第124話 権力者と権力者
そのまま、街へと馬車で連行された俺達。
そして何だかでっかいお屋敷に連れて行かれ、随分と広い部屋に通されてしまった。
ここ、どこ。
「そう警戒しないで下さい……皆様を無理やり私兵に~とか、ウチの国へ連れ戻して強制的に陛下と謁見を~なんて考えていませんから。冗談ではなく、本気で」
と、言う事らしく。
ステラ王女は非常に大きなため息を溢して、対面席のでっかいソファーに腰を下ろした。
俺達のパーティ五人は向かい側に座っているが、少年少女組に関しては隣のテーブルに着いている。
そっちは皆、緊張の為か表情が真っ青な上にガタガタ震えているが。
「えぇと……何から聞いたら良いのか。王女が何でコッチの国に? っていうのと、“そういうの”が目的でないのなら、なんでまだ俺達を?」
なんかもう此方も溜息しか零れないが、諦めて率直に確認してみた結果。
相手は非常にニコニコと微笑み始めた。
それはもう、怖いくらいに。
「まず、そうですね。貴女達の活躍のお陰で、私にもある意味“価値”が付きまして。その為、コチラの国の王子と婚約が決まりました。というか正式にお話が進み、式も間近です。お互い良い歳ですし」
「お、おめでとうございます?」
は、はは……と乾いた笑い声しか出てこない。
だって王女様、笑顔なのに声が笑ってないの。
「確かに、おめでたい事ですけども……フフフッ、貴女方をあっさりと逃がした私は、それはもう母国の方ではチクチクチクチクと嫌味を言われる様になってしまいまして」
「いやぁ……その、はい。すんません」
「今後もし同じような事があっても! 絶対に逃げないで下さいね!? 私を通した依頼であれば、行動を制限したり権力で押さえつける様な真似はしないですから! せめて褒美くらいは受け取って下さいね!? それが支払われないって、結構不味い事なんですよ! 陛下、ひいては国のイメージにも直結する大問題なんですからね!? 少しは此方の顔も立てて下さい!」
なんか、ごめんなさい。
メンドクセーって思ってさっさと出て来ちゃったけど。
俺達の行動のせいで、王女様めちゃくちゃ苦労したっぽい。
「まぁそんな珍しい行動を取る冒険者と繋がりがあるって事で、此方の国の王子とは会話が弾み、見初められた訳ですけど。ありがとうございました」
「……どういたしまして?」
「そして正式に日程が決まり、そのまま此方へ引っ越す事になりましたので。その移動中付近の街の冒険者ギルド全てに顔を出し、貴女達の登録が無いか調べました」
「こえぇよ! その執念が怖いわ!」
思わず引いてしまったが、相手は大真面目な御様子で。
これまでのギルドの情報をテーブルに並べ始めた。
「なかなか派手な旅路な御様子で。隠れるつもりとかありませんよね?」
「……」
怖いよぉ……何かまた“お願い”がどうとか言っていたし。
もしかして、サキュバス確保の依頼出したのって姫様?
そんなの成功させたら、絶対また狙われるじゃん。
というか王族同士の結婚って、そんなあっさり済むモノなの?
もう引っ越しとか言っているけど、もっとこうえらく手間の掛るイベントな気がするんだけど。
あっ、もしかして相手の王子も行き遅れており、もうこの歳だから身内だけで~みたいなアレですか? 良い歳だ、とは言ってたしね。
とか余分な事考えていたら、また睨まれてしまったが。
「ということで私の“お願い”としては、ここからしばらく移動した先、この国の王都まで護衛して下さいというモノです。正直、お礼と恨み言を伝えたかったので」
「……うん?」
「なんですか? 久しぶりに会ったのですから、色々話したいと思うのは普通ではありませんか? それこそ貴女達が逃げ出した後、私がどれ程怒られたか。それを語り聞かせないと気が収まらなくて――」
「じゃなくて、お願い……ってか依頼って、サキュバス関連の事じゃないの? また魔人関係かなって思ったんだけど」
「……はい? なんですかソレ? 魔人が出たんですか? この街に着いたのもつい先日ですから、あまり情報が収集出来ていないんですが」
ありゃぁ?
別に護衛くらいなら受けても良いんだけど。
魔人、放置で良い感じなのかな?
「あ、じゃぁその依頼受けますから。サクッと次の街に向かいましょうか」
わーい、姫様の護衛って言えば誰かから嫌味言われる心配もないし、他の偉い人から絡まれる心配もないやー。
とか何とか、適当に話を流そうとしてみれば。
「……でしょうが」
「はい?」
「出来る訳無いでしょうが! 私一応この国の王子に嫁入り予定なんですよ!? 通りがかった所に魔人が出たとなれば、放っていける訳無いでしょうが!」
それは、お姫様がやる仕事ではないのでは?
旦那さんとしては、もはやさっさと王都に来いよって言いたくなる事態なのではー?
相変らず血気盛んな御様子で、逞しい限りだ。
などと呆れた視線を向けてしまったが。
「いや、そうなるとあの依頼ってどこの誰が出したんだ?」
「何の話ですか? ちょっと詳しくお聞きしたいのですが」
と言う事で俺達に出されたという直接依頼の内容を、洗いざらいぶちまけるのであった。
※※※
「おい! サキュバスを連れ帰って来た冒険者はまだ来ないのか!? ソイツ等をとっとと俺の前に連れて来い!」
「そ、そう仰られましても……」
冒険者ギルドのカウンターで叫び声を上げてみれば、受付嬢は慌てるばかりで話にならない。
もはやギルド支部長を呼び出せと言い放ってみれば、ソイツもろくな対応は出来ず。
「え、えぇと……その者達は、どうやらここ最近“新人教育”の様な事をしているらしく。今回の魔人戦には参加しないと表明しておりまして……」
「ふざけるな! たった数名で魔人を無力化して、生け捕りにして来る程の実力者を、お前達はそんな事に使っているのか!? 命令だ! 今すぐにソイツ等を俺の前に連れて来い! 金は出すと言っているのに、何故ソイツ等は仕事を受けない!? 全く、身の程知らずが! 冒険者なんぞ依頼人に従って戦うだけしか能の無い連中だろうが!」
イライラしながら叫んでみると、未だ慌てた様子を見せる支部長と、気まずそうに視線を逸らしている受付嬢。
コイツ等、何か知っているな?
「おい、そこの受付嬢。知っている事を言え、ソイツ等は何か言っていなかったか?」
「ヒッ!」
視線を逸らしていた女を呼びつけ、詳しく話を聞いてみれば。
「――と言う事で、お仕事は受けないと」
「違うな、まだ何か言っていた筈だ。ソイツ等が言っていた事を一言一句誤魔化さずに、俺に教えてみろ」
「……えぇと、その」
「早くしないか愚図が! 俺は忙しいんだ!」
ドンッ! とカウンターに拳を叩きつけてみれば。
随分と怯えた表情を見せつつも、受付嬢はポツリポツリと言葉を紡ぎ始め。
「サキュバスが欲しいのなら、自分でやれ……と」
「は? 随分と舐めた口をきく冒険者だな、他には?」
「その……」
やけにモジモジというか、言って良いのか迷っている様子を浮かべている受付嬢。
いつまで経っても口を開かないソイツに苛立ち、もう一度カウンターを殴りつけてみると。
相手は短い悲鳴を上げてから、観念した様子で喋り始めた。
「頭を下げろ、と……」
「何だと?」
「で、ですから……俺の前に跪いて頭を垂れろ。そしたら、話くらい聞いてやるって……そう言っていました」
その言葉を聞いた瞬間、ブチッと何かがキレた気がした。
ほほぉ……冒険者風情が、俺にそんな口を利いたのか。
それはそれは、随分と度胸がある様で何よりだ。
この俺が、今回の仕事の依頼人がこの街を治めている人間だと知って、その言葉を吐いたというのなら。
「何が何でも、その冒険者を呼び出せ……」
「で、ですが。当人たちは今日も他の依頼で外に出ており……今すぐという訳には……その」
「だったら帰って来た瞬間取り押さえて、俺の元まで連れて来い!」
「ひ、ひぃっ!?」
この街は、俺の物だ。
その支配下で生きているだけの、しかも底辺とも言える冒険者風情が。
俺に偉そうな態度を取った事、絶対に後悔させてやる。