59 それぞれの現在地
迷路は現在、訳のわからない状態になっていた。
上下が逆さまだったりする場所、空間が捻れてしまっている場所。とにかくグチャグチャで、迷路を作った本人も全体像を把握し切れていないくらい複雑な迷路になっていた。
これは攻略する以前に、生きてここから出られるかすら怪しい。何十年、何百年と下手したら出られず一生をこの場で過ごすことになるかもしれない。それだけは、阻止せねば!
「んんー………どうしようか?」
「………我に聞かれても困る」
一葉はオウギと共に、変形してしまった迷路の桟橋になっている部分に腰掛け、これからのことを話し合っていた。
と、言ってもこれとして攻略方法が見つからない。
一葉も壁をつたって歩いて進む攻略法は知っていたが、こんな壁もくそもない迷路に変わってしまえばその攻略方法は使えない。
この迷路を作ったであろう、魔王の息子とやら……ホントに余計なことをしてくれたわね……。
「せめて全員集まればな……どうにかなる気がするんだけど」
「いっそのこと、辺り一体を壊しながら進むか?運が良ければ破壊音で誰かが気付くだろうし、いつかは迷路の端っこへ到達するだろう」
えぇ………
オウギは冷静沈着な慎重タイプかと思いきや、まさかの力任せの脳筋???
ちょっとー。イメージ崩れるからやめてよぉーーー
「いやいや!!どれだけ時間かかるのよ……あんまり現実的ではないんじゃない?」
「そうか?いけると思ったのだがな……」
しょんぼりしているオウギ。
あ、ちょっぴり可愛く見えてきたかも……。
さっき空間が歪んだ時はオウギの空中に腕を引っ張られて、迷路の変形から助かったけれど。あの時はちょっとカッコよかったのになぁ〜。
なんかこう、ギャップが萌えるかも。
「とにかく、歩いてみる?」
私は鞄にしまっていた枝を1本取り出すと、地面?に垂直に立ててその枝から指を離した。枝の先端は上?に続く階段を示していた。
適当な決め方だけど、案外吉と出るかもしれない。
「あっちね」
私は、枝が倒れた方向を指差す。
「……お前の決め方も大概だと思うが?」
ま、いいのよ。
なるようにしかならないんだから。
一葉とオウギはそんな適当な決め方で、前に進むことになった。
いや、ホントに大丈夫かな……………
一方、ニ葉とリンドウは、空中である男の子と対面をしていた。
この子もこの男と同じ魔族、なのだろう。短髪黒髪に黒い瞳の小柄な少年だった。背中からは小さな黒い羽を羽ばたかせ、宙に浮いていた。
少し吊り目で、笑った時に見え隠れする八重歯。寝癖なのかヘアセットなのか髪が色々ピョンピョン跳ねていた。
「えっと、あなたは………?」
「俺?俺はねぇ〜〜〜♫」
ご機嫌そうに挨拶をしようとする少年。
それとは真逆に、超不機嫌そうに少年を睨む魔王。なんだ、大人気ないな。
「…………………邪魔をしてくれたな、バトラー」
魔王がそう答える。
え?バトラーってまさか、魔王に人間社会での変な挨拶を教えたり、胸を揉むと大きくなるとか教えたというあの張本人!??
年配のおじさんか、おじいさんだと思っていたら魔王よりもだいぶ若い……というか子どもじゃないの。
「やぁやぁ!魔王さま、ご機嫌麗しゅうございます〜♫」
少年の名はバトラー。
オウギと同じで、この魔王城の使用人のようなものだそうだ。
それにしてもオウギとは真逆というか………なんか1つ1つの行動が軽い………?チャラい??まではいかないか。
「………で?お前は何でこんな所にいるんだ」
魔王はギロっと、バトラーをさらに睨みつける。
「ははっ、そんな怖い顔しないでくださいよ〜〜。俺だって、息子さまにお食事を届けに参ったところ、こんな空間に迷い込んでしまったのですから〜〜」
バトラーはヨヨヨ……と魔王相手でも怯まず、あくまでも自分の性格を曲げないようだ。
すご。ある意味つよつよメンタル……
「…………そうか。まぁいい。で、この元凶たる迷路を作ったアイツはどこへ行った?」
「息子さまですか?息子さまはおそらくあちらの方角にいるかと〜〜何やら悪巧みをしている気配といいますか、声が聞こえますので〜〜」
話によると、バトラーは元々常人よりも耳が良く、数キロメートル先の声ですら拾う。それに加えて魔力で聴覚の感覚をさらに研ぎ澄ませているというから、この巨大迷路の端から端までの音は全て拾えるんだそうだ。
何、その便利な力。
「他には?ツバキとレンゲとオウギ、そしてコレの姉の一葉殿、三葉殿もどこかにいるはずだ」
おい。
コレって言うな。コレって。
「んん〜〜ツバキ様とレンゲ様は、ここから5キロほど先にいますねー。オウギは……おや?女性と一緒だと思われます。ここから15キロ先にいますね。もうひと方は………おや………………」
「何だ、ハッキリ申せ」
「え、あ、いやぁ……息子さまが近くにいます、はい。ここから一番遠い、50キロ先です……はい」
直感だが、おそらくそちらが三葉ちゃんね……。
ニ葉は、自らのスキルを使う。
〝探索〟
さっき〝探索〟した通り、オウギと一緒にいたのはやはり一葉ちゃん。一葉ちゃんたちと合流してから、三葉ちゃんの元に行った方が良さそう。
あ、良くわからないけれど、こちらに向かって進んでいるみたい。これなら合流も早そう。
ツバキさんとレンゲさんは……いた。けれど、ん?なんかあっちも同じようなスキル使ってない?相殺されてよく探知出来ない……
「ちょっと、もしかしてツバキさんかレンゲさんって探索系のスキル持ってる?」
「あぁ、レンゲは〝千里眼〟というスキルを持っていて、ツバキも〝感覚共有〟というスキルを持っているから、こちらの事は把握出来ていると思うぞ?それがどうした?」
「いや……さっきから相殺されて正確な位置が掴めなくて……同じ系統のスキルを使っているのかなって思っただけ」
私はあくまでも淡々と、事務処理的に言葉を返すのみ。
あとは一番遠い三葉ちゃんね……50キロ先って言ってたっけ?結構キツイな……。
ニ葉は〝探索〟で探そうとするが、感覚を絞って生命反応だけを探しても、20キロ先を探すのが限界だった。
あまり慣れていないスキルであることも理由の1つだが、遠くを完全に把握しようと思ったらぶっ倒れるような予感がした。
これ以上ってなると、さっきみたいにローさんのような〝強化〟系の支援が必要かもしれない。
でもローさんはここにいないし……う〜〜〜む……
ここにいないのが悔やまれる。
「おい。今他の男の事を考えていただろう」
「は?アンタには関係ないでしょ。黙っててくださる?」
魔王は再びムスッとしてソッポを向いてしまった。何だこいつ、面倒クセェ………
「ま、いいわ。私はこのまま一葉ちゃんの元に向かいつつ、そのまま三葉ちゃんを回収しますので。ツバキさんとレンゲさんはそっちで何とかして下さい」
ここでジッとしていても仕方ないし、私は私で出来る事をしなくっちゃ。今は私が向かった方が早そうだし。善は急げよ。
すぐに向かおうとしたが、魔王に引き止めれれる。
「お前、ここから1人で合流するつもりか?何が仕掛けられているか分からないし、危ないだろう。せめて俺も……」
その先は何を言おうとしたのか、予想は出来たがあえて言葉を遮らせてもらう。今はどうにも落ち着かないし、一緒にいるとさっきの事を思い出して挙動不審というか……自分でも何を言い出すかよめないからここは私の方から言わせてもらう。
「………勝手について来たければ、ご勝手に。私は先を急ぎますので、これで失礼」
ついつい、返す反応が他人行儀になってしまうのは、今までの経緯からみても仕方がないだろう。私は、コイツが嫌いだ。
大嫌いなんだ。
私はそう、自らに言い聞かせた。
私はもう知らんと、雑念を振り払うように結界を連続展開させていき、足場を作って足場から足場へとジャンプして進んでいく。
こんなふうに使うのは初めてだけど、まずは15キロ。気が遠くなりそうだが、あちらも向かってくれているようだし何とか合流出来そうだ。
「……で?俺らはどうします?魔王さま?」
そしてその場に残されたのは魔王とバトラーのみ。
バトラーが気まずさから、魔王にそう問う。
「……速攻で姉2人を回収し、あいつを追う。ついてこい」
そう言うと、魔王ことリンドウは大きな漆黒の羽を羽ばたかせ、全力でツバキとレンゲの元へ向かった。
「えぇ……ついてこいって……無理っしょ……」
バトラーは全力で飛んでいって、既に豆のように小さく見える魔王さまを見て、大きく溜め息をついた。
あれが、魔王さまの全力………
魔王が全力で飛んで、俺みたいな超一般市民が追いつけるワケないでしょ。と半分諦めて、それでも出せる全力の飛翔スピードで魔王の後を追った。
追いつけるかな、これ。




