第105話 フラグはいらん
「次の街にログインしました。ログインボーナスを寄越しやがりませ」
「クウリ、しっかりしろ」
もうね、疲れた。
かなり歩いたし、かなぁり遅くならないと馬車なんかも動き続けている。
つまり、気軽に羽が使えない。
ということで、いつもならダイラだけが疲れている所。
俺も、体力的にも精神的にかなり疲弊してしまった。
あのね、飽きるのよ。
歩いてるだけって飽きるの。
早く次のイベントに進みたいのに、レベル制限とかでずっと敵をプチプチ殲滅するだけの作業ゲーの様。
イズのご飯があったので、ソレだけが救いだったが。
何この無駄な時間、こんな事やらせたらそりゃプレイヤーは飽きるさ。
ついでに言うと魔女どっか行っちゃったし、準備するとか言って姿を消したし。
なんて事を思いつつ、ついに本日次の街に到着した訳だが。
「如何ですか!? そこの貴方! 騎士団への入団試験を受けてみませんか!?」
「手堅いお給料が欲しい方々は此方ですよー! 戦闘職なら戦闘部隊、調査や真面目に毎日働ける方には衛兵のお仕事がお勧め! どうですかー!?」
「縛られず自由に暮らしたいって我儘っ子はコッチだ! 冒険者やって、名を上げてみないかぁ!?」
なんか、結構な人数がビラ配りをしているのだ。
そういう人達も含めて、ものっ凄く人が多い。
街に入ってすぐの所だから、どこも賑わっているのは当たり前なのかもしれないけど。
でもこれまでは、ここまで多くは無かった。
まさに人混み、ごった返すって言葉がぴったり合う状況と言えるだろう。
「……祭り、っていう雰囲気ではないよな?」
「わからんが……あぁ、もしかしてあれか? 訓練都市が近かった訳だから、どこも新人の取り合いをしているとか」
「あぁ~なるほど。とりあえず訓練所やら学校を卒業した若い人たちが、近くの街に移動する可能性も高いもんね。そういう意味では、この人の多さも納得かな。確かに新人って感じの子も結構居るし」
なんて、背の高い組は周囲を見回しているが。
やばい、進むごとに人波に呑まれて……。
「クウリィ~助けてぇ……」
「トトーン!?」
一番ちっこいのが、そのまま人混みの中に姿を消してしまった。
アイツの身体能力なら、それこそこんな人数相手でも負けないのだろうが。
そんな事をして人間ドミノが発生したら大怪我どころでは済まない。
その為自重したのは分かるのだが……うん、完全にトトンが消えた。
「ちょいちょい、マジかよ! 今じゃメール機能だって無いってのに。イズ、ダイラ。一旦人混みから抜けてトトンを――」
一度無理やりにでもこの人間地獄から抜け出そうと、振り返って二人に指示を出そうと思ったのだが。
おかしい、二人が居ない。
真後ろに居たのは、十代半ばくらいの少年少女が数名。
その後ろには、普通の格好したおじさん達の姿が。
「え、と? 何ですか?」
「いや、何でもないっす」
背後に居た子達に、物凄く怪訝な視線を向けられてしまった。
あ、うん。なんかゴメンね?
というか、やべぇ。
「イズー!? ダイラー!? それからトトンは何処に流されてったー!?」
とにかく声を上げてみたが、周囲の活気が凄い。
だぁめだコレ、見つかる気がしない。
こりゃ一旦俺だけでも人混みから抜け出して、迷子の三人衆を探し出さないと。
なんて思ったけど、多分見てくれとしては俺とトトンが迷子だよね。
酷い、見た目だけで俺が悪い事した事になってしまった。
というか身長低いとこういう所でも不便だなオイ!
などと思いつつ、どうにか人を押し分けて進もうとした結果。
「あ、あのっ! 止めた方が良いですよ! 流れに沿って動かないと、転んだら間違いなく踏まれちゃいます!」
どうやら後ろに居た少年少女はパーティなのか、その内の男子一名から掌を掴まれてしまった。
いや、あのね。
確かにそうかもしれないけど、俺はいつまでもココに居る訳には……。
「こっちです、流れをちょっとずつ移動して行けば平気ですから。皆も、良いよな?」
何やら礼儀正しい少年が仲間達を振り返り、その他メンバーも呆れ顔をしながらも頷いている。
あぁ~これは、アレか?
年下の男子に迷子扱いされている!
などと心にダメージを受けている俺を他所に、彼は俺の手を引っ張ったまま徐々に人混みの中を移動していく。
それに続く彼のパーティメンバーという形なので、周りからしたら若い集団が大移動している様に見えたのだろう。
更には。
「すみませーん! 通りまーす!」
先頭の少年がそんな大声を上げながら進む為、めっちゃ見られる。
か、悲しい……というか滅茶苦茶恥ずかしい。
俺、そんなに若くないのに。
周りから微笑ましい瞳を向けられながら、大人達が道を空けてくれるという。
助かったけど、物凄く羞恥プレイを受けている気分だ。
頼む、見ないでくれ。
一人だけ周りの少年少女の様に若くないんだ。
「ふぅ……ここまでくれば大丈夫かな? 皆居る?」
「「「問題なーし」」」
「あ、はい。ドウモ……」
メンバー達に続いてボソボソと呟いてみれば、俺の手を引いていた少年はニコッと爽やかで元気そうな笑みを浮かべてから。
「えぇと、もしかしなくても逸れちゃったんですよね? 良かったら、一緒に探しましょうか? とは言っても、俺達もこの街に来たばかり何で地理とかには疎いですけど……あ、俺“カイ”って言います。君は?」
なんて自己紹介をしつつ、彼はソッと俺の掌を放した。
いや、あの、待ってください。
これはちょっと、俺が最も求めていないフラグが立っていないか?
いや、俺が警戒し過ぎなだけで、ただ親切にしてもらってる可能性もあるか。
というか、普通に恥ずかしいわ。
この歳で迷子扱いされるとか。
「あぁ、いや。そこまでは……はい、大丈夫です。どうも、助かりました」
「本当に大丈夫ですか? 逸れた時にはどこに集合とか……そういうのは」
そうですね、普通見知らぬ土地に入ったら真っ先にソレ決めるよね。
もはや、全てが恥ずかしくなって来た。
こんな羞恥プレイを受けるのなら、以前の教会でリジェネ披露してた時の方がマシだわ。
とか何とか考えていると。
「クウリ居た! やっと見つけたぁ~」
人混みから抜けだしたらしいトトンが、こっちに向かって走って来た。
そんでもって、そのまま飛び付いて来る勢いで飛び着いて来たが。
「フフッ、集合出来たなら良かったです」
「うっ……ホント、お世話になりました……」
わぁ、この少年主人公かな?
俺みたいに捻くれた性格とか全然して無さそう。
周りに居る子達も、良かった良かったとばかりに頷いてるし。
わはは、情けない年上だなー俺、泣きてぇ。
「クウリ、この人誰? あっ、もしかしてシスター研修の時の知り合い?」
「あ、いや、今その場で知り合ったというか」
全く空気を読んでいないトトンが俺の名を連呼している訳だが。
相手は更にニコニコし始め。
「それじゃ、クウリさん……で、良いんですかね? また何処かで。俺達冒険者やってるんで、困った事があったら気軽に声を掛けて下さい」
「どうも、お世話になりましたー」
なんて会話を最後に、彼等は手を振って去っていく。
コミュ力高い人って、若い内からあんな感じなんだね。
俺には無理だなぁ……ホント。
もはや乾いた笑い声を洩らしながら、去っていく彼等を見送るのであった。
「ねぇねぇ、イズとダイラは?」
「……逸れた」
「おっとぉ……不味くない?」
トトンと合流できたのは良かったけど。
コレ、傍から見たら迷子が二人に増えただけだよね。
あー、メール機能欲しい……。




