第116話 会議!
「第一回、異世界での初心者育成方針会議ー!」
「うぃーっす」
「うん、まぁ、はい」
「好きだな、相変わらず」
給仕の仕事が終わり、部屋に戻ってから。
皆で寝泊まりしている大部屋で盛大に宣言してみた訳だが。
各々から微妙な反応が返って来てしまった。
ねぇもっと楽しもうよ、ルーキーだよルーキー。
これからどんな風に育っていくのか、楽しみになるの俺だけなの?
なんて思ったりもするけど、どちらかと言うと俺に呆れているだけって雰囲気が強い。
まぁね、こういう事で騒ぐのいつも俺が最初だし。
と言う事で意見を待つのではなく、此方から求めて行こう。
「はい、トトン。率直な感想を」
「クウリが初心者育てるの好きっての知ってる。けどあのリーダーの男子、クウリに対して明らかに“そういう好意”があって、なんかウワァってなる」
「それは俺も嫌。安心しろ、俺にBLの趣味は無い」
「今は女だけどねぇー」
「シャラップ」
この会話に対し、魔女だけは首を傾げているが。
まぁ良い、放置しよう。
今説明すると長くなりそうだし。
というか、同じ部屋でも基本的にエレーヌが肌を晒さない人で良かった。
前にアバターと本体は違うって話はしたけど、その後掘り下げなかったね。
もはやこの身体に慣れ過ぎて、違和感をあまり持たなかった俺等も不味いんだけど。
「次にダイラ、どうぞ」
「俺は別にどっちでも……って感じではあるけど。まぁ良いんじゃない? 現地の人が強くなって悪い事は無いし。このままこっちのパーティに加入させるよって言ったら、危ないからちょっと待ったってなるけど。単純にあの子達を育てるだけなら有りなんじゃない?」
ダイラに関しては、コレと言って問題視はしていない御様子。
まぁね、これまでも現地の人とそうやって仲良くなって来た訳だし。
戦闘は効率化したいけど、私生活まで効率化しなくても良いしね。
「続きまして、イズ。どうぞ」
「此方の世界では、強さはそのまま生存率に比例する。だから俺は賛成だ、少なからず関りを持った人間なら、誰しも生きていて欲しいと願うだろうしな。前衛を鍛えるというのなら、此方で担当する。彼等の剣術は少々荒っぽいというか、素人感が抜けきっていないからな。一から鍛えよう」
イズに関しては大賛成の御様子で。
許可さえ出せば、前衛育成プランを勝手に考えそうな勢いだった。
まぁそうなった場合はコイツに任せよう。
当人達にとっては、地獄になるかもしれないが。
それはソレ、これはコレ。
「最後にエレーヌ、魔女様としてはどうよ?」
「……あまり、乗り気はしないわ。でも繋がりを大事にするという事に関しては、否定するつもりはない。あまりにも長い時間ココに留まる、とかではない限りは……まぁ」
と言う事で、最後の一人にも了承を得られた。
んじゃまぁちと久々にやってみますかねぇって事で。
ゲーム内で今回みたいな事やって、他のパーティやらクランに巣立って行ったフレンド達は、今元気でやっているのだろうか?
いやはや懐かしい、とか思ってしまったが。
よく考えればあのゲーム、サービス終了したんだよね。
うん、考えるだけ無駄だった。
「んで、だ。今日聞いた話だと、彼等のパーティとしてはちょっと不満……というか自信喪失みたいな現状にあるらしい」
「ほぉ? いやしかし、あり得るか。ゲームなら上位互換を先に考察する、程度の認識だが。実際では果てしない努力と、更には才能が求められる訳だからな。あまりにも自らとの違いを認識してしまえば、目指す前に折れてしまってもおかしくない」
イズだけはうんうんとすぐさま納得し、トトンに関してはふーん? 程度。
ダイラに関しては何か悩んでいる御様子だが、魔女は完全に上の空。
部屋の隅に置いてある棺桶をポンポンしてる。
「今イズが言った通り、俺達みたいに軽く考えられないってのが一番の原因だと思う。そこで、分かりやすい目的を達成させていって自信を付けさせる。それが一番の近道だと思うんだ」
「エピッククエストみたいな? レベルとかスキルツリーが無いと、確かに実際の成長って感じ辛いかもね」
「ダイラ正解。まずは指揮系統を俺が教育、動きが分かって来てからイズの戦闘特訓に入る。多分その辺からダイラやトトンの動きも、見てるだけでも参考になり始めるんじゃないかな」
「でもさ~確かに強くなってるって実感出来るのって、結構先じゃない? 現実では微々たる変化な訳だし。そこまで時間掛けらんなくない? それこそ俺等の時は、強い装備が手に入ったーとかで分かりやすかったけど」
「トトンも正解。まさにソレを、やろうと思います」
ふふんと胸を張ってみれば、トトンだけはうげっという顔をしたが。
「もしかして……」
「エピッククエストをクリアすると、ストーリーを進める為の最低限とも呼べる武装は手に入っただろう? それを俺達の方で用意してみようかなって、大袈裟にならない程度に。という訳でトトン、お前の出番だ」
「現地の物で強化武器作れって事だよねぇ……マジで? 前みたいな事になっても知らないよー?」
ちょっと面倒臭そうな顔をするトトンだったが、インベントリを漁り始め鉱石の類を準備し始める。
本格的な強化や修復となると、やはり工房が必要だが。
軽いプラス値を付ける程度なら、簡易的な道具だけでも何とかなる。
更に言うなら、いくら壊しても惜しくない様な武装を使うつもりなので。
トトンレベルの鍛冶師サブ職なら、部屋の中だってチョロッと弄る事は可能だろう。
何だかんだ言いつつ、コイツだって初心者の世話焼きが嫌いな訳じゃないんだ。
そんでもって、自らもその経験があるからこそ結局は放っておけない。
よしよし、良い子に育って俺は嬉しいよ。
なんて事を思いつつ、彼等に渡せそうな武装を皆で選別していれば。
「魔王、一つ教えて。あの子達はこの街で出会っただけの、全く無関係な存在よ? なのに、貴女がそこまでしてあげる理由は何?」
などと言い放ち、魔女様が此方をジッと見つめて来る訳だが。
これに関しては、本当にごめんなさいなのだ。
だって、結局。
「……趣味?」
「……はい?」
それしか、言いようがない。
コイツはどんなキャラ作るんだろうなぁって考えると楽しいし。
仲良くなって、どんどん強くなって、当人がゲームに夢中になってる姿を見るのも好きだったし。
すげぇ感謝されたり、もはや泣くレベルで恩を感じてくれちゃったりって事もあった。
その上で、他の場所へ行きますって言って来るプレイヤーとか。
そういう人達を見るのも、結構好きだった。
やっぱ人間色々目指す先が違うよなーって、ゲームの中でも感じるのだ。
そして何より、強くなったと実感して、自信を持って。
俺にはコレが出来るんだって、自らの向いている部分を見つけた時。
人は本当に嬉しそうな声で笑うのだ。
あのゲームは、そういう意味でも最高だった。
自分だけにしか出来ない事を見つける、それを突き詰めて“たった一人だけ”のプレイヤーを作り上げる。
時間も金も掛かったけど、全然後悔なんかしていない。
そういう、本当の意味でRPGだったのだ。
もしも現実でもそういう経験が得られるのなら、それは多分……ある意味で俺達の成長にも繋がると思っている。
この世界を生きていくのなら、どうしても切り離せない“人付き合い”ってモノ。
これに対して俺達は、これまで極端な接触しかしてこなかった。
だからこそ、“普通”ってヤツも学ぶべきだと思うんだ。
こんなアバターを持っているからこそ、余計に。
「多分俺は、俺が教えられる事で相手が育ってくれるのが好きなんだわ。マジで自己満足だけど、それでも相手と関わって成長を促せたのなら大満足な訳。そんで、その結果俺の所に残ってくれた奴が三人も居た。ソレがゲームじゃなくて現実になったからこそ、間違ってなかったのかなって、そう思えるかな。だから、教えてくれって言われたなら、手を貸してやりたいんだよね。面倒に巻き込みそうな奴と、ただただアテにされるのは御免だけど」
「……本当に、全く。お優しい魔王様も居たものね。今後配下にする為だ、とか言われた方がまだ納得出来るのに」
大きなため息を溢す魔女が、呆れた様な視線を此方に向けながらベッドに潜っていく。
そして。
「好きにすると良いわ。私が教えられる事は少ないけど、必要だったらその時声を掛けて。このパーティのリーダーは貴女、だから協力はする。でも、私の目的は変わらないから」
「あぁ、肝に銘じておくよ」
と言う事で、こちらとしては新人教育続行という結果になったが。
問題は相手の方だよなぁ、自信喪失しちゃってるみたいだし。
俺に指揮を委ねてくれるのなら、ちょっと無茶な戦闘でもやらせてみるか?




