第117話 訓練開始
「あ、あの! 今日も! よろしくお願いします!」
ギルドに足を運んでみると、馴染みの少年が全力で頭を下げ。
他の面々も気まずそうな表情を浮かべながらも、ペコッと頭を下げて来た。
わっはっは、見事に蟠りが残っていそうな雰囲気だね。
でもまぁ、それも仕方ない。
だがしかし、仕方ないでは済まされない。
彼等には、この街で有名になる程強くなって貰おうではないか。
俺の教育方針、やると決めたなら徹底的に、だ。
「仕事はどんなのが取れた?」
「えと、以前とそう変わらない内容ばかりですが……こんな感じです」
そう言って、リーダーのカイ君が俺に依頼書を見せて来る訳だが……まぁ、いけるだろう。
「この仕事全てを、今日は君達だけでこなしてもらう」
「え? はいっ!? いや、クウリさん達も居るし、二つのパーティだからって事で端から確保しましたけど。無理ですよ! この量を俺達のパーティだけなんて!」
「大丈夫、分かんない事あったら教えるし。やって良いなら俺が指示を出す、必要なら仲間達もサポートする。移動に関しても、こっちで責任を持つよ」
「いやいやいや、そういうアレでは無くて……」
やけに困った様子を見せる少年少女だったが……言った筈だ、パワーレベリングを行うと。
文字通り、ズルい事一切無しの強引な教育を。
「俺達から、いくつか条件を出そう。それを達成する度に、報酬がある」
「報酬、ですか?」
「そ、まずはコレ」
昨日の段階でトトンに鍛えて貰ったナイフをインベントリから取り出し、相手の前に翳してみれば。
斥候の女の子がいち早く反応した。
「え、えっ!? なんですかこれ!? 見た目は普通なのに、魔力が宿ってる!」
「おぉ、流石。気が付いた? コイツは普通の武器を強化、それから魔術が付与されている。俺達の出した条件を達成して行けば、こういう装備を贈呈しよう」
「やります! やらせて下さい! そのナイフ絶対欲しい!」
と言う事で、早速餌に喰い付いた女の子が一人。
そうそう。確かな目的と、達成さえすれば手に入ると分かっている御褒美。
こういうの、本当に大事。
「あの……何でここまでしてくれるんですか? クウリさん達に、俺達を育てるウマみって、そこまでないですよね?」
そんな事を言って来る少年リーダーだったが。
此方としてはニッと口元を吊り上げて返してやる他無く。
「趣味!」
「趣味、ですか?」
「まぁその内君等にも分かるよ、多分」
そんな事を言いながら、本日もお仕事へと出かけるのであった。
※※※
「斥候、サポートが遅いよ。前衛が張り付いているけど、このまま頼り続けて良い状況? よく考えて動け。タンク、何をモタついてる? お前が一番前に出ないでどうする。おいこらリーダーさんよ、そんなにくっ付いてたら他の仲間が入れないぞ? この前言ったよな? 全部お前がやる必要は無いんだぞ?」
「「「りょ、了解!」」」
良いお返事を返しながらも、皆様頑張っておられる。
本日もまた、ゴブリンだとかオークとかのモブ退治な訳だが。
「えっとね、こういう時は攻撃力のバフより、移動性の向上や防御を意識しようか。タンクがひたすら防いでるけど、斥候の子がちょっかい出してヘイトを取ってるでしょ? だから移動速度でも、防御でもどっちも効果を発揮するんだ。出来れば両方が良いけど、無理しない程度に。速度が上がればタンクはより的確に防げるし、斥候は逃げられる。防御力は言うまでも無く、怪我が減る。でもバランスが大事、ここまで分かった?」
「はいっ! わかりましたダイラさん!」
バッファーの子に関しては、ダイラが付きっ切りで指導してくれているらしい。
しかし改めて聞くとえげつないな。
状態に合わせてバフの種類を変え、アイツの場合は魔法防御も担っているのだ。
もしかして、普段から一番考える事多いのってダイラ?
やっば、もう少し負担減らしてやった方がいいかな?
「え、えっと! 俺は何をすれば!?」
「焦るな焦るな、後衛の攻撃術師ってのは、とにかく冷静に。クールな男になれ」
「で、でもっ! 皆頑張ってるのに、俺だけ……」
「よく見ろ、今攻撃魔法をぶっこんでも、周りの邪魔になる。であれば、ここぞってタイミングでドデカイ一撃を食らわせるのがお前の役目だ。ほら、そろそろ前衛のスタミナが切れるぞ? 一旦下げないとな。それで、お前はどうする?」
「攻撃魔法の準備をします!」
「そうだ、それで良い」
そんな訳で、前衛の様子を見つつ一時後退の指示。
当然押さえていた敵が溢れ出して来る訳だが、そのタイミングで攻撃術師の魔法が炸裂する。
うーむ、良いね! これぞ見本とも言える基本的な連携!
むしろ俺等は尖り過ぎて、こういう普通のパーティ戦が新鮮な感じがする。
たーのしぃ~! とかなんとか思っていると。
「殲滅完了です!」
彼等のリーダーが、そんな声を上げて来た。
しかしながら。
「本当に終わりか? 周囲を確認して、本当に全滅したのか確かめてからその声を上げろ。お前がそう宣言すれば、仲間達は安心する。だがもしも一匹でも残っていて、最後の足掻きで仲間が犠牲になったらどうする? その時、お前は絶対に後悔するぞ?」
「す、すみません! 周囲を確認してきます!」
と言う事で、前衛の面々は各個残党の探索へ。
後衛に関しては思い切り息を吐き出して、その場に座り込んでしまった。
「お疲れさん、二人共良く出来てたぜ?」
「あ、ありがとうございます。我慢する、というか機会を待って手を出さない様にするって……結構キツイですね、気持ち的に。しかもそう言う時ほど、後衛が全体を見る“眼”にならないといけない……良い勉強になりました」
「私も……ダイラさんに教わってから、これまでどれだけ適当なサポートしてたんだって思い知らされました……反省です」
うんむ、着実に育っている様で何よりです。
そんでもって、俺達の感知に敵の気配は無いのでこの仕事は終了な訳だが。
そういう能力が無いのなら、徹底的に調べる癖を付けさせると言う事で前衛諸君に残党狩りを命じたわけで。
「さてさて、お疲れの所申し訳ないが。疲れてるのは皆一緒だぞ? 座ってて良いのか? こういう時、後衛術師のお前達が一人で歩き回るのは良くない。急に襲われたら対処出来ないからな。なら、今できる事は何だと思う?」
「と、討伐証明部位の確保!」
「解体とか剥ぎ取りですね!? す、すみませんでした!」
という事で、二人はナイフ片手に魔物の死骸へと駆け寄っていく。
非常によろしい、思考が柔軟だ。
こういう所でも先に休んでしまって、サボっていると思われれば不満が生れる事だってある。
だからこそ、休むなら全員一緒に。
まだ仲間達が頑張っているのなら、別件でもない限り自らに出来る仕事を探さないと。
命の掛かった運命共同体なら、そいうのは余計に大事だろう。
コレが完全に定着した後なら、状況に合わせて個別に休憩指示を出すのがリーダーの役目。
どうしたって役割が違えば、平等に疲弊する訳ではないので。
などと思って彼等の動きを見ていれば。
「敵影なし! 完全にココを制圧しました!」
少し離れた場所から少年組リーダーの声が響き、前衛の面々は此方に戻って来た。
「よろしい、なら飯にしようか。疲れただろう? 腹いっぱい食え。イズ、頼むぞ?」
「あぁ、心得ている」
そんな訳で、皆揃ってお昼ご飯の準備を始めるのであった。
うーむ、結構動きは良くなってきているし。
そろそろ次に進んでも良い気がするのだが……流石にゲーム的な感覚が過ぎるか?
もう少しコレを続けた方が良い?
なんて事を考えつつ、昼飯の準備をしていると。
「あのっ! イズさんとエレーヌさん! 俺に剣を教えてくれませんか!?」
リーダーの少年が、此方の前衛二人に対して頭を下げるのであった。
おっと、これはまた。
向上心が高い様で何よりである。




