに突っ伏してみれば、仲間達は物凄く慌てて。
「クウリ、頼む。そんな事言わないでくれ、誰にだって失敗はある」
「ホ、ホラ! クウリが率先して俺等の魔術を調べてくれた結果、使えるのと使えないのが分かって来た訳だし? こればっかりは仕方ないよ!」
イズとダイラが必死に慰めてくれるが、正直……今の状態だと、効く。
俺が爆散させたヒュドラ、綺麗な状態で死体を持って来れば相当な金になったらしい。
でも持ち帰ったのは、無残な姿になった蛇共。
魔石はちゃんと回収したが、ビックリするほどの収益になった訳ではない。
むしろヒュドラの群れを倒したにしては低収入だと言われてしまった。
こんなの、パーティリーダーとして失格も良い所だ。
「まぁアレだよ、皆の寝間着と普段着買えるくらいには報酬出たし。いいじゃんクウリー、そんなに落ち込まなくて。クウリの魔法は、皆跡形も無くぶっ殺すのが特徴だし。今回はちょっとでも残って良かったじゃんか」
「「トトン!」」
二人が叫ぶ中、トトンだけは俺にジョッキを渡して来た。
とりあえず飲めって事らしいが……今更だけど、この姿で酒飲んでいいんだろうか?
そんな事を思いながら、おかわりの酒に口を付けてみれば。
「あぁぁぁ……うめぇ」
「ぶははっ! クウリおっさんくせぇ!」
未成年だからと酒に手を付けないトトンだけは、滅茶苦茶笑って来たが。
まぁ、そうだよな。
これまでとは常識が違うのだ、立場も命の価値も違うのだ。
だったら、俺等で生き残る術を見つけなければいけない。
だからこそ、こんな事で躓いている場合ではないという事だけは確かだ。
「うしっ、スマンお前等。今回は俺のミスでかなり報酬が減っちまったが、次回に考えて色々と相談を――」
「貴女が、“斬鬼”さえ退けた魔術師“クウリ”ですね!? ちょっとだけお話を伺ってもよろしいですか?」
なんか、俺等の席の隣にやけに豪華そうな恰好のお嬢様が立っている。
こう、何と言うか。
オーホッホって言いそうな、悪役令嬢かな? って感じの。
でもなんかこう、視界がボヤァっとしている気がする。
あぁ、そうか。
俺は今酒を飲んでいる。つまりこれは幻影であり、酔っ払いの見る妄想だ。
全くトトンの奴め、クソ強い酒でも頼みやがったな?
こんなのに絡まれる要素なんて、これまで皆無だろうに。
「んじゃ、会議を続けるぞ? 基本間接的に影響するスキルは、仲間には作用しない可能性が高い。最悪、ダイラの結界に入っていれば影響がない事は確認した。つまり俺とダイラは補助系スキル、間接的に影響するスキル、または回復スキルは“ぶっぱ”しても良いって事だ。直接攻撃スキルに関しては、今後も色々と検証が必要になるが――」
「何で無視しますの!? これでも私、この国の王女なんですけど!? 第三王女ですけど……」
幻影が、テーブルに体を乗り出し此方を真正面から覗き込んで来た。
最近の幻影は、良く出来ている様だ。
いやうん、普通に可愛いんだけどさ。
俺等別に王族に声を掛けられる様な事してないし、というか自分達の事で精一杯だし。
まだまだ検証があるのだ、ちょっと邪魔しないでくれるかな。
そういうイベント、間に合ってるんで。
「つまり、今度検証するのは俺の直接攻撃スキルとイズの攻撃スキルだ。基本的にはダイラの防壁とトトンの二重で構えて貰って、攻撃をする。その結果によって色々試してみようかと思うだけど、どうだろう? やっぱりフレンドリーファイア有りなら、戦術の根本から考え直さないと――」
「ア ナ タ は、クウリさんで、よろしいのですよね!? ちょっとお話がありますの! 私を無視しないで頂けると助かりますわ!」
作戦会議の途中だと言うのに、先程の幻影がまた目の前に現れた。
あぁもう、そんなに俺酒癖悪くなかったと思うのに。
はぁぁとため息を溢しつつ、彼女に視線を向けてから。
「俺等にとっては遊びじゃないんだ、悪いけど後にしてくれるか?」
キリッとした表情を向けてみれば、相手はポッと頬を赤らめながら。
「女性なのに、随分と勇ましい眼差し。良いですわ、作戦会議が終わるまで待ちましょう。ですので、その後は私の話を聞いてくれますか?」
「それならまぁ……でも、あんまり時間ないから手短にな?」
「えぇ、それはもちろん」
と言う事で幻影女は姿を引っ込め、これからのスキルの使い方について意見を述べていく。
これまでの戦い方では駄目だ、主に俺が。
大火力を“ぶっぱ”すれば、全てが無くなる。
だからこそ小技に力を入れ、出来る限り魔獣の死体の残すべきだ。
そう説明していたのだが。
「クウリ、その、なんだ。この会議は、後にした方が良いと思う」
冷や汗を流すイズが、先程の幻影女に掌を向けながらヒクヒクと笑っていた。
それと同時に、淫乱シスター容姿のダイラも表情が固まっている。
俺達は、支部長の許可の下メイン装備で過ごす事が許されたからな。
許可証も貰ったし、俺は街中で角とか羽とか生やさない限り問題無いと言われた。
だからこそ防御力的な意味で、もはやビビるモノなど無いと酒が回った頭で考えていたのだが。
「あ、終わりました? では、参りましょうか。私の所なら、何日でも滞在して頂いて構いませんよ?」
ほぉ、これはまた太っ腹な依頼人が居たものだ。
などと思っていれば、どこからか出現したメイド達に脇を抱えられ。
「ちょ、ちょっと待った! クウリはまだ返事をしていない!」
「イズ! だ、駄目だよ! だって相手、王族がどうとか言ってたし……抵抗するだけでも重罪になる可能性が……」
「こらぁ! クウリを連れて行くなら、俺も連れていけ!」
良く分からんけど、ギルドから連れ出され馬車へと乗せられるのであった。
その際、仲間達も慌てて同じ馬車に乗り込んで来たが。
あれ、さっきこの人自分の事なんて紹介してたっけ?
そんな事を思いながらも、ボヤァっとする意識のまま馬車で運ばれていくのであった。
なんかこの身体、滅茶苦茶酒に弱くねぇか?
眠いっす。




