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第122話 お断りだ


 その後、一旦街へと帰り。

 縛り上げたエッチなお姉さんをギルドに提出した。

 何聞いてもキーキー騒ぐだけだったので、もう色々諦めた。

 こういう時は……拷問? とか思ったけど、流石に新人たちの前ではなぁ……というのと。

 魔物とは言え、普通にソレは俺も嫌。

 魔法で消し飛ばすならまだしも、ジワリジワリ痛めつけるのとかはちょっと。

 とか思っちゃう時点で、まだまだ俺も人間味溢れていると言って良いのだろう。

 多分。知らんけど。

 エレーヌが「やりましょうか?」みたいな目で見て来たが、もはや面倒臭くなってギルドに丸投げした訳だ。

 その後数日経過、結果から言えば。


「うへぇ、なかなかすげぇ事になっちまったな」


 ギルドは見事、大混乱に見舞われていた。


「アレでも魔人だからな、しかしクウリ。何度でも言うが、俺達を参加させない状態で戦闘に挑んだのは感心しないな。せめて報告はしていけ」


 隣に座っているイズから、ジロッと鋭い目を向けられてしまった。

 正面のトトンからも、ずっとジトッと睨まれているが。

 お前に関しては寝てただろうがい。


「悪かったって。魔女も居たし、本人が大した敵じゃないっていうから。いつも通り適当なエネミーだと思ったんだって説明したじゃんかよ」


「とはいえ、今回ばかりはアバターになっていた事に感謝だねぇ……アレを連れ帰って来てから、男性陣が凄い状態だったし。催淫とか幻覚かなぁ?」


 そう言ってから、ダイラがチラッと視線を向けてみると。

 少年パーティの男性陣が、真っ赤な顔で視線を逸らしていた。

 凄かったのだ、連れ帰って来た時は。

 見事に前屈みになっておられる上、サキュバスが近くに居るだけで影響を及ぼすのか。

 街に帰ってもしばらく行動出来なかった程。

 流石サキュバス、淫魔って凄い。

 俺等と女性陣に関しちゃ全く効果なかったけど。


「あのサキュバスを取り調べして、相手の情報次第では戦争になるかも~って騒いでたね。魔人が街の近くに出たって、連日大騒ぎだよ」


 やれやれと首を振るダイラと、ふーん? 程度に首を傾げているトトン。


「その場合どうするのかな? 女性冒険者だけ集めて、討伐隊を組むとか?」


「だとすれば、間違いなく俺達は呼ばれるな」


 コレと言って問題視もしていないが、戦うならヤルぞ? みたいな雰囲気のイズは相変らず。


「……正直、私達だけで攻め込んだ方が早いと思うけど。弱いのがワラワラ居ても、邪魔になるだけよ?」


 最後の魔女様だけは、かなり物騒な思考回路に陥っている様だが……まぁ俺も似たようなもんか。

 ちょっとお話聞きたいですねー程度には興味があるが、あの様子からして間違いなくコッチを下に見ている連中だろうし。

 やるとしたらサテライト・レイでズドン、はいお終い! でも良い気がして来る。

 せっかく魔人を生きたまま捕まえて来たのに、ギルドは何にも俺達に情報共有してくれないし。

 街に来たばっかりの冒険者じゃ、信用も何も足りないって事なのかねぇ?

 はてさて、どうしたもんか。

 まだ少年達のパーティの訓練も終わってないのだが。

 なんて事を考えながら、席に腰掛けたままボケッとしていれば。


「あ、あの……クウリさん。この状況って、どうすれば良いんでしょうか?」


 不安そうな様子を浮かべるセリナさんが、斥候のリタさんを連れてこっちのテーブルにやって来た。

 どうしたもんかね、俺にも分かんないや。

 とりあえずギルドの結果報告待ちかなぁ、なんて。

 適当に雑談していると。


「これより、ギルドから魔人発見地域周辺の調査依頼を出します! 参加希望者は此方に集まって下さい!」


 という、受付嬢の声がギルド内に響いた。

 おや、急に全面戦争とかそういう事にはならなかったのか。

 あのサキュバスが口を割らなかったのか? 割と意外。

 あと、男女の制限とかは付いていないみたいだ。

 そっちも結構意外。

 そしてそう言う情報、俺達に先に教えてくれたりはしないのね。

 とか何とか思っていれば。


「あの……すみません、貴女がクウリさんでよろしいですか?」


「あ、はい。俺がクウリですけど。どうかしました?」


 さっきから大声を上げている受付嬢とは別の人が、個別に此方に声を掛けて来た。

 そして、一枚の依頼書を此方に差し出してから。


「今回魔人を確保して来た貴女方に、直接依頼です。魔人なら国からも補助金も出ますし、依頼者から前金もあります……どうか、魔人調査部隊に参加して頂けないでしょうか?」


 だ、そうです。

 ここで派手に動けば、多分また目を付けられたのだろう。

 これに従ってしまえば、また動き辛くなってしまうかもしれない。

 とはいえ、今回の件に関しては俺が街中に火種を持ち込んだ形になる訳だし。

 元々近くに居たヤツを見つけただけで、俺が悪い訳じゃないけど。

 でもまぁ勿論協力するつもりではいる……なんて、思っていたのだが。


「ふぅん……」


「どうした? クウリ」


 不思議そうな声を上げながら、イズを始めとした仲間達が覗き込んで来るけども。

 受け取った依頼書には、随分と我儘な内容が書かれていた。


「サキュバスを、可能な限り“確保”……ねぇ?」


「はい……魔人にも“隷属の首輪”という道具が効果を発揮する事がわかりました。本来の効果程ではありませんが……だからこそ、可能な限り此方の戦力にしたいと、そういう事みたいです。これも“上”の決定ですから、その……」


 つまり現場の安全マージンは度外視、一匹でも多く此方に連れて来て隷属させろと言う訳か。

 ハッ、立場のある人が絡んで来ると、随分と話が物騒になるもんだね。

 コレを実行すれば、この戦力は次にどこへ牙を剥く事やら。

 まぁ、俺達の知ったこっちゃないが。

 が、しかし。


「断る」


「……え?」


 受付嬢に対し、その依頼書を突っ返した。

 相手は随分と混乱している御様子で、こっちとしても申し訳ないのだけれども。


「普通の討伐依頼なら、受けても良いかもな。しかしながら、こんな下らない思考駄々洩れの依頼に付き合わされるのは御免だ。欲しいのなら、自分でやれって言っておいてくれ。生憎と、俺の魔法はそこまで融通が利かないんでね。全部消し飛ばせって依頼なら、受けても問題無いけど」


「えっと、あの……コレを受けてい頂かないと、その……罰則とか、あるかもしれません……よ? だって、えと……大きな声では言えないんですけど、この依頼には結構な立場の方も関わっていて……」


「ほう? なら、余計に良く言っておいてくれないかな」


「ヒッ!?」


 此方がニィッと口元を吊り上げ、足を組んだ瞬間。

 多分、パーティ全員の視線が彼女の事を見つめていた。

 その瞳は何処までも冷たく、随分と刺激的なモノだった事だろう。

 全員の言いたい事など決まっている。

 余計な事に俺達を巻き込むな、だ。

 生憎と、そのお偉いさんとは面識も何も無いんでね。

 言う事を聞いてやる筋合いはない。


「誰かにお願いをするなら、まずお願いする奴が目の前に来てから頭を下げるべきだよな? その結構な立場の相手ってのが、貴族だか王族だが知らないが……俺の前に跪いて頭を垂れろ。そしたら、話くらい聞いてやるって伝えておいてくれ」


 ま、断わる方便なんですけどね。

 偉い人と関わるの面倒くさいし、片っ端からサキュバス捕まえて来たら、絶対俺等も目を付けられるし。

 その戦力が他に牙を剥いた時、俺等が共犯者扱いされても嫌だしね。

 と言う事でクククッと笑みを作りながら席を立ち、少年達を連れてクエストボードに向かった。

 そのまま適当な依頼を剥ぎ取り。


「今日はコレを受けてもらう、良いな?」


「「「「はいっ! 今日もよろしくお願いします!」」」」


 その声を聞いてから、そのままカウンターへ。

 しかしながら……受付さんが皆調査隊の方に取られてしまっている御様子。

 なので、依頼書をカウンターに叩きつけた。


「普通の依頼でも、放っておけばギルドとしては不味いんじゃないの? 悪いけど、こっちの対応もよろしく」


 盛り上がっている冒険者達にククッと笑みを向けてみれば、数名は青い顔を浮かべ、その他多くは反発心を抱いた様な瞳を向けて来た。

 ま、何でも良いさ。

 あのサキュバスもあんまり強くなかったし、あれくらいなら現地の戦力でどうとでもなるだろう。

 急に現れた魔人なんぞ知らんし、捕まえて来いって言われても知らん。

 んな事やっても、俺達にメリット無いし。

 捕えて、情報源として一匹提出したんだから文句を言われる筋合いもない。

 欲しいなら自分達で頑張るこった。

 そんな訳で、俺達はいつもの仕事を受注してからギルドに背を向けるのであった。


「いやぁ~、見事に他の冒険者から睨まれてたな。知るかっつの、最初の一匹は生かして連れて来たんだから、むしろ礼を言って欲しいくらいだぜ」


「ほんっと、クウリも性格が悪いよね。あんな事言わず、もう少し大人しい言い方すれば良いのに」


「でもさぁ~勝手に依頼出して、向こうの都合で断ったら罰則とか、結構イラッと来ない?」


「まぁ気持ちは分かるがな、前回の姫様の二の前にならない事を祈るよ。むしろ彼女の場合は直接俺達に頭を下げたんだ。今更だが、融通の利く人だったのだろうな」


「どうでも良いけど、難儀なモノね。実力を見せれば見せる程、たかって来る馬鹿が現れるのだから。貴女達、いちいちこういうの相手にしているの?」


 ギルドから出るパーティメンバーに関しては、誰しもいつも通り。

 そして、続く面々に関しては。


「や、やば……クウリさん、直接お願いに来て頭を下げろって言い放ったよ……本当に大物貴族とかだった場合、これ不味いんじゃ……」


「で、でも……この人達だったら本当に出来そうで怖いよね……」


 女性陣からはそんなお言葉を頂いてしまい。

 男性陣からは。


「ヤバ……滅茶苦茶格好良い……」


「流石です、師匠」


「俺達、打ち首とかにならないかな……大丈夫かなぁ……」


 という、何とも言えない感想が漏れていた。

 まぁ、良いさ。

 面倒な事になったら街を離れれば良いし、この国でも偉い人の使いっぱしりになるつもりは無い。

 魔人を確保したいのなら、勝手にやれ。

 俺は最初の一匹を見つけた、だから国に対して警告という形で情報提供した。

 ただそれだけなのだから。

 もしも俺達に依頼したいっていうのなら……それこそ、以前のお姫様みたいに俺達に取り入るこったな。

 サキュバス自体の対処ならまだしも、欲張ったお偉いさんの我儘なんぞに付き合う義理は無い。

 というか知らん奴の為に、わざわざ深く関わって助けてやる必要性を感じないし。

 件のサキュバスが俺達を目当てにこの地域に来た、というのなら話は変わるが。

 どうにもそうじゃないみたいだしね、要は現地に元からあった問題を見つけたに過ぎないのだ。

 何か俺等にウマミがあるのなら動いても構わないが……それよりも。


「ここの人間でどれ程相手に対抗できるか。その調査って所かしら」


「さて、どうかね」


「やっぱり貴女は魔王ね。懐に入れた者以外には、絶対に優しさを見せない。むしろ冷酷に対処する」


「当てにされるのと、下らない事に利用されるのが嫌なだけさ。俺は我儘な上に、性格が悪いんでね」


「今だけは、それで納得しておく事にするわ」


 そんな事を魔女は言い放つ訳だが。

 さてさてどうだ? この事態はどう動く?

 この世界における全ての問題を俺達が解消出来る訳じゃない。

 だったら、現地の力ってヤツもちゃんと確認しておかないとな。

 以前に遭遇した兵士達の様に、この街の戦力は髙いのか?

 前の街で出会ったミラさんみたいな、そういう実力者は居るのか?

 そもそもとして、現地の問題は現地の人間で解決するのが普通。

 それがこれまで出来ていたからこそ、この街だって存在している筈なのだ。

 そう言った事を調べるのだって、今後俺達が関わるかどうかの判断基準になるってもんだ。


「生憎と俺達は世界を救う勇者様でも無ければ、正義の味方って訳でもないんでね。友人でもない奴まで全部助けようなんて思っちゃいないさ」


「とか何とか言って、最後にはどうにかしようとするお人好しの癖にね~クウリはいっつもそうじゃん」


「結局最後でやらかして、さっさと街を出る結果になるってオチに一票かなぁ。対処するにしても、控えめにって一番苦手だもんね。時間掛かるし地味だって言って」


「あぁ、それは有り得そうだな。控える事は出来ても、やらないのがクウリだ」


 仲間達に関してはいつも通り、最後まで恰好付けさせてはくれないのであった。

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