第128話 派手に行こうぜ
「ハッ! やっとお出ましか。そりゃ自分の駒を百以上と狩られれば出て来るわな」
クククッと微笑を向けた先に、ドデカイ蝙蝠の化け物が迫って来た。
ダイラの幻影解除のバフを貰っているので、本当にゲテモノにしか見えないが。
もはや本当に虫みたいだ。
それくらいに醜い姿を晒している。
『貴女が月光の魔女? それとも人間の言い伝えだと月の女神と表現した方が相応しいのかしら?』
デカくて歪な蝙蝠は、そんな言葉を吐いてくるが。
こちらとしては口元が吊り上がった。
「残念、俺は月の女神でもなければ魔女でもない。ただの人間だよ、魔王とは呼ばれた事があったけどな?」
『魔王とは……随分と大きく出たわね? 人族風情が』
とかなんとか、化け物蝙蝠が声を上げれば。
ホントに虫みたいに羽を鳴らし始める。
ブブブッと高速で羽を振動させて、音を出すみたいな。
ハッ、蝉かお前? 気色悪いから今すぐ止めた方が良いぜ?
キモいのはその図体だけで十分だろ。
『我が全勢力を持って、お前を殺そう。そして喰う』
「そうかい、こっちとしても全部出て来てくれんのはありがたいね。んで? 俺を喰ったらどうなるんだ? その醜い身体が更に変異したりすんの? 止めといた方が良いと思うけどなぁ……これ以上グロくなったら、サキュバス云々じゃないだろ」
『黙れ小娘が。私は淫魔として闇の適性を持ちながら、聖属性を授かった特殊個体。このまま成長し、いずれは……それこそ“魔王”として名をあげても良い――』
「あ、ゴメン。それ俺も同じだわ、反対の二属適性持ち」
テヘッとばかりに舌を出し、思い切り相手を馬鹿にする表情を作ってみた。
こういうの、魔人相手にも効くのかは知らんけど。
「俺もさぁ、聖属性と闇属性の適性あんだよねぇ。あちゃぁ、自信満々な所ごめんねぇ? 何か特別っぽいとか思ってるかもしれないけど、案外居るのかもね? つまり、お前は凡才って事よ。お分かり?」
『小娘ぇぇ!』
相手は更に羽を振動させ、そこら中……というかテレポしてんじゃないかって程に、配下を呼び寄せ始めた。
そうだ、それで良い。
お前の全勢力を、この場に集めろ。
その方が……一掃するのが楽だから。
『貴様だけは、絶対に私が喰らう!』
「やってみな、不細工な魔人風情が。それこそ、“全勢力”を持って抗いな。害虫ってのはいっぺんに駆除しないと面倒だからなぁ? 全員、準備しろ! 久々にやるぞ、“籠城戦”だ!」
クククッと笑って見せれば、地上からは呆れたため息が返って来た。
「何処が籠城戦だ、お前はもう少し言葉の意味を考えて名前をつけろ。アレは絶対そうは呼ばない」
「いいよーいつでもオッケー。とはいえ、イズの言う通りアレは籠城戦ではないよね。マジで」
「はいはい……相手の戦力が出揃った所で、一気に使えば良いんだよね? 了ー解、いつでもどーぞ?」
両手剣を振り回している魔女様だけは、皆の声に対して不思議そうな顔をしていたが。
今回だけは、下がっていてもらおう。
俺達が“負けなかった”理由の一片。
それを、お見せしようじゃないか。
ま、初見殺しってだけの大技ぶっぱだけど。
「クハハハッ! どうしたサキュバス! それで全部か!? 全然足りねぇぞ!? 全部連れて来て俺達を落としてみろ! この程度でサキュバスクイーン? 魔王になる? 呆れたもんだぜ……クソ雑魚が、粋がってんじゃねぇよ」
『ブチ犯してやる! 干からびるまで孕ませてから喰ってやる! 死ぬまで後悔しろ小娘が!』
蝙蝠の化け物が両腕を振り上げた瞬間、空を埋め尽くす程にサキュバス共が“発生”した。
そうだ、それで良い。
派手になれば派手になる程、集まって来た兵隊ってのは動きが雑になるんだから。
それはプレイヤーでもエネミーでも同じ事。
PVPで大技を使う奴は二流なんぞと言われたりもするが、要は大技が対処されやすいってだけだ。
だったら、どう足掻いても大技を叩き込める状況を作ってやれば良い。
デカい口を叩くなら、まずは勝って見せろってこった。
「舞台は整ったみたいだなぁ、行くぞお前等! ……始めろ、俺達の為だけの“フィールド”を作れ!」
「「「“覚醒”!」」」
俺の一言で、全員がオーバードライブ状態に転換した。
つまり、あと一分で戦闘を終了すると宣言した様なモノ。
さてさて、サキュバスクイーン。
貴様等は一分間、俺達の攻撃に耐えられるか?
「奥義、“ヒプノシス”」
まずトトン。
奥義ってヤツは、普通にゲームをしていれば大体一つしか取れない。
かなり狙ったスキルの取り方をして、多くて二つ程度。
現状異世界魔法を習得っていうズルをして、俺は“サテライト・レイ”を含めた三つ持っているが。
そして、トトンの奥義の一つ。
ゲーム内では、死にスキルなんて呼ばれていた“ヒプノシス”。
無属性スキルにおいての奥義、言葉による範囲催眠効果で全てからヘイトを買うというとんでもないスキル。
相手に対して強制的に、更に超強力な催眠まで施されてしまえば、フィールドに居る全てのエネミーから一斉に攻撃されてしまい、通常のタンクなら一瞬で“溶ける”。
当然だ、敵全てからの攻撃をその身に受けたら耐えきれる筈がない。
“普通”なら。
更にはこのスキル、ボスのヘイトさえ奪ってみせるのだ。
だからこそ、通常はステージ攻略でこんなスキルを使う馬鹿はいない。
やったとしても自滅覚悟の、ボスに対して一度きりの使い捨てスキル。
そう、嘲笑われた奥義。
しかしながら。
「こっち向けよ、超強力なヘイトコントールだ。全員、俺を攻撃して来なよ」
トトンに関しては、余裕の表情を浮かべて……“バックラー”を構えた。
小盾、普段使っている様な大盾とは違う。
防御できる幅も、威力も低下している。
だが、今回ばかりは求めているのは防御力ではない。
もしも“漏れて”しまった時、パリィだけ出来れば良いという最低限の装備に過ぎないのだ。
「俺まで、“辿り着けたら”……ね?」
トトンがヘイトを集め、そして催眠により強制的に攻撃を仕掛けて来る数多くの相手。
だがタンクに辿り着くその前に、サキュバス達の前に立ちふさがるのは。
「奥義、“煉獄”」
イズの奥義。
上空を含めた、超大火力の炎のフィールド。
一定区間を全て炎に包むという、決まった範囲を焼き尽くす大技。
コレは直接攻撃では無い、間接的な“デバフ”にも近い。
しかしながら、この奥義の炎は……炎症などという軽いバッドステータスでは済まないのだ。
それこそ、骨まで焼き尽くすというフレーバーテキストに嘘偽りがない程。
溶岩神ペレを彷彿とされる様な、近付く者全てを灰にする様な地獄の業火。
そんなフィールドに、次々とサキュバスが突っ込んで来る。
トトンの使った、“ヒプノシス”の挑発の影響で。
奥義なんて言っても、結局はスキルの一つだ。
だからこそ、一つで完成するなんて事は無い。
トトンの使った奥義は評判が悪いし、イズの使った奥義だって単体では賑やかしにしかならない。
だが、それらを組み合わせて使ってみればどうだ?
誰も彼もトトンに攻撃しようとして接近し、イズの炎に焼かれる。
それでも生き残っている様な強者に関しては、トトンがバックラーで軽くパリィ。
隙だらけの相手には、イズが斬撃を入れて終わり。
この空間は、文字通り“地獄”なのだ。
前衛だけで完成する、炎の処刑場に他ならない。
「ククッ、クハハハッ! 本当に単純だなぁお前等! 炎に集まって来る羽虫かよ!?」
『クソガキがぁぁぁ!』
相手も流石に馬鹿ではない様で、どうにか距離を取りながら魔法攻撃に切り替えた様だが。
どうにもトトンの“ヒプノシス”の影響が消えない御様子で、無意識ながらも近づいて来てしまっている。
ぶわぁぁか、そんな中途半端な位置で何が出来る?
更に言うなら、コレで終わりだと思ったか?
ゲーム内での催眠系スキルは、プレイヤーの意思に関係なくアバターが強制行動を取るといった現象が起こる。
しかし今のサキュバスクイーンの様に、催眠に耐性があるプレイヤーだって当然居るのだ。
だからこそこの二つだけでは当然対処されてしまう上に、人間相手だと初見くらいしか通用しない作戦。
なら当然、この先だって考えていないと嘘だろう。
それに俺達は、“籠城戦”をやると言ったんだぜ?
「奥義、“テオドシウスの城壁”」
周囲に光の城が構築されていき、相手の魔法攻撃は全て無効。
そしてMPの切れたエネミーから、直接戦闘に切り替えて此方に襲って来る。
飛び込めば、地獄の業火に焼かれるというのに。
『や、止めろ……止めるんだお前等。その炎に近付いてはいけない……何故分からないんだ……』
サキュバスクイーンからは、そんな混乱した様な声を上がるが。
此方としては笑い声しか漏れなかった。
いくら配下に声を掛けようが無駄なんだよ、クイーン。
こっちは“奥義”の重ね技だ、貴様等の低次元の魔法なんぞじゃ抵抗も出来ないんだよ。
お前自身すら無意識に近づいて来ている程だ、たかが知れている。
どいつもコイツも、トトンの“こっちに来い”って催眠に掛かり。
集まって来た奴等はイズの炎に焼かれる。
未だ無駄な抵抗をして、遠距離攻撃をして来る奴らの攻撃はダイラの城壁に防がれる。
更には。
「クハハハッ! コレが俺達の戦闘だ! たった四人で全て殲滅して来たパーティなんだよ! そんでもって、いつまでお前はそんな離れた所に居るんだ? とっととこっちに来いよ、一緒に楽しもうぜ?」
『や、止めろ……』
「来ないなら……こっちから行くぞ? 遊ぼうぜ、女王様。覚醒、“デウス・マキナ”」
トトンが敵を集め、イズが集まった連中を殲滅。
ダイラが全てを防ぎながら、俺が遠距離攻撃。
コレが、俺達の“籠城戦”だ。
「寄って来てたら当然狩るけど。離れた相手にはビームも撃つんだよね、俺達の城は」
『ふ、ふざけ……』
身体のほとんどを失ったサキュバスクイーンが、ボロボロと崩れながら大地へと落下していく。
もはや残りカス程度になってしまったソレすら、大地に触れる前に闇属性の呪い効果によって完全に崩壊する。
残念だったな、女王様。
お前の軍勢じゃ、俺達の城を落とす事は出来なかったみたいだ。
「常に優位に立っているつもりで、何も考えず敵の前に現れるマヌケじゃ俺達は攻略出来ねぇよ。次があるなら、もうちょっと頭を使うんだな? たった一分で総崩れを起こしている様じゃ……正直、話にならないぜ?」
上空に漂いながら、ニッと口元を吊り上げるのであった。
サキュバスクイーン、討伐完了だ。
「さて、残ってる雑魚に関しては……」
未だ距離を空けて、どうにかトトンの奥義に抗っている個体も居る。
もはや残党、戦力としては大した事も無い。
近づいてくる相手に関しては炎に焼かれると同時に、デウスマキナのオマケとも言えるデカイ俺の人形が端から叩き落としているし。
という事で、遠くのお片付けは他の者に任せるとしますか。
「ノーライフキング、来い」
『お呼びですか? 我が主』
「後始末だ、全部“喰っちまえ”」
『御意』
軍勢には軍勢を、ここに来てやっとソレっぽい事を始めた訳だが。
逃げまわるサキュバスを追いかける亡霊兵。
更にはノーライフキングが杖を振るえば、空に炎の海が広がった。
ハッハッハ、コイツもなかなか派手にやるじゃないか。
ペレの杖も十二分に使いこなしている様で、頼もしい限りだ。
いいねいいね、久々に思い切りやったわーって気分。
うん、満足!
そんな訳で、奥義を使い終わった俺達は亡霊達の殲滅戦を眺めるのであった。




