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6 野菜泥棒と変態貴族




酒場で食事を済ませ、ガイダンスと分かれたブレイヴは冒険者ギルドに戻る事にした。

〝渓谷の魔女〟の噂も気になるが、それよりも魔物の様子がおかしいことと行動範囲の拡大がやはり引っ掛かる。いずれはこの暁月村にも影響がありそうな案件だけに、緊急性が高い。


過去の資料を漁ってみようかと思う。


ということで、



「今日も残業かぁ」



ブレイヴはここ数日、まともに寝ていない。

ギルドの職員はギルド長を合わせてもたったの5名。ギルド長であるブレイヴと、副ギルド長のビーン、受付のヘアとリップ、魔物の解体や倉庫番のアイアンというメンバーで何とか日々の業務を回している。

どうしても一人当たりの負担が大きく、家に帰らずそのままギルドで徹夜する時もあるのが現状。


いくら辺境の村とはいえ、依頼は大きいものから小さいものまで毎日のように舞い込んでくるし、事務処理がとてもじゃないが追いつかない。本来であればブレイヴがやるような仕事じゃないことも、人手が足りずにこなす事もしょっちゅうだ。


その疲れはまさにピークに来ていた。今日はガイダンスとの食事が終わったら真っ直ぐ帰って寝るつもりだったが、事は急を要するところまで来ているようなので悠長に休んでいられないだろう。





裏道を通り路地を抜けギルドの手前まで来たが、路地の暗がりから聞こえた男たちの怒鳴り声で足を止めた。距離をとって様子を伺うと、街の方から来たらしい貴族と思われる男2人に対し、村人と思われる娘が言い争っているようだった。


耳を澄ますと、



「いいから盗んだ野菜を返して!」



「いつ俺たちが野菜を盗んだって?証拠でもあるのかな?お嬢ちゃん」


「そうだぞ〜。現に俺たちは何も持っていないじゃないか。言いがかりはよしてくれ」



確かに男たちは遠目からだが、野菜を持っているようには見えない。だが、あの娘があそこまで言うということは何か根拠があってのことなんだろう。



「何ならカバンやポケットの中まで見せるかい?どうせ見たところで何も出て来やしないがね」



そう言って男たちはゲラゲラと笑いだす。


様子を見ていたが、これは厄介だな。ただでさえ屁理屈をこねる貴族という者は多く、そういう奴らは権力をかさにやりたい放題だ。その中でもあの剣の紋章は……


そう手をこまねいているうちに男たちが、



「おら!!証拠を出せって言ってんのが聞こえねぇのか?貴族に楯突いたんだ、それなりに覚悟は出来てんだろうなぁ?」



娘は突き飛ばされ、石畳に叩きつけられた。



「うっ……っっっ」



見てられないな。そう思い、一歩踏み出そうとした時、





「ちょっと。いたいけな女の子に何してんのよ!今すぐその子から離れなさい!」






俺は一歩出遅れた。声の主は薄い桃色の髪を腰までなびかせた若い女性だった。黒いローブを身にまとい、手には大きな籠を持っていた。



「あぁ?やんのかねぇちゃん」



1人がすごむ。



「まぁ、待て待て。それよりもお嬢さん、こんな暗がりにお一人で危ないですよ?良ければご自宅までお送りしましょうか?」



と、もう片方の男が男を宥めた。先ほどとはえらい態度の変わりようだ。



「結構です!それより、その子から離れて!」



そう言って路地にグイグイと入り込んだ女性は、娘を抱き起こし、



「大丈夫?平気?」



と気遣った。何て気の強い女性だろう。しかし、状況はより悪化してしまった。どう切り抜けようかと思っていると、



「ううっっっ……お母さんと一緒に育てた野菜、この人たちに取られちゃったの」



ポロポロと、大粒の涙が溢れ落ちた。



「……だ、そうだけど、返していただけるかしら?」



「いやいや、だから俺たちは何も持っていませんって。ほら、見ての通りですよ?」



そうなのだ。

この男たちは現に何も持っていない。だが、娘が嘘をついているとも考えにくい。それがこの状況をややこしくさせている。



「ふむ……確かにそうね。見た感じ、何も持ってないようには、見えるわね」



「そうだろ?まぁ、そんなことはもうどうでもいいじゃないか!この夜の出会いに感謝しよう!さて、お嬢さん、俺らと一緒にきてくれますね?」



そう言って女性に男の手が伸び、女性の腕を掴もうとした。


もう、これ以上見てはいられなかった。






「おい、そこで何をしている?」







結局出て行く羽目になった。




「あぁ?誰だテメェ。こっちはお取り込み中だ!関係ないやつはすっこんでろ!」




「そうも言ってられないだろう。貴方がたはそちらの娘さんとそちらの女性に何をしようとされていたんですか?場合によっちゃ、ギルドへ連行しなくてはいけないのでね」



剣に手をかけ、いつでも抜けるように睨みをきかせていると、





「そうよ、そこの貴方、手を出さないでくれる?」






と、耳を疑うような素っ頓狂な声が聞こえた。思わず剣から手を離して女性の方を見てしまう。

何を言っているんだこの女性は。状況が把握出来ていないのか?今何されようとしていたのか分かっているのか?無理矢理連れて行かれるところだったんだぞ!?



「貴方がたは、この子の野菜を持っています」



「だから持ってないって言ってんだろ……!!よく見てみろよ!!」







「……………それでは、貴方たちの横にあるその袋は、一体何なのですか?」








そう言って女性が指を指した先にあったのは先ほどまで無かった大きな袋が2つ。



「なっ!?〝暗幕〟のスキルは発動していたはずなのに、どうして!?」



なるほど、こいつらは〝暗幕〟のスキルで袋に入った野菜を巧妙に隠していたのか。

最近、日照りや干ばつで他の村では不作が続いていると聞くし、転売目的か、自分たちで食おうとしたんだろう。



「そう……スキルを悪用していたのね。大人として恥ずかしいわね」



「てめぇっっ!一体何しやがった!!」



「いきなり声を荒らげるなんて、その辺にいる魔物以下ね。野菜が欲しいのなら、正規のルートを使って適正に買いなさい!!貴方達には何をしたのか、教えてあげる義理はないわ!!」



うわっ、この人も結構煽るなぁ。

貴族さん、顔を真っ赤にしてカンカンじゃないですか……



「くそっ。調子に乗らせておけば言いたい事言いやがって!!!」



男たちは腰に下げていた剣を抜いて、女性に襲いかかりーーー





「しまっっ!?」





慌てて割り込もうとするが、僅かに間に合わない。


しかし、男たちの剣は女性に届くことはなかった。





男たちの剣があと数センチで女性に届こうかというところで、女性と男たちの間に薄い膜のようなものが出現し、その刃を止めたのだ。そして膜に弾かれた剣は宙を舞い、地面へと落ちる。

男たちは阻まれた反動と衝撃で後方の壁に打ち付けられ、崩れた。




あれは……まさか〝結界〟??




だが、男たちもすぐには完全には伸びなかったようで、




「っっっ……誰だっっっ!!!邪魔しやがったのは!!」




すぐに顔を上げ、声を荒らげる。生命力はゴキブリ並みの連中だな。


すると、路地の先から2人の女性?が現れた。







「おい、私らの姉ちゃんに、何むけてんだゴミムシ共」


「ねぇ、塵にしちゃってもいいかな?いいよね?僕、ゴミムシは駆除対象だと思うんだけど?」








「あら、ニ葉(つぐは)三葉(みつは)。こんなところまで、どうしたの?」



「どうしたの?じゃないわよ。村中探し回ったんだからっ!」



「そうだよ。それに何、この人たち?」



「え〜っとね、この子の野菜を盗んだ〝泥棒さん〟で、私についてこいって言ってきた……〝変態さん?〟かな?」



「「……………ぶっ殺す!!」」







更に状況が悪化した。










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