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第3話:「霧の谷の真実」

第3話:「霧の谷の真実」


朝靄の立ち込める中、ルナたち一行は霧の谷の入り口に立っていた。谷全体を覆う白い霧は、まるで生き物のように揺らめき、時に濃く、時に薄くなりながら彼らを包み込んでいた。


「ここが霧の谷か…話には聞いていたが、本当に不気味だな」レイヴンが低い声で呟いた。彼の手は無意識に剣の柄を握りしめていた。


フィアは杖を掲げ、小さな炎を灯した。「この霧は魔力を含んでいるわ。単なる自然現象じゃない」彼女の琥珀色の瞳が鋭く光った。


オリヴィエは周囲を警戒しながら地図を広げる。「伝説によれば、谷の奥に古代の遺跡があるとされています。そこに光と闇についての秘密が隠されているはずです」


霧の中を進むにつれ、視界は悪くなり、湿った空気が肌にまとわりついた。木々の間からは冷たい風が吹き抜け、葉のざわめきが静寂を破った。周囲の景色は霧に溶け込み、時折奇妙な影が見え隠れする。


「この霧の中でも私だけは心の光を頼りに進める」ルナは杖を握り締めながら静かに言った。目は見えないが、彼女の内なる感覚は鋭く、仲間の位置も把握できていた。「みなさんの心の光が私の道しるべです」


レイヴンは剣を抜き、周囲を警戒しながら歩を進める。「何かいる…」彼の声に全員が立ち止まった。霧の中から、かすかに黒い影が動くのが見えた。


「闇の使いよ、私たちを恐れさせることはできない!」フィアが呪文を唱え、杖から光の弾が放たれた。影は悲鳴をあげることなく、霧の中に消えていった。


「あれは…私たちを試しているのかもしれない」ルナが静かに言った。「この谷は、光と闇の力が交差する場所。私たちの覚悟を確かめているのです」


時間が経つにつれ、霧は少しずつ薄れていった。谷の奥深く、彼らはコケに覆われた一軒の小屋に辿り着いた。扉の前には古い木彫りの像が置かれ、光と闇の対立を表す彫刻が施されていた。


ドアが開き、長い白髪と深いしわを刻んだ顔を持つ隠者が姿を現した。彼の目は白く濁っていたが、四人を正確に見つめる様子に、ルナは親近感を覚えた。


「来るのを待っておった」隠者の声は岩が擦れるように荒れていた。「光の聖女と、その仲間たちよ」


小屋の中は、驚くほど整然としていた。壁には古い地図や、星座を描いた図が貼られている。中央には暖炉があり、その火の周りに彼らは座った。


「私は光の聖女とは…」ルナが口を開いた瞬間、隠者は手を上げた。


「知っておる。お前の運命も、この国の危機も」隠者は古い木の杯から熱い茶を彼らに注ぎながら語り始めた。「百年前、この国では『光と闇の戦い』があった。光の王と闇の王、二人の力が均衡を保っていた時代の終わりじゃ」


彼の言葉に合わせ、暖炉の炎が揺らめき、まるで過去の情景を描き出すかのように影が壁に踊った。


「その戦いは今も影響を残しておる。闇の王は再び姿を現し、世界を覆わんとしているのじゃ」隠者の言葉に一行は身を引き締めた。


「アーサー・シャドウが闇の王なのでしょうか」ルナが問いかける。


隠者はゆっくりと頷いた。「彼こそが闇の王の後継者。だが、彼の心にもかつては光があった。それを消したのは…」彼は言葉を切り、立ち上がった。「行くがよい。遺跡へ。そこで真実の一端を知ることになるだろう」


小屋を後にした一行は、隠者の指示通り、谷の奥へと進んだ。やがて、巨大な石造りの遺跡が霧の中から浮かび上がった。入口には古代文字が刻まれ、風化した像が立ち並ぶ。


「これは…エテルナ王国の古代文字」フィアは興奮した様子で石碑に駆け寄った。彼女の指が文字の上を滑るように動く。「この預言は、光の聖女と闇の王の因縁を記しているわ。光の聖女は闇の王を討つためにやってくる、と」


オリヴィエが別の石碑を見つけた。「こちらには…『光と闇は互いを必要とする。一方だけでは世界は成り立たない』と書かれています」


レイヴンは警戒しながらも、遺跡の奥へと進む道を探していた。「ここだ」彼は古い階段を指さした。「下へ続いている」


階段を降りると、そこは広間だった。中央には水晶のような石が祭壇に置かれ、かすかに青白い光を放っていた。ルナは杖を使いながらもまっすぐに祭壇へと向かった。


「これが…古の水晶」彼女は囁くように言った。「呼んでいる…私を」


「ルナ、危険かもしれない」オリヴィエが心配そうに声をかけるが、ルナは既に水晶に手を伸ばしていた。


水晶に触れた瞬間、彼女の意識は現実から離れ、光の渦に包まれた。そこで彼女は見た—目が見える自分自身を。そして、過去の情景が次々と映し出される。


若きエレノア女王の美しい姿。彼女の隣には、まだ闇に染まる前のアーサー・シャドウがいた。二人は愛し合っていたが、政治的な理由により引き裂かれ、エレノアは別の王と結婚することになった。絶望したアーサーは闇の力に取り込まれていく様子が、まるで川の流れのように連続して映し出された。


「ルナ!ルナ!」レイヴンの声が彼女を現実に引き戻した。ルナは水晶から手を離し、震える声で語り始めた。


「私は見たの…見えたの…」彼女の青い瞳から涙がこぼれ落ちた。「アーサー・シャドウは闇の王。でも彼はかつて女王と愛し合っていた。政略結婚で引き裂かれ、絶望した彼は闇に堕ちたの」


フィアが驚きの声を上げた。「それで女王は常に悲しげな表情を…」


「それだけじゃない」ルナは続けた。「女王は自分の『光の力』を私に移したの。アーサーの復讐から王国を守るために…だから私は生まれながら盲目になったの」


一同は言葉を失った。レイヴンが沈黙を破る。「だからお前は『心の光』を見ることができるのか」


オリヴィエは膝をつき、ルナの前にひざまずいた。「私たちは真実を知った。これからどうするおつもりですか、聖女様」


ルナはゆっくりと立ち上がり、水晶を手に取った。水晶は彼女の手の中で温かく光り始めた。「クリスタル湖へ行きましょう。この水晶が示す次なる場所です。そこで、より深い真実が私たちを待っているはずです」


四人は遺跡を後にし、霧の谷を出る頃には、朝日が霧を金色に染めていた。ルナの心には新たな決意が芽生え、闇を打ち払う光が満ちていた。手に持つ古の水晶は、まるで彼女の決意に応えるように、静かに脈打っていた。


(つづく)

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