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エピローグ:「新たな旅立ち」

エピローグ:「新たな旅立ち」


黎明の柔らかな光がアルカディア大聖堂のステンドグラスを通り抜け、七色の輝きとなって内部を彩っていた。朝露に濡れた石畳は虹色に煌き、まるで光そのものが歓迎の道を敷いているかのようだった。王国中から集まった人々で聖堂は溢れんばかり、その熱気と期待で空気が震えるほどだった。祝福の儀式を求める信者たちの瞳は、以前とは比べものにならないほど光に満ちていた。彼らの「心の光」は、闇の力から解放され、星々のように輝きを増していた。


大聖堂の高い天井からは金色の装飾が施された白い布が優雅に垂れ下がり、軽やかな香木の香りが漂う中、パイプオルガンの荘厳な音色が響き渡っていた。人々の囁きと期待に満ちた視線はすべて、祭壇へと向けられていた。


そこに立つルナの姿は、かつての聖女とは別人のようだった。純白の聖女衣装は王国伝統の技法で織られた金糸で縁取られ、その裾は光を含んだかのように揺らめいていた。銀色の長い髪は朝の光を反射して輝き、風に揺れる度に星屑を散らすように煌めいた。しかし最も変わったのは彼女の青い瞳だった。かつては視力を持たなかったその瞳は今、澄み渡る空のように深く、世界の真実を「見る」力を宿し、内側から光を放っていた。


人々は彼女を見ると、自然と膝をつき、敬意を表した。ルナはそれぞれの顔を見つめ、一人一人の「心の光」の鼓動を感じることができた。愛情、希望、感謝、そして新たな始まりへの期待——それらの感情が幾重にも重なり、大聖堂全体を温かな光で包み込んでいた。


「ルナ、今日のあなたは特別に美しい」


祭壇の脇に立つヘンリー大神官の声は、年を重ねて少し震えていたが、その瞳は誇りと喜びで潤んでいた。彼の皺だらけの顔に浮かぶ笑顔は、父親のような慈愛に満ちていた。


「幼いあなたが女王様に連れてこられた日から、このような日が来ることを信じていた。あなたの成長を見届けられて、この老人は何より幸せじゃ」


ルナは深々と頭を下げ、感謝の念で胸がいっぱいになった。彼女は初めて、ヘンリーの「心の光」がどれほど深く、純粋なものかを真に「見る」ことができた。長年の導きと忍耐、そして父親のような愛情——それらすべてが織りなす光の糸が、彼女自身の光と深く結びついていることを感じた。


「ヘンリー様、すべては皆様のおかげです。私一人では何もできませんでした」ルナの声は柔らかく、しかし大聖堂の隅々まで届くほど澄んでいた。


「いや、あなた自身の強さとひたむきさが、この王国を救ったのだ。あなたの光は、我々すべてを導いてくれた」ヘンリーは感動で震える手で彼女の頭に優しく触れた。


祝福の儀式が始まり、ルナは一人ずつに前に進み出る人々に光の祝福を与えていった。彼女の手が触れる度に、その人の「心の光」が鮮やかに輝き、時には涙を流す者、時には歓喜の声を上げる者もいた。今や彼女の力は以前とは比べものにならなかった。一人一人の「心の光」を感じるだけでなく、その輝きの中に過去の記憶や未来の可能性までも垣間見ることができるようになっていた。


祭壇の階段の上から、レイヴン、フィア、オリヴィエの三人がルナを見守っていた。彼らの顔には誇りと静かな感動が浮かんでいた。レイヴンの常に厳しかった表情は柔らかくなり、フィアの琥珀色の瞳は好奇心と知識欲で輝き、オリヴィエの凛々しい姿は王国の騎士としての誇りを体現していた。


儀式が終わり、大聖堂から溢れ出た人々は歓喜に満ちた表情で通りを埋め尽くした。花びらが舞い、音楽が鳴り響き、王都アルカディアは祝祭の幕開けを迎えていた。


その午後、王宮では特別な謁見が行われていた。エレノア女王はルナと彼女の仲間たちを女王の私室に招いていた。窓から差し込む柔らかな日差しが、部屋内の金や銀の調度品を優しく照らしていた。


女王は玉座ではなく、彼らと同じ高さの椅子に腰かけ、その姿は威厳がありながらも、どこか人間味を増していた。歳月が刻んだ細かい皺が見えるようになり、その青い瞳には悲しみと後悔、そして新たな希望が混ざり合っていた。


「あなたたちの勇気ある行動に、この王国は永遠に恩義を感じるでしょう」女王は穏やかな表情で語りながら、特にルナに温かな視線を向けた。「そして特にあなた、ルナ。あなたは私が選んだ『光の継承者』にふさわしい者でした。私があなたに授けた光の力は、あなたの純粋な魂によって何倍もの輝きを増しました」


女王はゆっくりと立ち上がり、窓際に歩み寄った。夕日に照らされた王都の景色を眺めながら、彼女は続けた。


「私は、過去の過ちを認め、アーサーとの関係や、ルナに光の力を授けた真実を国民に公表することを決意しました」その声には覚悟と強さがあった。「そして、将来的には——」女王はルナに向き直り、彼女の両手を取った。「あなたに王国の未来を託したいと思っています。あなたこそが、真の『光の聖女』であり、この国を導く者にふさわしい」


ルナの瞳が驚きで見開かれ、その中には戸惑いと畏れ、そして使命感が交錯していた。彼女はゆっくりとうなずき、女王の手をしっかりと握り返した。その握手の中に、二人の間で交わされる無言の約束と理解があった。


宮殿の庭園では、レイヴンが石の欄干に肘をついて、じっと夕焼けの空を見上げていた。彼の左頬の傷は相変わらずだったが、その緑の瞳には以前には見られなかった穏やかさが宿り、永い間彼を束縛していた影から解放されたかのようだった。


「これからどうするんだ?」オリヴィエの声が背後から聞こえ、彼は振り返らずに答えた。


「さあな」レイヴンは肩をすくめ、剣の柄を無意識に撫でた。「長年抱えていた過去のトラウマからは解放された気がする。新しい道を探してみようと思う」彼の口元に珍しい微笑みが浮かんだ。「お前はどうするんだ、騎士様?」


オリヴィエは黄金の髪を風に揺らし、一歩前に進み出た。彼の青い瞳には揺るぎない忠誠心と決意が光っていた。「私は王国の騎士として、改めて誓いを立て直しました。この国と、そして——」彼は少し言葉を選ぶように間を置いた。「ルナを守ることが、私の使命です」


二人の戦士は言葉以上の理解を交わし、静かにうなずき合った。


一方、王立図書館では、フィアが山積みの古代文献と魔法の書物に埋もれていた。彼女の赤い巻き毛は羊皮紙に向かって垂れ下がり、ろうそくの明かりに照らされた琥珀色の瞳は知識欲と興奮に輝いていた。


「これは驚異的ね!」彼女は小さな歓声を上げ、隣の席で黙々と本を読んでいた若い学者を驚かせた。「光と闇が完全に均衡を保ったとき、新たな力が生まれるという古代の文献を見つけたわ!しかも、それは『見えざる光』と呼ばれるものらしいの」


彼女はページを早々とめくり、熱心にメモを取りながら、新たな魔法理論を構築していった。フィアの頭の中では、既に次なる冒険への地図が描かれ始めていた。


翌日の朝、四人は大聖堂の最も高い塔の上で再会した。遥か遠くに広がる地平線には、まだ見ぬ土地への誘いがあるようだった。新鮮な風が彼らの髪を揺らし、太陽の最初の光が大地を黄金色に染め上げていた。


ルナは手すりに寄りかかり、その視界に広がる世界の美しさに息を呑んだ。生まれて初めて見る朝日の輝き、遠くに連なる山々の荘厳な姿、そして目の前に広がる可能性の全て——それらを「見る」ことができる喜びが彼女の胸を満たした。


「まだ世界には謎がたくさんあります」ルナは静かに語りかけた。彼女の声は風に乗って、まるで祝福のように広がっていった。「光と闇のバランスを守るため、新たな旅に出たいと思っています。皆さんはどうしますか?」


彼女は振り返り、三人の仲間を見つめた。彼らとの旅で培った絆は、心の中で輝く宝石のようだった。


レイヴンはいつものように無愛想な表情で剣を肩にかけ、一歩前に踏み出した。「お前の護衛はまだ終わっていない」彼の言葉は素っ気なかったが、その緑の瞳には決意と友情の光が宿っていた。「それに、俺にはまだやり残したことがある」


フィアは魔法の杖を華麗に振りながら、小さなきらめきを空中に描いた。「もちろん行くわ!」彼女の声は興奮で高くなり、赤い巻き毛が弾むように揺れた。「新しい発見を求めて!特に『見えざる光』の謎を解き明かしたいの!」


オリヴィエは一度だけ王都の方を見つめ、騎士としての誓いを思い出すかのようにしばらく黙っていた。やがて彼は凛々しく立ち、剣を抜いて光にかざした。「王国の平和を守るためにも、真実を探し続けねばなりません。私もあなた方と共に行きます」彼の剣は朝日を受けて輝き、その光がルナの瞳に映り込んだ。


四人の視線が交わり、そこには固い絆と新たな冒険への期待が満ちていた。ルナの青い瞳は、今や世界の真実を「見る」力を宿し、未来への希望の光となっていた。彼女の唇が優しい微笑みで彩られると、その表情は周囲の空気までも明るくするようだった。


「では、行きましょう」ルナは穏やかな声で言った。「光と闇の均衡を守るため、そして新たな真実を求めて」


彼女は最後に振り返り、アルカディア大聖堂の全景を目に焼き付けた。ここで過ごした日々、ヘンリー大神官の導き、エレノア女王の信頼、そして今や彼女自身が担うことになった使命——すべてが彼女の心に刻まれていた。


塔を降りる四人の足取りは軽やかだった。彼らの前には、まだ見ぬ世界と、光と闇の新たな物語が広がっていた。朝日に照らされた道は、彼らを待つ冒険への第一歩を優しく照らしていた。


世界は息を呑み、新たな英雄たちの旅立ちを見守っていた。


(完)

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