第103話 白薔薇
魔女様からは気遣って頂きましたが、全然問題ないです。と答えた結果、理由を尋ねられました。
質疑応答が長い、とにかく長い、というかこっちの事情が説明し辛い。
スキルの事とか、その他諸々の細かい話をしてやっと納得したらしく。
さて、今度こそおかえりになるのかと思っていると。
「終わったか? クウリ。そろそろ夕飯にするぞ」
俺達の話が長すぎたのか、簡易キッチンを取り出したイズの方からは、もはやすぐご飯に出来そうな香りが漂っている。
腹……減った。
よく考えたら本気の戦闘してから、ずっとお喋りしてた訳だもんな。
そりゃ疲れるさ、腹減り過ぎてゾンビになるかと思った。
かゆ……うま……。
とか馬鹿な事を考えながらため息を溢す俺。
そしてキッチンを守護するのが、未だ警戒中のトトン。
ガードしてるんだろうけど、警戒した猫にしか見えない。
ダイラに関しては、どうしたものかという表情を浮かべながらイズの手伝いをしている様だが。
「……」
「あぁ~まぁ、それじゃ今後はそんな感じで。また会った時に情報共有する感じにしよう、な? 今日はもう終わり、俺も流石に疲れてんだよ。MP空になるまで戦ったし、それじゃまたなぁ」
もうどうでもよくなってしまい、彼女に手を振ってから俺も皆に混じろうとしてみれば。
背後からは、「グゥゥ~」という盛大な音が鳴り響いた。
……はい?
「これは、違うわ」
「……」
「何も鳴ってないわ」
「隠すの下手かよ」
若干赤い顔を浮かべる魔女様が、自らのお腹を押さえて視線を逸らしていた。
いやうん、気持ちは分かる。
イズとダイラが作るご飯は、物凄く美味しいからな。
匂いだって暴力的なのだ、コレばかりは仕方ない。
なんて思っていれば。
「ショーユを、焦がしているの? 焼きおにぎり?」
「へぇ? 流石長生きの魔女様、料理にも詳しいのか?」
もはや完全に毒気が抜かれた状態で、相手に問いかけてみれば。
魔女は随分と寂しそうな表情を浮かべてから。
「気ままに旅をしていた頃、よく……作って貰ったの。コメもショーユも、当時は凄く貴重な物だったんだけど、美味しい物は自分達で食べようって。少し懐かしくなってしまって……不思議ね、もう長い事、空腹なんて感情は忘れていたのに。……ごめんなさい、もう帰るわね」
そんな事を言いながら、相手は再び俺に背中を向けた。
何だろうな、この感じ。
重要なフラグを見落としている様な、ソワソワするアレだ。
このまま魔女を帰したら不味い、そんな気がして。
「なぁ、魔女。アンタ、名前は何て言うんだ?」
「え?」
「自己紹介、まだしてなかったなって。俺はクウリだ、アンタは?」
些かぶっきらぼうだったが、そう声を掛ければ彼女は振り返り。
そして。
「エレーヌよ。“エレーヌ・ジュグラリス”。フフッ、この名前も久しぶりに名乗ったわ」
再び、寂しそうな顔。
あぁもう、なんだろうねこのフラグの塊みたいな美女は。
絶対アレだろ、今後仲良くするならココで帰しちゃいけないヤツじゃん。
せめて彼女が俺達との協力関係を続けている間は、誰も殺さないという約束を守らせる為にも。
「んじゃ、エレーヌさん。せっかく“仮”とは言えパーティになったんだ……飯でも、一緒にどうよ?」
「……え?」
「懐かしい香りを嗅いで、寂しそうな顔しながら腹を空かせてる美女をそのまま帰すってのは……流石に男が廃るでしょ。いいよな!? イズ、一人分追加だ!」
振り返りながら大声を上げてみると、呆れた様な表情を浮かべるパーティメンバー各員。
警戒しているトトンでさえ、ムスッとしながらも。
「あぁ、問題無い。敵ではないというのなら、もはや戦う理由もないからな。決着が付かないのなら、むしろ戦うだけ無駄だ。こういう世界だ、いつまでも煩く言うつもりは無い」
「でも俺は……警戒するからね」
イズとトトンで対照的な表情を浮かべているものの。
一応両者から一緒に飯を食う許可は得られたみたいだ。
そして、残る一人はと言えば。
「もう、パーティメンバーな訳だしね。思う所が無い訳じゃないけど……攻撃しないのなら、どうぞ? 相変わらずクウリは癖の強い人ばっかり拾って来るねぇ」
なんて、大きなため息を吐いたダイラが呟く訳だが。
うるせぇやい。
それを言ったら、お前だって癖の強いプレイヤーなんだからな?
何てことを思いつつ、改めて相手に向き直ってみると。
「だ、そうだ。どうだい? エレーヌさん、一緒に食っていくか? あ、もちろん全部を許した訳じゃねぇぞ? でもこれから協力すると決めたんだ、だったら“ある程度”は仲良くする必要があるんじゃないか?」
そう呟いてみれば、魔女はしばらくそのまま停止してから。
「……いいの? さっきまで敵だったのに。それに、前の街で兵士だって」
「だが誰も殺してない。だろ? 重症って話は聞いたが、死んだって話は聞かなかった。アンタの本気を見れば分かる、ずっと手加減しながら戦ってたんだろ? それに俺達は正義の味方じゃない。利用できるのなら、悪人だって利用するさ。なんたって俺、“魔王”って呼ばれてるし?」
ククッと笑いながら此方も杖をインベントリに仕舞い、相手に向かって掌を差し出してみれば。
エレーヌと名乗った魔女は、まるで何かに堪えるかのような表情をしながらも。
フッと、吹っ切れた様に笑って見せた。
「それじゃ、御相伴にあずかろうかしら」
「旨すぎて腰抜かすなよ? 魔女様。ウチのイズはそこらの料理人とは訳が違うぞ?」
なんて言いながら、魔女を連れて皆の元へと戻っていくのであった。
エレーヌ・ジュグラリス……白薔薇、ねぇ。
綺麗な花には棘あるとはよく言った物だと、ちょっとだけ納得してしまった。
というかちょっと待った。
俺等四人じゃないと勝てない程の現地人が仲間になったし、ノーライフキングと配下まで召喚可能。
コレ……ガチで魔王出来そうじゃないか?
いや、止めよう。
適当なテンションでガチ魔王とか名乗っても、絶対後で痛い目見る奴だ。




