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4 追加の調査依頼と串焼き





「村はずれのミラー峡谷に〝魔女〟が住み着いた?」





ギルド長がそう聞き返すと、セーリオは



「あくまでも噂だよ。どこから出たのか情報元も不明だし、噂が一人歩きしているだけかもしれない。元々ミラー峡谷は死んだ人が蘇るだの、長生きできる水があるだの、谷底では竜が眠っていて目覚めたら辺り一面を焼き尽くすだの色んな噂が既にあるからね」



「私は冥界に繋がっていて、冥界の冥王が夜な夜な付近に使者を放っているって話を祖母から聞いていたわ」



「そういう話なら、俺も知ってるぜ?近所の爺さんが、峡谷には近づくな!魂を持っていかれる!って小さい頃によく聞かされたな」



セーリオはここから遠い別の村の出身だが、グラーシアとラウネンはこの暁月村の生まれだ。



「〝魔女〟か。念の為、その噂についての調査も追加で頼む。火の無いところに煙は立たないと言うしな、念の為だ」



「しょうがないわねー、分かったわよ。もし噂が事実ならこの村に影響があるかもしれないし?それでいいわよね、ラウネン、セーリオ?」



「「異論ない」」



このパーティーはこういう時、話が早くて助かる。




「いつもすまないな」


「そう思うならたまには夕飯でも奢ってくれよ」




三人はここ数日、野宿が続いていたのでまともな料理を食べていない。野宿で食べていた物といえば乾燥してパサパサになったパン、塩の味が強い干し肉、山で採れた薬草を煮込んだだけの味のしないスープなどだけだ。

ふかふかのパンに、肉汁が溢れるステーキ、ヤギの乳を使ったミルクたっぷりの温かいスープ……想像しただけで三人の腹の虫が大きく鳴った。



「そうだな、夕方までには仕事を片付けておくから、たまには夕飯を一緒に取ろう。場所は…ラウネンが好きなあの酒場でいいかな?」



提案したのは村で一番大きな酒場で、ラウネンの行きつけだった。あそこは酒も美味いし、料理もめちゃくちゃ美味い。

ラウネンの好物はオーク肉を使ったシチューだ。通常オーク肉をそのまま食べようとすると、固いわ筋が多いわ臭いわでとても食べられた代物ではないが、その酒場では下処理をしっかりとして長時間煮込む事によってこれらのマイナス要素を無くした。これと酒がよく合うんだ。



「おっ!いいのか?んじゃぁ、夕飯までにもう一仕事して更に腹空かせようぜ!確か掲示板に売れ残ってた依頼書あったよな」


「そういえばあったね、僕らじゃなくても達成出来そうな依頼だったけど…まぁ、時間潰しにはなるかな?」


「あぁ、では夕方の鐘が鳴った頃に酒場前で待ち合わせよう」





ラウネン達は約束を取り付け、早速依頼へ向かった。





そして、



「……〝魔女〟か、すまないが君の方でも当たってくれないか?範囲は、そうだな…王都周辺の噂と貴族の連中の動きを頼む」



「了解しました、マスター」



ギルド長の背後にずっと控えていた〝影〟は、そう言うと音もなく消えていった。ガイダンスのメンバーには村周辺を、そして〝影〟には王都周辺を調査してもらう。役割分担というやつだな。

ガイダンスのメンバーはこの村の村人から一目置かれていて顔も広い。聞き込みをするには適している。

王都周辺はきな臭い。貴族の連中が禁止されている人身売買を裏で手引きしているという情報もあるし、他国と禁止薬物や武器の密輸を行なっている反王政派の貴族が近々動き始めるという情報も入ってきた。こういう仕事は〝影〟が適任だ。〝隠密〟のスキルに長けた者に任せるのが良い。


ガイダンスのメンバーはおそらく気付いていないだろう。彼らはCランクの冒険者だが、〝影〟は俺と同じ元Aランクの冒険者で珍しい〝複数のスキル持ち〟だからな。



「さて、これから忙しくなりそうだ」





「……んで?僕たちは依頼をこなしながら聞き込みをすればいいって事?」



ガイダンスは次の依頼に向かいながら簡単な打ち合わせ中だ。

依頼内容というのは薬草の収集と、薪割りだった。こういう依頼はギルドに一定数、毎度入ってくる。というのも若い働き盛りな者は王都や大きな街に出稼ぎに行っていて、ある程度年配の高齢の者が村に残って家業をこなすという家が多いからだ。人手不足というやつだ。



「そうねぇ〜、薬草の方はセーリオが担当してくれる?〝遠見〟のスキルがあれば探すのも早いんじゃじゃない?」



「僕の〝遠見〟はそんな便利なものじゃないよ。グラーシアだって知ってるでしょ?でもまぁ、分かった。薬草の方は僕に任せて。それじゃあ、薪割りはラウネンが担当かな?無駄に体力余ってそうだし」



と言って後ろを歩いていたラウネンに視線を向けると、ラウネンがいない。



「あいつ、どこ行った?」


「さっきまで一緒にいたのに!ちょっと目を離すとこれだからっ」



あたりをきょろきょろと見渡すと露店からこちらへ戻ってくるラウネンの姿が見えた。なぜか串焼きを食べながら。そして袋いっぱいの串焼きを抱えて。



「よぉ、串焼き買ってきたぞ?お前らも食うか?」



確かに良い匂いだが、いきなりいなくなるのはやめてほしい。パーティーのリーダーとして、如何なものかと。せめて一声かけてから行けよ!とセーリオとグラーシアは思った。



「…なんだ?食わねぇの?」


「んもう、食べるわよ!でも次からは一言断りを入れてちょうだい!今はパーティーで動いてる時なんだからっ」



ラウネンから串焼きを奪い取ると、食べ始めるグラーシア。



「そうだよ〜ラウネンは曲がりなりにも僕らのリーダーなんだからね?」



セーリオも串焼きを取って早速食べ始める。

何せ皆、腹がぺこぺこだったのだ。いくら夕飯にギルド長が奢ってくれるとはいえ、それまで腹がもたない。



「悪ぃ悪ぃ。この匂いに誘われてつい、こうフラフラっとな?あ〜〜?そういえば露店のおっちゃんの息子が、〝峡谷の魔女〟に助けられてって言ってたなぁ〜」



串焼き2本目に手をつけるラウネン。



「ふ〜ん?〝峡谷の魔女〟にね〜」



「助けられた、ね」



「「「………………」」」



串焼きを食べていた二人だったが、数秒後にむせ込んだ。ラウネンは変わらず食べ続けていたが、呑気なものだ。




「なんだ?大丈夫か、お前ら。水、もらってくるか?」




「「……ゴホッ、ゼーゼー、…………別にいらん!」」




それよりも、その話を早く言え!!!









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