第114話 自信喪失
「広範囲戦だ、得意分野なんだから気を抜くなよー?」
「クウリが一番、気が抜けてる気がするけどねぇ……」
なんて、ダイラからは呆れたお言葉を頂いてしまったが。
現在訪れているのはオークの集落。
洞窟とかじゃないから、俺達としては戦いやすいフィールド。
なので。
「三時方向から追加、そっちはエレーヌが対処してくれ」
「了解」
「イズ、正面は20秒以内に片付けてくれるか? トトンの方にも追加が来た、まぁやられる心配はないが」
「了解した」
「トトン、ちと鬱陶しいだろうが……まだ片付けずに長引かせてくれるか? そこをメインで参考にさせる」
「うっす。見て分かりやすい戦況を作るとなると、色々大変だねぇ~」
と言う事で、殲滅は順調。
というか、かなり手加減している。
集落を見つけました。ハイッ、デウスマキナ! でも良かったのだが。
それでは新人教育にならないだろう。
付いて来て居る子達に関しては、もはや青い顔をしながら俺とダイラの傍で状況を眺めている訳だが。
「ダイラ、そっちは問題無いか?」
「バフ使ってるだけだしねぇ~。あ、弓兵が来た。防ぐよ?」
「おう、頼むわ」
やはり緩い会話をしながらも、ダイラのプロテクションによってコンコンッと軽い音を立てて弾かれていく矢。
弓矢って言っても、それもオークサイズなので結構デカいが。
まぁ、余裕っすね。
「イズはそっちの殲滅が終わったらトトンのサポート、十数体だから二人でパリィ&アタックのスイッチ。参考にさせるから分かりやすくなぁ? エレーヌに関しては第二のタンクとして役立ってもらう、11時方向からおかわりだ。数は四、まぁすぐ終わるな。こっちでも軽くサポート入れ……ると、逆に邪魔か。頼んだ」
「「「了解」」」
淡々と指示を出している訳だが……うん! 俺ほとんど何もやってない!
デカイ魔法、今日一発も撃ってない!
とはいえ若い子達には随分刺激的だったのか。
「これが、クウリさん達の戦闘……すげぇ、こんなに大量に押し寄せて来てるのに、どこからも漏れて来ない……」
怯えながらも、そんな言葉を紡ぐ少年。
その声に、思わずムフーって鼻息を荒くしながらドヤァァってしたくなる訳だが。
ここでドヤッたら、どうしようもない俺ツエープレイヤーになってしまう。
というか俺がドヤッっても仕方ないか。
「まだまだ、アイツ等はこんなもんじゃないぜ? 君は仲間の事をどれくらい分かってる? どこが限界で、どれくらいなら余裕で対処出来る? 敵の前に、まずは味方を知る事だよ」
なんて、相も変わらず偉そうな言葉を吐いてみた訳だが。
俺、魔女の事なーんにも知りません!
だから今の指示でも、ちょっと魔女様暇そうにしてます! ごめんなさい!
と言う事で、そのまま戦闘を続行し。
全て片付いた所で周辺調査を始めた訳だが。
あれ? 今回俺マジで何もしてなくない?
皆に偉そうに指示出してただけで、攻撃魔法一発も使ってなく無い?
これ、ちょっと不味い気がする。
普通なら絶対不満が出るって。
全体の動きでは参考になったかもしれないけど、初心者ってのは結構そう言う所を見ている。
だからこそ、あんまり良くない形になってしまった気がするのだが……。
「あ、あの……皆? 次に向かう仕事、俺だけで戦闘して良い? あのですね、俺の存在意義が……」
「別に良いけど、指揮を執るのだって立派な仕事じゃないの?」
「あ、うん、ソウナンダケドネ?」
魔女からは冷たいお言葉を頂き、仲間達からは呆れたため息を返されてしまった。
絶対コイツ等、俺が“自分も目立ちたい”って思ってるって想像してるだろ。
大正解だよこの野郎! 俺も恰好良い所見せたいよ!
あと新人たちに「周りは凄いけど、あの人はちょっと……」みたいな感じになるの嫌なの!
俺にも活躍させて!? お願い!
と言う事で、次のお仕事に向かうのであった。
その後もまた、殲滅系。
小物が多いねぇ、ホント。
ある意味では、俺も含めて。
※※※
「カイ、こっちからお願いした事だけど……あの人達と関わるの、もう止めない?」
仲間の一人、男性陣の魔法使いである“ロラン”が、食事中にそんな事を言って来た。
少々自信のない雰囲気で、普段から肩を潜めている様な感じではあったけど。
あまりこういう事を言う人物では無かったのだが……。
「な、何を言ってるんだよロラン……あの人達の戦い方見ただろう? 凄かったじゃないか。指揮だって的確だったし、仲間達だって。俺の常識が崩れたって気がしたよ。言葉通り全部使うべきだって理解させられたし、俺達はクウリさん達から色々教わるべきだよ!」
力強くそう宣言してみる訳だが、相手は視線を逸らしてから。
「俺には……あんな魔法を使うのは無理だよ。一生かかっても、多分習得出来ない。だって異常だよ、攻撃術師一人で相手の集落を壊滅させるとか……滅茶苦茶だよ」
そう言って、ロランは肩を落とした。
確かに、その後向かった仕事でのクウリさんは圧倒的だった。
数々の魔法を放ち、一人でゴブリンが住み着いた集落を一掃してみせた。
弱い魔物だったとしても、軍勢を一人で殲滅してみせたのだ。
流石にアレは普通の術師じゃ出来ないだろうと、剣士の俺でも理解出来たくらいだけど。
「それ以外でも、正直異常だね。誰も彼も、能力が飛びぬけてる。やばいよ、あの五人。多分アレでも手加減しながら戦ってるし」
ため息を溢しながらそんな言葉を紡ぐ、斥候の“リタ”。
でも実際、今回の仕事を彼女達と合同で受けたからこそ、コレだけの夕飯が食べられているのだ。
感謝こそあれど、非難する理由にはならない。
というか、なってはいけない筈なんだ。
「あの……すまない、多分皆責めている訳ではないんだ。でも、俺達とは違い過ぎる。そう、言いたいんだと思う……正直、俺より若いタンクの子。あの動きを真似出来るかと言ったら、俺には無理だ」
タンクの“ダッサム”も、そんな事を言始めてしまう始末。
いやいやいや、待ってくれ。
俺としては凄く勉強になったし、もっともっと彼女達から教えて欲しいと感じている。
だというのに、このままでは……。
「あ、あのっ! そう結論を急がなくても良いんじゃないでしょうか!? 確かに勉強になる事は多かったですし、あの人達も私達に教える為に戦い方を制限していた様にも見受けられた。だったら、もう少し教えてもらうっていうのも……その、アリかなって。打算的な考え方ですけど。私だって皆と同じ様に自信無くなりましたし……バッファーって、あんな風に動くんですね。しかも、防御まで含めて」
ウチのパーティのバッファーを務める“セリナ”が、唯一希望的な意見を述べてくれる訳だが。
皆の雰囲気が、とにかく重い。
なんというか、自信喪失みたいな。
自らの完全なる上位互換を見てしまい、今の自分達は何をしているんだという感想しか残らない。
俺だってそうだ。
彼女のパーティに居た前衛と比べて、今の俺は何も出来ていない。
唯一直接関係無さそうな斥候のリタでさえ、彼女達の敵を感知する能力には劣っていたそうだ。
つまり、彼女達はとにかく異常。
全員が専門の仕事をしながらも、他の仕事すら担っている。
更には、その全てにおいて最高峰というか。
とにかく、俺達では辿り着けない場所に居る存在と考えて良いのだろう。
だからこそ恐れ、拒否しようとしている。
個人的な感情を抜いても、それは“勿体ない”選択だと思えるのは俺だけなのか?
俺は欲しい。
クウリさんの様な状況把握能力や、指揮能力が。
更に言うなら、あのパーティの前衛剣士二人の様な力が……俺は、欲しい。
「皆の気持ちは分かった……でも、もう少し時間をくれないか? 俺が、もう少し話して来る。それで、相手の意見をもっと聞き出せれば……もしかしたら、変わるかもしれない。というか、俺達が変わらないといけないんだよ」
それだけ言って、席を立った。
行こう、彼女の元へ。
そして聞こう、彼女の本心と今後をどう考えているのか。
俺達みたいな新人に目を掛けてくれる理由や、あの強さの秘密を。
全部、正直に聞いてみよう。
「これから、クウリさんの所に行って来る」
「カイ……あの、さ。多分なんだけど……」
仲間達からは苦しい視線を向けられてしまうが、それでも行くんだ。
俺がリーダーだから、皆を導く為にも。
だからこそ、俺自身がもっと強くなる必要がある。
そんな事を思いつつ、席を離れてみようとすれば。
「結構、並ぶよ? あの宿屋、というか酒場。あの人達が不定期にフロアに立つから、いつも混んでる……」
「あっ、そういう……」
何とも間抜けな感じになってしまったが、でも行く!
彼女達に関われば、俺達はもっと強くなれる気がするのだから。
という建前はあるのだが……また彼女達と話せる事が、内心ワクワクしている自分も居る。
良くないな、こういう感情は。
身の程を弁えろって、自分でも思うよ。




