第123話 再会
「ウォォォォ!」
「ダッサム! 新しい武器が嬉しいのは分かる! 分かるけど抑えて! いつも通りに!」
「うぉぉぉぉ!」
「セリナも! 新しい杖が凄いのは分かったから、バフ盛り過ぎ! ダッサムが興奮状態になってるから!」
「カイ……あのさ、コレ……バッファーとタンクだけで終わりそうなんだけど」
「いやぁ、でも気持ちわかるなぁ……私も貰ったナイフ初めて使った時、滅茶苦茶興奮したし」
少年達が苦戦していた、仲間達の活躍によって。
あっちゃぁ……アレくらいのプラス値でも、結構変わるのか。
とはいえ、ベースに使った武具の数々は本当にそこらに売っている様なモノ。
多分育って行って、他に良い武装を手に入れれば見劣りするだろうなぁってレベルなのだが。
そっかぁ……強化武器は、基本人をおかしくするらしい。
もう渡さない方が良いかなぁ……なんて思っていたのだが。
「師匠から俺も杖を貰うんだ! 次! 次の戦闘!」
昨日までクールな男を目指していた筈のロラン君まで、おかしくなっていた。
あと渡してないの彼とリーダーのカイ君だけだよ……大丈夫かな、コレ。
なんて、ため息を溢してしまったが。
実績としては、上々なのだ。
昨日まで苦戦していた様な相手ですら、呆気なく終わらせている。
それは武装の強化だけではなく、本人達の実力が向上しているのが分かる。
今はちょっと暴走気味だが、連携が始まってみれば初めの頃とは比べ物にならないし。
だからこそ、間違ってはいない……はず。
「いや、今は興奮している様だが。良いんじゃないか? 逆に武器に合わせようとして、皆実力以上を引っ張り出そうと奮闘している。これまでの限界を越えるという意味では、悪くないと思うぞ」
というイズの意見を貰い、ホッと安堵の息を溢してしまった。
なるほど、そういう考え方もあるのか。
武器が強くなったから調子に乗っているのではなく、その武器に相応しくなろうと頑張っている最中。
そう言う意味ではとても素直なパーティだと、改めて賞賛しておこう。
ちょっとテンションヤバいけど。
「サキュバスの方はどうなっただろうねぇ? そろそろ調査隊ぐらいは動き始めたかな?」
「……さぁな」
ポツリと呟いたトトンの一言に、思わず視線を逸らしてしまった。
俺達が全部をやってやる必要は無い、それは分かっているのだが。
どうしたって、冷静になってしまえば気になってしまう訳で。
もしも俺がリジェネを使わなければ、こんな事態にならなかったんじゃないか?
とか想像してしまうが、相手は軍勢と表現した。
つまり戦闘の準備をしていたと言う事。
だとすれば、遅かれ早かれこの事態には陥っていた。
だからこそ、俺が気にする事じゃない。
きっかけを見つけただけで、きっかけを作った訳ではないのだから。
それは理解しているんだが。
「駄目だよクウリ、全部守ろうとしちゃ。そんな事したら、何でもかんでも俺達の責任になっちゃうからね?」
「……分かってるよ、ダイラ」
視線を逸らしたその先からは、とても心配そうな瞳を向けられてしまうのであった。
あぁ~ったく、後味悪いなホント。
パーッと解決して、皆でヤッター! それで終われば良いのに。
現実ってのは、そうじゃない。
力を示せば権力者から目を付けられ、次の厄介事に巻き込まれる運命が待っている。
それを避ける為に、俺達は各地を転々としながら旅を続けてきたのだ。
だからこそ、見捨てる選択だって絶対に必要。
それが出来なければ、次は仲間達が犠牲になるかもしれないのだから。
ならどちらを優先する? そう聞かれれば、俺の答えなんて最初から決まっている筈だ。
「はぁぁ……魔王だ何だと言われても、こういうのだけは慣れねぇわ。マジで」
「お優しいのね、本当に。思考は魔王なのに、心は聖母って事? それこそ、聖と魔を司る術師の象徴という所かしらね」
「煽るんじゃねぇよ、魔女」
「あら、これまでは貴女のやり方だったと思ったけど?」
シレッとそんな事を言い放つ魔女に睨みをきかせてみれば、相手は何処に吹く風と言ったご様子。
あーあーそうですよ。
あんな事言っておきながら、未だ気になって燻っている中途半端な野郎が俺ですよ。
なんて、思い切り溜息を溢していると。
「討伐完了! 周辺調査!」
どうやら教え子たちは順調に戦闘を終えたらしく、いつも通りのルーティンを行っていた。
うん、短い間で本当に強くなったんじゃないかな。
これならもう、俺達が付き添っていても邪魔にしかならないだろう。
俺等っていう“保険”は、近くに居るべきではない。
ゲームで言うとこれからって所なんだろうけど。
ま、一旦離れるとしますかね。
※※※
「はい、皆お疲れ様。んじゃ飯の前に、残る二人に“御褒美”を渡しておこうかな?」
それだけ言って、残るロラン君とカイ君に武器を贈呈した。
なんて事は無い、そこらに売っている武装にプラス値を付けただけ。
しかしながら、彼等からすれば特別なモノの様で。
「「ありがとうございます!」」
二人揃って、勢いよく頭を下げてくれた。
だけどもまぁ、コレだけは言っておかないとな。
「皆良く聞いてくれ。確かにそれらは、今皆が使っている武装に比べれば“特別”かもしれない。だけど間違いなく、このまま冒険者を続けていればソレより良い装備に出会うことだろう。その時は、きっぱりと“切り替えろ”。お前達に渡した武装は、どうしたって通過点だ。いつまでも拘るな、恩義を感じて使い続けるな。それより良い武装が手に入った時は、絶対にそっちを使え。それも、生き残る術だからな」
実際に命を預ける武装だからこそ、ちゃんと言い聞かせておかないと。
皆が俺達に懐いてくれたのは知っているが、その影響でこの武装に拘られても困る。
より良い武装が手に入ったのなら、そっちを使え。
これだけは、ちゃんと覚えてもらってから離れなくては。
「あの……クウリさん、このままだと……俺、その指示に従えそうにないんで。今この場で言わせてもらいます……好きです! 多分一目惚れでした!」
そう言って、リーダーの少年が俺に頭を下げて来た。
わぁお、急だね。
というか俺も精神的には男なので、こういう展開もっと気持ち悪いって思うかと想像していたが。
こうも真っすぐ来ると逆に清々しいな、まさに青春って感じだ。
だがまぁ、しかし
「うん、ゴメン。無理」
めっちゃ率直にお断りしてみると、彼はヘヘッと笑い声を上げてから。
「ですよね、分かってました。でも、これで吹っ切れました。だからこそこの武器を掴んで、例え皆さんの事を思い出したとしても。師としてなら、思い出しても良いですか? 俺達は、貴女達の事を“先生”と呼んでも良いですか? そしたら、いつかきっと。これより凄い武器を見つけて、ちゃんと卒業出来ましたって言える気がするんです。俺達も一人前になったんですって、胸を張って皆さんの前に立てる気がします」
「先生、ねぇ」
ハハッと軽い笑い声を溢してみるものの……こういう雰囲気、ちょっと苦手なんです。
君達と比べればオジサンなんで、若者の成長とかちょっと涙腺に来ちゃったりするんです。
とかやっていると、仲間達がフォローしてくれるらしく。
「カイ、ダッサム、リタ。お前達はまだまだ教える所が多い、しかしながらしっかりと成長した。まずは自信を持て、自らの役割をしっかりと理解しろ。そうすれば……パーティの前衛は崩れないさ」
「「「はいっ! イズ先生!」」」
「俺から特に言う事は無いけどさぁ~ダッサム、だっけ? タンクの人。人は見た目じゃないからね? 自信喪失したのも俺が原因、みたいな事言ってたけど。そういうの、止めた方が良いよ? 他人は他人、アンタはアンタだ。だったら、自分に出来る事やるしかないっしょ。大丈夫、強いよ、アンタは」
「あ、ありがとうございます!」
珍しく良い事を言ったトトンに対し、ダッサム君は土下座せんばかりに頭を下げる訳だが。
続く術師たちに関しては。
「セリナちゃんは、もう少し落ち着こうか。あはは、俺が言えた事じゃないんだけど。皆を助けるバフ、皆を守る防壁。そういうのって、慌てれば慌てる程思考が遅れるから。俺も勉強中なんだけどね? 一緒に頑張ろう」
「ダイラさん……本当に、ありがとうございました!」
何か、一番教育者っぽい言葉を伝えていた。
すげぇ、ダイラすげぇ。
俺魔王テンションじゃないと、あんなちゃんとした事言えないかもしれない。
「あ、あの……クウリさん」
最後に残った攻撃術師のロラン君。
そうだよね、俺にも何かビシッと決める様な事言って欲しいよね。
分かる、分かるんだけど……コレ、どうしよう。
「き、君には! あれだぁ……俺の得意技を特別に教えよー! さぁ、持って行きたまえー!」
「ありがとうございます! 師匠!」
「「「クウリ!?」」」
コレと言って恰好良い言葉が見つからなかったので、いつも連発しているプラズマレイの魔導書を渡しておいた。
ま、大丈夫でしょ。
アレ結構MP総量が無いと発動すらしないし、適性はこの子とは違うし。
いつか使える様になると良いねぇってくらいで、渡しちゃって良いでしょ。
とか思ったのだが、仲間達からは物凄い視線を向けられてしまった。
な、なんだよぉ!? お前達みたいに綺麗に終わらせる事が出来なそうだったんだから、別に良いだろぉ!?
なんて、不満な瞳を返していれば。
何やら、馬車の群れが俺達の方へ向かって来た。
街道付近ではある為、別におかしい光景ではないのだが。
間違い無く、此方に向かって来ている。
ほほぉ……随分と護衛が多い様で。
こりゃまた、国家権力が動き始めたって所か?
街で依頼を断っちゃったのが、早速影響した?
なんて、警戒していれば。
「見つけましたわ、クウリさん? そして皆様もお元気そうで何よりです」
「……」
一番会いたくない人が、目の前に止まった馬車から降りて来た。
ニコニコしているけど、絶対根に持っている。
そんな相手が、俺の目の前に歩み寄ってから。
「今回もちょっとした“お願い”があるのですけれど、よろしいですか? お仕事のお話ですから、報酬は弾みますとも。まさか……また急に逃げたりは、しませんよね?」
「アッ……ハイ」
おかしいな、俺達は隣の国に移った筈なのに。
なんで俺の目の前に、ステラ王女が立っているんでしょうか!?