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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
4章

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第104話 編成


 ご飯。

 それは古今東西変わらぬ、手っ取り早く仲良くなれる手段。

 なんて、軽く考えて魔女をウチの野営飯に誘ってみた訳だが。


「あぁーえぇと、エレーヌさん……で良いんだったか? 沢山食べて良いぞ? 他には何が食べたい? 俺が作れる物なら、リクエストには答えよう」


「ありがとう、とても美味しいわ……それから貴女達は、皆自分の事を“俺”と言うのね? 珍しいわ。さっきも男が廃る、なんて言っていたし」


 イズの質問に対し、とても静かな雰囲気で普通に受け答えしてくれる訳だが。

 何か、すんごくしんみりしている魔女様。

 一口目とか、もはや涙ぐんでたからね。

 これまでどんな飯を食っていたんだよって聞きたくなるが、多分それ以上の何かに触れたのだろう。

 作って貰ったとか何とか言っていたが、もしかして結構な思い出の品だったりするのだろうか?

 いつもの俺等のテンションなら、ガーッと喰う! みたいな感じなのだが。

 今は違うと断言出来る、という事でコチラも気を使ってしまう訳で。


「あーその、なんだ。俺等も“こっち側”の料理に詳しい訳じゃないけど、イズだったら結構なんでも作れるからさ。欲しい物とかあったら言ってみ?」


 あ、あはは……と、何とか話題を振ろうとしてみるが。

 魔女、めっちゃ味わって食ってる。

 最初程しんみりした空気が無くなったのは良いが、めっちゃ真剣に食ってる。

 いやぁ、どうすれば良いのコレ。

 生憎と俺等のパーティ、女慣れしている面子が居ないんですが。

 なんて事を思いつつ、態度が一変してしまった魔女様にドン引きしていると。


「出来れば、作る所を……見てみたい。これまでは、ぼうっと見ていただけだから」


 これまた、おかしな要望が出て来たモノだ。

 そんな訳で、興味津々な様子でイズの近くに走り寄っていく魔女。

 今更ながら思うけど、さっきまで戦ってたんだよね、俺等。

 いやはや、不思議なもんだねぇ……などと考えつつ、彼女を眺めながら俺も焼きおにぎりをパクリ。


「え、うっっま」


 焼きおにぎりなんて、コンビニでも買えるんですよ。

 でもね、ちゃんと炭火で焼いた焼きおにぎりとコンビニの物。

 あれは、別物なんですねぇ……なんて改めて思ってしまう程、しっかりと味が染みていた。

 間違い無く醤油塗っただけじゃない、ダシが効いてる。

 しかも微妙に焦げちゃってパリパリしている所とか、マジで美味い。

 この辺は手作り特有というか、特権なのかもしれないが。

 チラッと視線を向けてみれば、でっかい土鍋からこれまたデカイ昆布を取り出しているイズの姿が。

 更に、何かまた調味料を混ぜているらしく、そちらを魔女に手伝わせていた。

 そっか、焼きおにぎり一つでも色々と手を加えるのが“料理人”かぁ……なんて、しみじみと感じながらモグモグしていると。


「イズにおかしな行動取ったら、すぐ攻撃するから」


「大丈夫、絶対しない」


 声が聞こえたので改めて視線を向けてみると、前衛が前衛を守っていた。

 トトン、未だに警戒心収まらず。

 グルルッと唸る獣状態で、魔女が誰かに近付く度に間に割って入る徹底ぶり。

 素晴らしいタンクだ。

 そう、思うのだが……現状だと警戒心の抜けない小動物にしか見えない。


「トトン、こっち来い。一緒に飯食おうぜ」


「でも、クウリ……」


「今じゃパーティ登録されてるんだ、大技は使えないさ。それに、攻撃しても意味無い」


 そう呟いてみれば、相手を睨みながらもこっちに近付いて来るトトン。

 そんでもって、胡坐をかいた俺の足の間にポスッと収まり、パカッと口を開けて来る。


「そこに座るのかよ、てか自分で食えよ……」


「絶賛警戒中」


「へいへい」


 トトンの口元に焼きおにぎりを持って行けば、バクッと思い切り喰い付いた。

 全く、腹減ってんのなら普通に食えば良いのに。

 あれだけ無茶苦茶な、しかも普段しない動きをしたのだ。

 相当疲れているだろうに、未だ戦闘体勢を緩めない。

 思わず溜息を溢しつつも、その後もちびっ子に餌付けしていれば。


「でも実際、どう思う? クウリ。今後の事とか」


 夕食を摘まみながら、ダイラが小声でコチラに問いかけて来る。

 まぁ、本当にそこなんだよな。


「北の門ってのは、道中で色々情報を集める必要があるし、その物にも興味はある。でも俺等がソレを使うかと言われれば未だ不明って所だな。無理矢理帰したりしないから安心しろ。あとは……あの魔女の存在そのもの、かな?」


「だよね。アレだけの力を持っているのに、更に魔王とか聖女とか、そういう存在を求める理由ってなんだろう? 本人が一番“ソレ”に近い気がするけど……もう少し落ち着いたら、目的とかも聞き出さないと。敵にならないと約束してくれたから良いけど……ちょっと不安は多いかな」


 やはりダイラもその辺を警戒しているらしく、鋭い瞳を向けながら焼きおにぎりをモックモックと食べていた。

 ねぇ緊張感! 何処へ行ったんだ君は!

 ただの間抜けな会話に思えてしまうから、必死にモグモグしないの!

 俺も他人の事言えないけど、旨いし。


「だが実際“天人”ってヤツは、多分俺等みたいな存在。ソイツ等がそこから帰っているって事なら……選択肢は増やしておくべきだ。今現状お前とトトンは帰りたくないって言っても、いつかその意見が変わるかもしれない。だったら、調べる事は悪い事じゃない」


「あくまでも、俺達の為に。なんだね……クウリは」


「バカタレ、その“もしかしたら”に俺も含まれてるんだよ。全部悪い方向に考えるな、俺だって我儘な人間だ。急にネトゲやりたいって駄々こね始めるかもしれねぇぞ?」


 そんな事を言いながら手を引っ込めてみれば、俺が持っていた焼きおにぎりは綺麗さっぱりトトンに食いつくされてしまったらしい。

 まぁ良いけど、いっぱいあるから。

 トトンはアレだね、俺の喰いかけとか基本気にしないね。


「クウリは、今の所どう? 帰りたい? それとも残りたい?」


 ダイラが非常に真面目な顔で聞いてくるものの、俺としては首を傾げる他無く。


「倫理観としては、帰るべきだ……ってのは分かるんだけど。お前等を残して帰るのは違うし、何が何でも帰りたい理由があるかと聞かれたら、正直無い。かといってこっちに残っても不安はあるし、どうなんだろうな?」


 結局、一番中途半端なのは俺なのかもしれない。

 それなりに長い時間を、“こちら側”で過ごした。

 別に悪い環境だとも感じなかったし、何より俺達にはアバターがある。

 でも元の世界に戻れば、こんな日銭を稼ぐ様な生活ではない上に、色々と保証も揃っている。

 尚且つ、残して来た家族だって居るのだ。

 もう随分会っていない両親だけで、嫁さんとか子供はいないけど。

 ソレ等を考慮すると、どちらがどうと言い切れないのは確かだ。

 “こっち側”に居れば、仲間達とずっと冒険出来るかもしれない。

 但しそれは、自らの命を賭けたような危険なもの。

 “向こう側”に戻れば、安全は保障されるが変わらぬ毎日が戻ってくる。

 働いて、稼いで。

 アレもコレもと金払って、それで安全が手に入る。

 言葉だけなら異世界の方が自由気ままな感じはするが、俺達に与えられた“特別”がある日剥奪されても全然おかしくないのだ。

 ある日を境に、スキルが全て使えなくなるとか。

 あり得ない気もするけど、異常な存在である俺達が正常に戻される機会もあるかもしれない。

 そんな事を考えると、結構この世界に残るのも博打な気がしてならないのだ。

 そして、そうなった場合。

 俺達は多分、“こっち側”では生きていけない。

 もしもソレが発生した場合、間違いなく俺達は元の世界への帰還を求める事だろう。

 人間ってのは、どうしたって楽な方向に逃げる生き物だから。


「どうしたもんかな……マジで」


 はぁぁと大きなため息を溢してから、新しい焼きおむすびに手を伸ばしみると。

 そのタイミングで、追加のおむすびが皿に乗っかって来た。


「私が、焼いた」


「あ、はい。いただきます」


 何やら自慢げに胸を張りながら、魔女様が皿におむすびを追加していく光景が。

 もう良く分からないけど、現地の人達緩いし。

 一旦可能性を見つけてから悩めば良いんじゃね? みたいな結論を叩き出してから、魔女の作った焼きおむすびに齧りついた。

 イズの教えがあるからなのか、普通に旨かった。

 少々白米を力強く握っている印象は残ってしまったが。


「今後の事も、色々考えないとなぁ……」


「北に向かうんじゃないの?」


「いや、まぁそうなんだけど。エレーヌさんの事情をもっと聞かないと、予定が立てづらいというか……」


「呼び捨てで良いわよ?」


「あ、はい」


 この人、ホント仲間になると距離近くなるのね。

 というか俺が言ってるのは最終目的以外の話も含めている訳で、直近の問題としてはこの魔女他の街で指名手配されてないだろうな? とか、色々ある訳だが。

 ついでに言うと、一緒に行動する場合には五人パーティとなり、戦い方も変わって来る。

 更には相手がどんな事が出来て、どんな事が苦手なのかというのも理解しておかないと、正直連携とか取れないのだ。

 そんでもって、それらを頭の中で組み立てて指示を出すのが俺になる訳で。

 相手の事情云々は落ち着いてからで良いとしても、そっちは早めに把握しておかないと不味い。

 何をやるにしても、絶対に戦闘が付いて回る様な生活しているし。


「リーダーってのも、楽じゃないねぇ……」


「大変なのね」


「他人事みたいに言うな」


 新しく加わった仲間に突っ込みを入れつつ、大きなため息を溢してから食事を再開するのであった。

 ま、アタッカーが二人になるだけだし。

 そう難しく考える必要も無いか……いや、そんな訳無いよな。

 この魔女の戦力、とんでもないし。

 よく考えると、使い所に困るメンバーを入れてしまったのかもしれない。

 RPGなんかにある、敵NPCが仲間になると弱体化する現象……どこいった?

 この人、間違いなく弱体化とかしてないんですけど。

 果たして俺に、コイツを含めた五人パーティの指揮が出来るのだろうか?

 戦闘になったら「魔女、君に決めた!」 って言って全部お任せする訳にもいかないしなぁ……んな事やってたら、戦闘の感覚が間違いなく鈍る。


「魔女に合わせてスキルツリー調整してぇ……」


「流石に、それは無理だな。スキルリセットのアイテムなんて使ったら、本当にどうなるか分からないぞ。ホラ、これでも食って元気を出せクウリ」


 緩い言葉を頂きながらも、目の前に出てきたのは出汁巻き卵。

 あと、なんかウナギっぽい蒲焼き。

 多分ゲームの頃のアイテム。

 よし、がんばろ。

 どうにかして、この過剰戦力を使いこなそう。

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