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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
5章

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第106話 迷子の手を引く


「ねぇクウリー、いつまでココに居るの?」


「もう少し人がはけるまでかなぁ。イズとダイラも、この辺で待機している可能性が高い。もしくは冒険者ギルドかな、宿屋の線は無い。まだどこに泊まるのかも決めてないしな」


 トトンと二人して、一番混んでいるであろう正門付近で時間を潰していた。

 完全に、時間つぶし。

 俺もそうだが、トトンも飽きたらしく。

 そこらの店先にお邪魔して……ベンチは無かったので、店の脇に置いてあった樽の上に腰掛けている。

 不審に思われたのか、酒場の店主に声を掛けられてしまったが。

 仲間と逸れたから、ココで待たせてくれないかと相談したらあっさりOKを貰った。

 良い人で良かった……というか、それなりに歳のいった人の方が会話も順調に進むな。

 昼間の若い子達みたいな相手だと、グイグイ来られると反応に困るわ。


「お嬢ちゃん達、もうそろそろ暗くなるが……まだ仲間は見つからないかい?」


 そんな事を言いながら、店主が俺達にお茶を持って来てくれた。

 有難い、というか滅茶苦茶気を使われている。


「アハハ、すみません。こうも人が多いと、なんとも。お茶もありがとうございます、ご迷惑お掛けします」


 などと口調を正しながら相手からお茶を受け取るが、トトンからはすんごい目で見られた。

 そういう目で見るな、というかお前もお礼を言え。


「しっかし……ここの人混みが大人しくなるのなんて、閉門後だからなぁ。仲間を見つけられる手段はあるのかい? 宿は? この街はとにかく人の出入りが激しいから……今からじゃ、宿も見つからねぇかもしれねぇぞ?」


 うげ、マジかよ。

 だとすれば、皆の財産を預かっている身として、トトンをココに残して宿の予約を先に済ませた方が良いか?

 そんな訳で少々焦り始めていると、店主の男性がガッハッハと盛大に笑い始め。


「ココに来た奴等がやらかす初歩的なミスを見事に踏み抜いたな? 安心しろ、ウチは二階以上は宿屋もやってるんだがな? 大部屋を一つ、空けておいてやるよ。流石にこんな女の子に、街中で野宿しろと言う程鬼畜じゃねぇ。何人だ?」


 か、神か? この人は神様なのか?

 というか俺とトトンだけだと、やはり子供として受け入れられるらしく、大人は優しい。

 凄い、アバター効果凄い!


「四人です! お願いしても良いですか!?」


「おうよ、寒かったら中で待っていても良いぞ? 仲間の特徴さえ教えてくれれば、今から衛兵の所にひとっ走り――」


 更なる親切にしてくれる発言をかまそうとしていた店主だったが。

 目の前の集団が妙に騒がしくなっていく。

 まるで、何か異物でも紛れ込んだみたいに。

 途中で店主も言葉を止め、正面を睨みながら俺達に警戒する様に告げて来た。

 何か起こったのか? 喧嘩とか?

 などと思って此方も視線を向けていると、目の前の集団は自発的に道を作るみたいに避けて行き。

 俺達の眼前には、人混みの退いた一本の道が出来た。

 その先に居たのは。


「そこに居たのね、魔王。コレだけ人が多いと、気配を探るのも苦労したわ」


 真っ赤なドレスに、真っ黒いローブ。

 俺の記憶では長すぎる長剣を担いでいた筈の女だったのだが。

 現在は、背中に棺桶を背負っていた。

 何それ、最近のファッション? お洒落な荷物入れとか?

 俺達流行に疎いからさ、そういうの良く分かんないんだけど。

 あと街中で魔王って呼ぶな、恥ずかしいだろ。


「……」


「どうしたの?」


「じょ、嬢ちゃん。この子が、嬢ちゃんの仲間の一人かい?」


 不思議そうに首を傾げる魔女、エレーヌ・ジュグラリス。

 そして頬をヒクヒクさせながら、此方に事実確認をして来る店主のおっちゃん。

 あぁ、もう……泣きてぇ。


「あ、あの……宿泊。五人と棺桶一個でも良いですか……」


 どうしてコイツは、いちいち行動が派手なのだろうか。


 ※※※


「チッ! 本当に人が多いな」


 思わず舌打ちを溢しつつ、そこらの建物の屋根を飛び回った。

 本当に一般的な問題への警戒心、というものが俺達からは抜け落ちていた。

 いくらパーティ全員が驚異的な力を持っていようと、人波に呑まれれば普通に逸れる。

 更に今の俺達は四人共女性の姿であり、内二人は少女と言っても良い状態なのだ。

 そんな状態で、人混みでトトンとクウリを見失った。

 どうにかダイラだけは確保し、一緒に人混みを抜けたが。


「クウリとトトンが居ない!? ど、どうしよう!」


 これはまた、非常にテンパってくれた訳だが。

 とにかく落ち着かせ、手分けして捜索する事にした。

 もしも見つけたら決めた集合場所で待つ事、それでも見つからなかったら空に明かりを上げる事。

 行使しても問題無いかと衛兵に確認したが、どうしても見つからなかった場合のみ、あまり派手にやり過ぎない程度に、人が少なくなった広場でやれと言われてしまった。

 “向こう側”で言う所の花火で遊んでいた、程度の認識なのだろうが……まだ人が多い為行使不可。

 と言う事で今は足で探す他無く、俺は上から。

 ダイラは下から探す形になったのだが。

 クウリとトトン、あの二人が一緒に居るとすれば問題ないだろう。

 というか、やり過ぎないかの方が心配だ。

 だが本当に別々になっていた場合、ソレが一番怖い。

 何だかんだトトンは手加減が出来るが、クウリには多分無理だ。

 更に言うなら、ダイラが一人で動き回っているとなると、別の意味で心配になる。

 だからこそ、早い所全員と合流したいのだが。


「埒が明かないな……これなら、罰金覚悟で俺達にだけ分かる様な“花火”でも上げて――」


 愚策だとは分かっているのだが、最終的にはそうするしかないか。

 そんな事を思った瞬間、ゾッと背筋が冷えた。

 なんだ? コレは。

 間違い無く強敵、そういう何かが俺を探している様な。

 そして、捉えられたと言っても良い恐怖が、この身に降り注いだ。

 慌てて長剣を二本取り出し、背後に向かって構えてみれば。


「見つけた、剣士の女の人」


「ひえぇぇぇ……」


 ダイラを脇に抱えた魔女が、俺と同じ様に建物の屋根の上に立っていた。


「どういうつもりだ? 俺達に手を出さないんじゃなかったのか?」


 ギリッと奥歯を噛みしめてから、改めて剣先を向けてみれば。


「ごめんなさい、探す為に殺気を放った。そこに一番反応したから、多分貴女かなって。誰も殺してない、聖女にしつこく声を掛けていた男は殴ったけど」


「イズゥゥ……俺やっぱ一人で行動するの無理だぁ」


 ど、どういう状況だ? コレは。

 言葉通りなら魔女は、俺を探す為に威圧とも言える何かを使っただけなのだろうが。

 えぇと? ダイラに声を掛けていた男がどうとか。

 殴ったそうだが、そちらは大丈夫なのだろうか?

 そしてこのタイミングで、彼女と合流するとは思わなかった。

 てっきり、街の外に出ている間に顔を出すのかとばかり思っていたのだが。


「ついて来て、魔王と小さい子が貴女達を待っている。今日はそこで泊まるんですって」


 そんな言葉を呟いて、彼女は屋根の上から飛び降りた。

 その際、ダイラは悲鳴を上げていたが。


「ま、まてっ! どういうことだ!?」


 慌てて後を追いながら、彼女の背中に声を掛けてみれば。


「私は、あぁいうの苦手だから。探す方に専念させてもらった。魔王からも許可を貰っている」


「クウリから? アイツは何処に居るんだ!?」


「行けば分かる」


 それだけ言って、ダイラを抱えた魔女は風の様に街中を走り抜けていくのであった。

 本当に、コレはどういう事態だ?

 頼む、無事でいてくれ……クウリ、トトン。

 もっと正確に言うなら、アイツ等が絡んだかもしれない相手。

 無事でいてくれ!


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