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第125話 グイグイ行く王女


 ステラ王女と色々お話した後、冒険者ギルドに帰って来た訳だが。

 正面入り口で、改めて背後を振り返ってみると。

 何故か、後ろから付いて来る王女様。


「あの……姫様までギルドに行かなくても」


「見ていないと逃げそうなので。それに私も、ギルドで少々お話を伺いたいですし」


「あ、はい……」


 と言う事で、俺のパーティ五人。

 少年少女パーティ五人。

 その後ろに続く姫様と護衛達がゾロゾロ。

 とんでもなく目を引く上に、兵だか騎士だか分からない皆様は鎧が派手。

 そんでもって鎧にもマントにも国の紋章が入っているので、とにかく目立つ。

 もうね、諦めよう。

 駄目だコレ、この人と関わった時点で目立つ運命にあるのだ。

 と言う事で、大きなため息を溢しつつギルドの玄関を開けてみれば。


「クウリさん! やっと帰って来ましたか! 此方へ!」


 なんか、慌てた様子の受付嬢に呼ばれてしまった。

 はて、何かあったのかな。

 魔人戦には参加しないって表明したし、今回も受けた依頼は普通の物。

 だからこそ、ここまで慌てる様な要素は無いと思うのだが。

 もしかして魔人の方の現場が荒れてるとか? だとしたら後から参加すると不味いんだけど。

 冒険者もろとも吹き飛ばして良いと言われないと、俺攻撃出来ないし。

 とか何とか、ポリポリと頬を掻いていれば。


「皆様は建物前で待機していて下さい、私だけでお話を伺って来ます」


「しかし、イーニステラ様」


「命令です、そしてご安心なさい。今ココには、この場で戦争が起きても全てを焼き払える程の実力者達が居ますから」


「イーニステラ様が語っていた魔人殺しですか……未だに信じられませんが、了解致しました。待機致します」


 などと後ろから聞えて来て、姫様だけギルド内に入った御様子。

 姫様ー? 何か凄い事言っていたけど。

 その焼き払う対象が相手だけとは限らないんだよー?

 この場でサテライトレイとか使ったら、多分パーティ以外全員死んじゃうからね。

 過剰な信頼はいらいないぞー?

 なんて、呆れたため息を溢しつつ受付嬢について行くと。


「あ、あのですね……先日の依頼の件なんですが……やはり受けて頂く事は出来ないでしょうか? どうしても駄目ですか?」


 妙に怯えた様子で、受付嬢はそんな事を言って来た。

 こっちとしちゃウマミが少ないし、しかもサキュバスの“確保”が目的なんだろ?

 嫌だよ面倒臭い、しかもその淫魔達を使って戦力増強しようとしているのが目に見えているし。

 そういう政治的な事は関わるの御免でーす。

 という感じに、改めてお断り申し上げてみれば。


「そ、それが……依頼主、この街の領主様なんです。ご本人も直接この場に来て、魔人を退けた貴女達を部隊に加えろ、と」


「ふーん?」


「いえ、ふーんではなくて。この街を管理している人ですよ? そんな人から目を付けられたら、この先この街でお仕事なんてとても……」


「だったら、出て行くけど。元々根無し草だし」


「こ、困ります! あの調子では何かあった場合、冒険者ギルドに全責任を負わせてきそうですし……今は支部長が、領主様のお屋敷で必死に説得を試みておりますが……」


 正直に言いましょう。

 めんっっどくせぇ!

 サキュバス欲しいんでしょ? 戦闘面なんだか娯楽の為なんだか知らないけど。

 しかも領主? あぁそうお金持ちは考える事が凄いねぇ。

 魔人って言ったら人類の敵だーみたいな事言ってんのに、それを自らの懐に入れようとしてんだから大したもんだ。

 もしかしたら国家転覆とか狙ってる?

 そんなもんの片棒を担がされるのとか、マジで勘弁なんだが。

 それこそ後から何を言われるか分かったもんじゃない。


「ステラ、悪いんだけどソッチに頼んで良い? 俺等じゃ対処出来ない事態っぽい」


 非常に大きなため息を溢し、背後へと視線を向けてみると。

 そこには、とても良い笑顔を浮かべているお姫様が。


「貸し、ひとつですよ?」


「……へーへー、了解ですよ」


 この人、絶対借りを作ったらいけないタイプだと思うのだが。

 流石に相手も権力者となれば、俺達で対処する訳にもいかないだろう。

 相手の御屋敷をデウスマキナで吹っ飛ばして終わり、だったら楽なのだが。

 それは流石に不味い。

 だったら俺等の平穏の為にやる事は一つ。

 目には目を、権力者には権力者を、だ。


「ついでに、この際事態を荒らして掻っ攫っちゃいませんか? 皆様の協力さえ得られるのなら、それはもう此方も大きく出られますけど」


「おーい、お姫様? なんか怖い事考えてない?」


 ニコニコ笑顔のお姫様は、困惑する受付嬢をシカトしたまま俺の正面に立ち。


「魔人の確保、それはもう完全に自らの力を蓄えようとしているとしか考えられませんね。国家に反逆するつもりなのかと、流石に私でも警戒してしまいます。これから嫁入りするのに、国内がそれでは非常に困ってしまいますねぇ。管理する筈の領地から、魔人が溢れ出して王都を攻め落とした。なんてシナリオになったら、いくらなんでも笑えませんし」


「……つまり」


「魔人に関して、私達には基本的に情報が少ない。もしも交渉出来たり、和解できる相手だというのなら、此方としてももう少し検討しますが。それは結果次第となりそうですし、お話を聞く限り大きな期待は出来ません。そんな事をやっている内にも、何体の魔人が領主の手に渡るか想像出来ませんし。なので」


 ニコッと更に微笑む王女様は、ビシッと俺達に向かって人差し指を立ててから。


「この国の王子と式を上げるわたくし、今はまだ隣国の姫でしかありませんが。イーニステラ・ローラント・ディアスが、貴女方のパーティに依頼を出しましょう。“殲滅せよ”、と。国どころか世界にとっての驚異を、排除してくださいませ。皆様方なら、得意分野でしょう? 魔人そのものが居なくなってしまえば、此方の領主もそんなもの確保しようがありませんから」


 おっとっとぉ?

 こりゃまた、凄い事になって来たぞ?

 この街の領主様に喧嘩を売る形で、今後更に上の存在になるであろう王子の嫁さんから依頼を出されてしまった。

 まだ正式に結婚した訳でも無いだろうに。

 今からこんな事して大丈夫かって思ってしまうが。


「いいのかよ? 正式な結婚前からこんな面倒事に首を突っ込んで」


「私のお相手なら、この問題を何故放置したのかと怒りますわ。なんたって、私の口から貴方達の活躍を存分に語りましたから」


 勘弁してくれよ、マジで。

 なんて思いながらも、こちらとしてはニッと口元が吊り上がった。

 相も変わらずやる事が派手だねぇ、この人は。

 ま、そう言う所は嫌いじゃないが。

 俺としちゃ、こっちの仕事の方が性に合ってる。

 悪い芽は早い内に、大地ごとまとめて焼き尽くしてしまおうではないか。


 ※※※


 そんなことがあってから、数日後。


「作 戦 会 議! です!」


「あ、はい」


 もうノリノリになってしまった王女。

 それを冷めた瞳で見つめる俺達と、少年少女がガクブル。

 周囲の兵士達は、もはや溜息を溢しているが。


「まずはこの街の領主ですね。潰しちゃって、次の人材を当てましょうか。権力さえ確たるものになっていれば、今すぐ首を落としちゃっても良いくらいなんですけど。まぁ今の私はまだ余所者ですし」


「いや怖っ!? サラッととんでもない事言うなよ!?」


 思わず突っ込んでしまったが、周囲の兵達は剣に手を掛け。

 教え子たちは必死で俺を止めて来た。


「貴様ぁ! 誰に向かって口をきいている! 身の程を弁えんか!」


「クウリさん不味いですって! 相手は王族なんですよ!? しかも聞いている限り、今度はこの国の王族になるんでしょう!? 普通に打ち首になりますって!」


 いや、確かにそれくらいの立場に居る相手ってのは分かるんだよ。

 でもね、どうしても突っ込みたくなるのよこの人。


「お黙りなさい! 今は作戦会議が最優先! 不敬だ何だと下らない事を言っている事態ではありませんわ!」


 なんて、大々的に発表し兵達も引かせてみせる訳だが。

 アレだな、間違いない。

 この人、この手の話に直接噛めるのが楽しくて仕方ないんだな。

 相も変わらず好奇心旺盛だねぇ、姫様は。


「あーえぇと、とりあえず。領主の方はどうなん? 何か色々調べてたよな?」


「真っ黒、ですわね。よくもまぁここまで罰せられずに済んだモノだと、関心してしまいました。件のサキュバスも、自らの私兵と娯楽。そしてちょっと良くない噂のある娼館の繋がりを使って、色々な所から搾り取ろうとしていると、買収した使用人から報告が上がっております。何に使ってもお金になる存在を見つけて、必死で全て懐に収めようとしている訳ですね」


 いやはや、その領主様ってのも凄いが。

 姫様が怖いわ、今普通に買収って言った。

 たった数日でようやるわ……こんなのが物語のヒロイン的立ち位置のお姫様だったら、主人公が登場する前にラスボスが断頭台に立たされそうだ。


「それで、クウリさん。貴女から見てサキュバスは交渉が可能だと思いますか? 直接戦闘を行った人物として、意見を聞かせて下さい。それによっては、こちらの動き方も結構変わって来るのですが」


「あーえっと……」


 話自体は出来た、とは思うが。

 そのまま一気に捕縛しちゃったからなぁ……会話が出来たから交渉だとか、和平もいけるんじゃねぇ? 知らんけどって程度しか、情報がないんだよな。

 俺と魔女でイジメただけみたいになっちゃったし。

 それこそ確保した最初の一匹はどうしたのよ。

 もしかして、もう領主に取られちゃったのだろうか?

 だとしたら今からギルドに乗り込んで、「ちょっとギルマスー、しっかりしなさいよ~」って言ってやらないと。

 ついにこの性別を最大限に利用する時が来たか、とか思っていれば。


「止めた方が良いわ。魔人とは、基本的に人族と相いれないから。そんな事をした所で、時間の無駄よ」


 結論としてどう答えようかと悩んでいた所、エレーヌが静かに声を上げた。


「……それはどういった根拠で? それからすみません、今更ですが貴女は? クウリさん達の新しいパーティメンバーでしょうか? そちらの新人の方々とは、雰囲気からして明らかに違いますし」


「私はエレーヌ・ジュグラリス。忌み嫌われた古代の魔女よ」


 自己紹介は良いけど最後に余計な事言うな、とか言いたくなったが。

 王女に関しては更に彼女に興味を示し、ズイズイと身を乗り出して来る。

 そっちもそっちで、新しい玩具見つけたみたいな顔してこっち来るな。


「コホン……それで、先程の話。もう少し詳しくお聞きしても? 何故、交渉も不可能だと?」


 明らかに興味が先行しているが、今は我慢した様だ。

 魔女に対して、私気になります! ってばりに身を乗り出す王女様だったが、どうにか欲求を飲み込んだ。

 俺の周りに現れる女の人って、何でこんな好奇心旺盛なの?

 何かもう、皆グイグイと事態に首突っ込もうとする人ばっかだよ。

 他人の事言えない気がするけど、隣で改めてため息を溢していると。


「逆に聞くけど、人族を食料として見ている、実際に食べている相手と何故交渉する必要があるの? 魔族というのは、人を食べるのよ? それが自らの力に変わると信じて、人肉を食すの。それはサキュバスでも変わらないわ」


 エレーヌの言い放った一言によって、室内は凍り付いた。

 あぁ~うん、なるほどね。

 それは確かに、和平とか無理っすわ。

 相手から見たら、俺等食料だもんね。

 交渉出来たとしても、上手い事言ってまるっと食いつくされるのがオチですわ。

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