57 ツバキとレンゲの趣味
「あらあら、まぁまぁ〜〜〜あちらこちらで何だか良い感じじゃな〜〜〜い???」
「ホントだっっっ!オウギもリンドウもなかなかやるじゃな〜い」
2人もまた、迷路のどこかへと飛ばされてしまったのだが、すぐに合流出来た姉妹。
今はレンゲのスキルである〝千里眼〟、そしてツバキのスキルである〝感覚共有〟で一葉とニ葉の様子を盗み見て、楽しんでいた。
「オウギは私たちの前ではすごく良い子、ですからね。こんな子どもっぽい顔もするのですね〜?可愛らしいわ〜〜」
「確かに!今まで浮ついた話1つとたりとして聞かなかったけれど、今回はイケるかもしれないわ!!んもう、焦ったいわね〜もっとグイグイ行きなさいなーーー」
ツバキとレンゲにとって、オウギは第二の弟のようなものだった。昔からよく遊んでいたし、オウギには幸せになってもらいたいと思っている。
少々奥手なところもあるが、お似合いのような気もする。
このまま一葉とくっつけばいいのになーーと、思う2人の気持ちは一つだった。
「あらやだ……リンドウはリンドウで押し始めましたわよ!?」
「!!!どれどれ???ふぁっっっ、リンドウやり過ぎじゃない???」
リンドウなんかニ葉の胸を揉み揉みして平然とした顔をしている。
「ええええーーー………案外本気で狙っているのかしらね?キャッ……」
「目のやりどころに困りますねぇ……キャッ……」
キャッと言って目を手で覆いつつ、〝千里眼〟と〝感覚共有〟で、すっかり見えてしまっている2人。
弟のこんな姿を見るのは身内として、姉としていけないと分かってはいるがどうしても好奇心というものの方が大きくなってしまう。
長年生きている長寿の魔族にとって欠けているもの。それは〝娯楽〟だった。
ツバキとレンゲは、大っぴらに公言できない特殊な〝趣味〟があった。
現代の地球ではテレビやゲーム、大型ショッピングモールでの買い物やグルメ、映画館や水族館などなど……あげたらキリがないような娯楽に囲まれているが、この世界にはそれがない。
そんな中で2人が唯一の趣味と言えるのが、
〝人間観察〟
だった。
様々な種族がいるこの世界でも、特に人間という種族は見ていて楽しい。ちょっとしたいざこざや喧嘩なんかも面白いが、一番面白いのは恋愛が絡んだ時だ。
この前なんか、カップルの男の方が女に黙って別の女と浮気していたのがバレて、修羅場になっていたところなんてドキドキハラハラしたし最高だった。
男は狼狽え、女2人に詰め寄られてあたふたしていた。その後の展開も見ものだった。
付き合いたてのカップルの初々しい様子をニヤニヤしながら観察するのも好きだ。
ちょっと手が触れただけで甘〜〜〜い空気が流れる様子を観察するのも、床をダンダン叩きながら悶えた。
プロポーズの瞬間を覗き見したり、夜のアレコレを覗き見した時なんかは2人で鼻血を出して朝まで倒れてしまっていた。あまりの光景に気を失ってしまったようで、その日は最後まで見れなかったのをかなり悔やんだ。
いやぁ、勝手に覗くのはイケナイ事だと分かっていても、やめられないでいた。
この特殊な趣味について知るのは、本人たちを除いて他にいない。
もちろん実の弟であるリンドウも知らないし、オウギも知らない。他の使用人たちも全く知らない趣味なのだ。
「………こんなところに来てまで人間観察だなんて、アタシたちオワッテいるのかしら?」
「………だって、見ずにはいられないじゃない!??私は、この趣味を墓場まで持っていくわ」
ダメだと分かっていても、やめられない。
そんな〝人間観察〟という沼にハマっているツバキとレンゲなのであった。
 




