第120話 魔人襲来
「寝たわよ」
「流石魔女様、すんごい気配察知能力だ事」
「というか、流石“寝落ちの詩”って感じだねぇ。俺も眠くなって来ちゃった」
そんな事を言いながら、欠伸をかみ殺しているダイラ。
その膝には、ダイラのふとももに頭を乗っけて寝落ちしているトトンが居るが。
「グッ……俺達は見張り。新人の分際で、ここで寝る訳には……」
「……なんか、ゴメンね? やっぱコレ、被害凄いな」
焚火を囲んでいる男子の面々が、必死に頬をつねって目を覚まそうとしている。
寝る前にバッファーのセリナさんに杖を渡したのが良くなかったのか、テントの中からはキャッキャウフフと楽しそうな声がいつまでも響いていたので。
強制的に寝かせました、リジェネで。
「俺達で寝ずの番をしても良いぞ? 無理せずテントに戻れ、今日は疲れただろうしな」
「い、いえ、イズさん……今回の仕事は俺達でって言われましたし、意地でも目を覚まします」
と言う事らしく、必死に色んな所を抓っている若い衆。
これはちょっと、可哀想な事しちゃったな。
「ロラン君、新しい魔導書……要る?」
「ありがとうございます師匠! 目が覚めました!」
一人だけ分かりやすく目を覚ましたな、凄い。
勉強の意欲が睡魔を上回ったらしい、普通は逆の状況になって苦戦すると思うんだけど。
この子の場合、三大欲求よりも知識欲の方が強い様だ。
それで良いのか、若者よ。
「で、でも凄いですね。闇魔法と聖魔法の両方の適性なんて。そんな人初めて見ました」
「あーやっぱ珍しいんだ? つっても、俺は聖魔法リジェネとローヒールくらいしか出来ないけど」
どうにか喋って目を覚まそうとしているのか、リーダーの子がそんな話題を振って来たが。
俺達の場合はスキルツリーなので、反対の属性は取り辛いってのが常識だった。
でも現実の魔法でも、対極な物は取得し辛い……というか適性が無かったりするのだろうか?
「それでも、さっきのリジェネは凄かったですけどね。流石師匠です、歌声も綺麗でした」
「あ、うん。ありがと。あとなんか、ロラン君全肯定マンになり掛けて無いか? 大丈夫?」
物凄くキラキラした瞳を向けてくれるが、まさかリジェネまで教えろとか言い出さないだろうな?
聖魔法に関してはスキルではないから、そっちはスキルノート作れないぞ……。
「対極の適性持ちというのは、俺の知る限り聞いた事無いですね。ちなみに俺とダッサムが無属性で、ロランは雷と火特化です。他の適性に関しては、小さすぎて多分習得出来ないだろうって」
「ほーん、やっぱ一人一個って感じなのか。二つ以上あれば魔術師目指す感じ?」
「そういう人も多いですが、一つ抜きんでた才能があれば、そっちに進む人も多いですね。それに適性が少ないとはいえ、生活魔法くらいなら使えない事もないですから」
だ、そうです。
まぁ生まれ持った適性に関してはどうしようもないが、結構自分のやりたい事やるって感じの生き方が普通なのかね。
そうよね、才能だけで仕事決まっちゃったらつまんないもんね。
「前衛二人は無属性か。なら、そっちも含めて少し手合わせでもするか? 目覚まし代わりに」
「すみませんイズさん……お願いします」
あまり派手な音を立てると、女性陣を起こしてしまう可能性があると言う事で。
イズ達は木刀を用意してから、テントから離れて行った。
「さてさて、俺達はどうする? ロラン君は勉強したいだろうし、イズは稽古に行っちゃったから夜食は無し、トトンは寝落ちてる。暇だな」
「クウリ~? 本来野営の見張りって言ったら、暇だけど警戒するものだよー? 遊ぶ時間じゃないよー?」
「でも実際、暇ね」
と言う事で、残っているのは俺とダイラと魔女。
そんでもって、必死に魔導書を読んでいるロラン君だけとなった訳だが。
暇だな、マジで。
俺達でも気配感知は出来るし、更にそっち方面に鋭いエレーヌも居るのだ。
真面目に五感だけで警備しても、正直疲れるだけだし。
「俺等も、模擬戦とかやる?」
「クウリ、これ以上クレーター増やす様な真似しないの。地形変わるよ?」
「私としては有りだけど、ちょっとこの面々だと極端になりそうね。どちらが先に一撃を決めるか、それだけね」
駄目か、他にやる事と言えば……。
「ダイラの錬金術で、何か面白いモノ作るとか」
「クウリは俺を何だと思ってるの。しかもトトンを膝枕してる状態じゃ無理だって……そもそも何を作らせる気なのさ」
「錬金術まで使えるの? ……本当に多才なのね」
やはり、駄目。
こりゃもう諦めて、ロラン君の教育でもして暇を潰すしかないかぁ?
なんて、思っていたのだが。
「何か、来たわ」
急に立ち上がり、両手剣を肩に担ぐエレーヌ。
おっと、お客さんかな?
俺も立ち上がって杖を構えるが、ダイラに関してはトトンを下ろしていいモノかどうか迷っている御様子。
「相手の強さとか、分かる?」
「それなりに魔力量は多いけど、大した事はないわね」
「そ、んじゃ俺達だけで行きますかね」
それだけ言って翼を生やしてみれば、ロラン君からは驚いた声を貰ってしまった。
あ、ごめんね?
毎度ながら、コレの説明するの忘れるんだよな。
「平気? 必要ならトトンも起こすけど、流石に二人だと危ないんじゃ……」
「いや、ちょっと様子を見て来るだけだ。不味そうなら撤退して来るさ、その時は合図を出すから、皆を起こしてくれ」
と言う事で、魔女が睨んでいる方向に視線を向けてから。
「乗る? 飛びながら運ぶけど」
「平気、走るわ」
だそうで。
流石だね、俺等四人がかりじゃないと対処出来ない程の存在は。
なんてやり取りを交わしてから、一直線に気配を察知した方角へと飛び立った。
そんでもって、この速度に平然と付いて来る魔女様、ガチダッシュ。
速っや!? いや怖っ!?
地形の関係でジグザグに走ったり、跳んだりしてはいるが。
物凄く速ぇな!? ただ走るだけなら、こんな速度出るのかよ!?
「す、すげぇなオイ……」
低空飛行に切り替え、そんな声を掛けてみると。
「細かい調整は出来ないから、使い勝手は悪いのだけどね。普通なら、飛ぶ方が凄いと思うわ」
確かに、そうかもね。
でもこの速度で走れる人の方がインパクト凄いわ。
何かもう、ギャグマンガの世界みたいな光景になっているんですが。
「エレーヌ、前方に川。掴まれ」
「必要無いわ」
「ちょっ、え? 飛び越えんの? 結構広い川だぞ?」
なんて会話している内に、すぐさま目の前には河原が迫り。
「おいおいおい! ホントどうすんだよ!? 上から運んでやるから早く掴まれ――」
「知らないの? 足が沈む前に次の一歩を踏み出してしまえば、水の上だって走れるのよ?」
とか何とか訳の分からない事を言いながら、そのままズダダダッ! と水面を走っていく魔女様。
分かった! この人だけ世界観ギャグ漫画なんだ!
そりゃ強いよ! そりゃ死なないよ! 勝てる訳ないじゃん!
どんなに大魔法ぶち込んでも、素っ裸になる程度で次の話では全回復してるタイプだ!
「冗談よ。ブーツの底に、そういう付与を施してあるの」
「ガチで信じそうになるから、今後はそういった冗談は控えてくれ……」
「了解したわ。それより、見えて来たわよ」
気の抜けるというか、若干疲れるやり取りを繰り広げてから。
やっと立ち止まった先に居るのは……居るのは?
あれ? どこ? 川の向こうにも、ただの平原が広がってんだけど。
「上よ、貴女のご同類かしらね? 形的には」
そう言ってエレーヌが指さす先には、一人の女が“飛んでいた”。
月明かりが雲に遮られ、良く見えないが。
間違い無く腰から翼が生えており、パタパタと飛んでいた。
うん、ホントに翼生える。
シルエットしか見えないけど、あと角も生えてるっぽい。
え? あれ? だってこういうのって、“魔人”の特徴なんじゃ……。
「初めまして、白いお二人さん。と言いたい所だけど……随分と不思議な組み合わせね? 黒い方は私と同じ……なのかしら? そっちの赤いのは、見た目は普通だけど……能力的に人族じゃないわね? 何者かしら?」
そんな声を聞いている内に雲が張れ、月光に晒されていく相手。
そして、視界に映ったソイツは。
「エッチな格好のお姉さんだ!」
「サキュバス、ね。あれも魔人。あと、外見に惑わされない方が良いわよ」
この世界に来て、初めて普通? の形をした魔人に出会ってしまった。
今回は羊じゃない! ヤギでもない!
エッチな格好のお姉さんだ!




