第100話 終戦
正直、ココまでとは予想していなかった。
舐めていた訳じゃない、でも今回は四人揃った状態で戦闘を開始した為、どこか楽観視していたのかもしれない。
なんて、弱気な感想が漏れてしまう程に。
「おいおいおい! いくら何でもこりゃ盛り過ぎだろ! ダイラ! 悪いけど頼む!」
「りょ、了解! 何とかする!」
魔女の両手剣が妙に赤く輝きだしたかと思えば、そこら中から魔法攻撃が襲って来た。
剣を振れば斬撃が飛んで来るし、地面に突き立てれば波動攻撃かって程の広範囲攻撃。
更には掌を向けただけでも、赤い影の様な見た事も無い魔法。
ヤベェってマジで、やっぱコイツ生物として最強だろ間違いなく。
ダイラが細かくプロテクションを連発し、仲間達全員を守ってくれていなければ即全滅ルートだ。
レイドボスなんてモンじゃない、というかコイツならペレとか余裕で勝てるだろ絶対。
「チッ! 攻撃魔法なら俺が付き合ってやるよ!」
「望む所」
デカい声を上げ、杖を構えてみれば。
相手は完全に俺へとヘイトを向けて来た。
で、あるのなら。
「五秒!」
「……何?」
「何でもねぇよ、“ルイン”!」
それだけ言ってから、こちら側に来てからは一度も使っていないスキルを発動させた。
俺達の中間辺りで薄暗い紫色の球体が発生し、やがて歪み、更には周囲の物を吸い込んでいく。
奥義ではないものの、結構な大技。
このスキルが発動している間、球体の周囲にある物は分解され、吸収されていくという魔法攻撃。
簡単に言えば簡易ブラックホールの様なモノだが、コレが発動すると周囲の物全てが崩れ、廃墟の様になってしまうから“ルイン”。
そしてこのスキルは、相手の魔法でさえ“喰らう”のだ。
「底が知れないわね……魔王。まさか私の魔法を無効化するなんて」
「そりゃどうも!」
とは言え、便利なだけの強スキルって訳じゃない。
これまで俺がこの技を使わなかった理由。
非常に簡単で、ゲームらしい条件なのだが。
コレを使用中……“動けない”のだ。
杖を構えた状態のまま、一切の移動が出来なくなる。
正面からの魔法や飛び道具なら食いつくせるが、ルインの範囲外からの攻撃などに対しては、完全に的になってしまう。
だからこそ、仲間にずっと守って貰っている状態じゃないと使い物にならないスキル。
正直コレはあまり使いたくなかったのだが、それでも今は相手の魔法を無力化するのが先決だ。
「っしゃぁ! いつまでも鬱陶しく残ってたお前のオーラも、全部喰ってやったぜ!」
「本当に……すご――」
キッチリ五秒。
スキル発動が終わった瞬間、左右からイズとトトンが彼女に突っ込んだ。
まるで魔女を守るかの様に纏わり付いていたよく分からない魔法も、全てルインで吸収した為、今ならフリー。
このタイミングを逃す二人ではない。
「くっ!」
「どうした、ネタ切れか?」
「剣の光も弱いし、傷の治りがちょっと遅くなってんじゃない? なら、もう勝ち目はないよ」
イズの攻撃と、トトンの突進。
確かにトトンが言ったように、傷の治りが遅い様に感じられる。
そして剣の光が弱まっているのも確か。
多分自分の掌を棘でブッ刺したアレが、魔法攻撃のトリガーなのだろう。
だったらすぐにでももう一度繰り返しそうなモノだが、相手にその様子は無し。
順当に前衛として、二人に対処している様だ。
つまり、魔力切れが近い。
「ダイラ、決めるぞ! 奥義準備!」
「了解っ!」
叫んでからポーションを一気飲みして、上空へと舞い上がり翼を広げた。
その背中に月の光を浴びながら、杖の切っ先を相手に向けて。
「“覚醒”! “テオドシウスの城壁”!」
ダイラの奥義が発動した瞬間、光の要塞が出現し周囲を包み込んだ。
そしてソレは、魔女を含めた前衛二人の事も包み込み。
更には、スキル発動を確認した所でイズとトトンが一気に引く。
何が起こったのか理解出来なかったのか、二人の追撃はせず周囲を見回す魔女。
完全に、足が止まった瞬間であった。
「“覚醒”! これでも生き残れるか? 魔女。もう一回試してみようぜ……」
新しく覚えた俺の奥義。
コレだけの為にキャラを作らないといけない程、習得困難な隠しスキル。
しかも試し打ちであれだけの威力だったのだ。
デウスマキナをも凌駕する攻撃力、今度こそ……終わりだ。
「“サテライト・レイ”!」
「“血喰らい”! 応えなさい!」
上空から特大の光が襲い掛かる瞬間、相手も何やら魔法を使ったらしく。
これまで以上の赤い光が此方に襲い掛かった。
収束した月の光と、赤い光が交差する。
しかしながら、現在俺はダイラの絶対防御の中に居るのだ。
だからこそ、余裕の顔を浮かべながら相手の攻撃を受けた訳だが……こっわ!
食らわないと分かってても、相手の攻撃に全身呑まれるのは心臓に悪い!
が、しかし。
笑え、相手の心を折る為にも。
「クハハハッ! 効かねぇなぁ、どうした魔女! そんなもんかぁ!?」
此方の奥義に呑まれている状態なので、相手の様子は分からないが。
それでも直撃した上に、周囲の物体は破壊されていく。
ゴリゴリと魔力が削られている感覚はあるが、間違いなく仕留めた筈。
と言う事で、MPが空になる寸前でスキルを停止してみれば。
眩い光は徐々に収束し、ボロボロの大地とドデカイクレーターが見えて来た。
勝った、そう確信できそうな光景だったというのに。
「手心を加えたつもりかしら? 魔王」
クレーターのど真ん中に、普通に魔女が立っているではないか。
え、嘘? アレを食らっても生きてんの?
だとしたら、俺等に勝ち目なんて一切ないんだけど……。
思わず絶望した表情を浮かべ、魔力切れに近い気持ち悪さを抱きながらゆっくりと地面に下りてみれば。
「しかも……回復まで。本当にどういうつもり?」
は? 回復?
どういうことだ? サテライトレイにはそんな効果は無かった筈。
相手が実は月関係の魔法か何かを持っていて、俺の攻撃を逆に回復を使ったとかなら分かるんだけど。
魔女は非常に困惑した様子で、俺の事を疑わし気に睨んで来るでは無いか。
だとしたら、また別の要因。
あるとすれば、ダイラの奥義の影響を受けている事。
確かに“テオドシウスの城壁”内には滞在しているが、相手は敵だ。
でももしも本当にそれが原因で生き残ったのだとすれば、スキル発動時から相手が回復し始めないとおかしいのだ。
何故攻撃を受けたタイミングで回復し始めた?
更に言うなら、俺の攻撃のダメージ判定は何処に行った?
ひたすらに混乱しながら、相手を見つめていれば。
「ゴメン、クウリ……限界」
「ダイラ!?」
後ろで仲間が一人、限界を超えて倒れたのが分かった。
このスキルの代償、奥義使用後に問答無用でMPを空にされること。
やばい、コレは不味い。
相手も回復しているし、こっちは魔法防御とバッファーを担っているプレイヤーが欠けた。
こんなの……完全に此方の勝ち筋が消えた瞬間じゃないか。
なんて、思っていたのだが。
「何をしたの? 魔王。精神干渉的な魔法の類? 私を仲間にでもするつもり?」
「……は?」
魔女が、おかしな発言をし始めた。
いったい何を言っているのか、まるで理解出来ないのだが。
彼女は大きなため息を溢しながら、剣を収め。
「さっきの攻撃を受けて……いえ、そもそも攻撃ではないのかしら? あの光を受けてから、貴女達に全然敵意が向けられないんだけど。いえ、向けたいと思わないと言うべきかしら」
「……はい?」
サテライトレイは単純な攻撃魔法だった筈。
フレーバーテキストにも、そんな効果があるとは書いていなかったと記憶している。
だというのに、なんだこの状況。
まさかノーライフキングの様に、服従させたって訳でも無いし……全く意味が分からない。
だが魔女の言う事が全て事実だとして、この状況を分析するのならば。
「魔女、一つ試したい事がある。いいか?」
「何?」
「一回、俺の攻撃受けてくれないか? 軽いので良いから」
「正気? 普通承諾する人はいないと思うけど」
そんな事を言いながらも、彼女は提案を受けてくれたのか。
その場で武器を手放し、両手を広げてみせた。
と言う事で、MPポーションを飲んでから相手に掌を向け。
「“ポイズンミスト”」
スキルを使ってみれば、いつも通り敵の周りには毒の霧が発生する訳だが……。
おかしいな、全然効いている様子が無い。
「……どういう事? 何度も食らったから覚えているけど、コレ毒の霧よね? 全然効果が出ていないけど」
本人からの申告も受け、完全に理解した。
攻撃魔法……というか直接的な攻撃魔法、ヒットエフェクトがあるスキルを仲間に叩き込むという検証は未だ済んでいなかったが。
こういった間接的な攻撃を無効化出来るというのなら。
これは、恐らく俺の想像通りで良いのだと思う。
此方の攻撃と相手の攻撃が交差し、お互いになんのダメージも発生しなかった。
それどころか、そのタイミングでダイラの奥義の“恩恵”を受け始めた。
更には今のこの状況と、俺達に対して敵意が無くなってしまったという相手の発言。
これらすべてを考慮して、行きつく答えは。
「俺等……パーティ登録された?」
「「はぁ?」」
「なにを……言っているのかしら」
だってそれしか、思いつかないんだもん。




