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3 暁月の村人と冒険者



標高3000メートルを超える山々に囲まれた盆地に、その小さな村はあった。山からは恵みの水が湧き出て、村の側に大きな湖が出来たとされている。その湖から街の人々は生活用水を引いていた。

田畑にも満面なく水路が引かれ、成る野菜はどれもこれもみずみずしく栄養たっぷりで美味しい。



「お母さ〜ん、畑仕事終わったよ〜」


「あら、ずいぶんと早く終わったのね。ありがとう」



とある一家では主に畑仕事で生計を立てていた。

この村の人口のおおよそ半数が農業を生業としており、次に多いのがが商人、飲食店などだ。


それとこの村の住人ではないが、冒険者と呼ばれる者たちも長期に渡り滞在している。そしてその冒険者達に依頼を出したりする冒険者ギルドという組織も、大きな街や王都に比べたらチンケなものだが一応存在する。



「あっ、冒険者さんたちだ。大きな剣を背負ってかっこいいね、お母さん!」


「ええ、あの方たちのおかげで魔物に怯えず、今日も畑仕事ができるわね」



そんな会話をしていると、その冒険者たちがそれに気付き、手を振ってくれた。それに対し、母と娘も手を振り返した。

この村はこんなふうに、村人と冒険者との関係が良好だ。

これが大きな街となると、いざこざが絶えないんだとか。王都に近付けば近付くほど治安も悪く、その中心だとされている冒険者は嫌われ者だ。



「そういえば最近、魔物の活動が活発化しているようね。あの冒険者さん達に頑張ってもらうためにも、立派な野菜を作りましょうね。今日はロンさんの酒場に卸す日だから、早めに準備しましょうか」


「今日はロンさんの所!?やったぁ〜」



二人は収穫した野菜を荷車に積み込み、酒場へと向かった。







一方、



「今日も村の周辺の魔物は様子がおかしかったよなぁ」



背中に大きな剣を背負った大柄な冒険者がそう言うと、



「ええ、まるで何かに怯えるかのように、気配が敏感だわ。今日のゴブリンもかなり距離をとっていて、射程距離じゃなかったのに急にこちらに気付いて襲いかかってきたわよね」



そう答えたのは杖を持った冒険者だ。



「僕なんて木の上から様子を見ていた時に、背後からいきなりコボルドの集団に襲われたよ」



そう答えたのは小柄な少年の冒険者。



「コボルドまでこんな真昼間から活発になってるなんて、やっぱ最近の魔物はおかしいよな〜」



通常であれば、ここら一体に住む魔物はゴブリンやコボルド、スプリガンが多いがどの種族もそんな頻繁に山を降りてくるような奴らじゃないし交戦的でも無い。


ゴブリンやコボルドは太陽の光が苦手で、洞窟や鉱山などの薄暗い場所を好む。この村から近い場所だと〝タール鉱山〟に多く住み着いているが、それでもこの村からは山一つ越えた先にある。こんな村の入り口付近まで行動範囲を広げるなんて、前例がない事例だ。


それに最近だとスプリガンまで村の周辺での目撃件数が増えている。

スプリガンはドワーフによく似た妖精で、古い遺跡に住み着く事が多い。この近くだと西の山の中にある〝クリスタル遺跡〟に住み着いている。

とても小柄だが、実は侮れない相手だ。農作物を荒らしたり、悪さをすることもある。今現在は村に直接的な被害は報告されていないが、それも時間の問題かもしれない。






「さて、じゃぁ依頼の報告しにギルドに戻るか」


「「了解」」






三人は冒険者ギルドにつくと受付で依頼の報告をし、そのままギルド長室に呼び出された。



「急な依頼だったにも関わらず依頼を受理してもらってありがとう、〝ガイダンス〟の諸君」



そう、この三人は村の冒険者ギルドの中で唯一、Cランクのパーティーである〝ガイダンス〟のメンバーである。


大剣を背負った大柄な男は〝怪力〟のスキルを持つ冒険者で名はラウネン。このパーティーのリーダーである。少々気まぐれな気質はあるが腕は確かだ。大剣を易々と振り回し、獲物を一掃するのがラウネンの戦闘スタイルだ。


杖を持ち、黒いローブに身を包む女は〝水流〟のスキルを持つ冒険者で名はグラーシア。優雅に出された紅茶を飲んでいる。グラーシアは珍しいスキル2つ持ちで、〝加速〟のスキルも持っている。パーティーの後方支援タイプである。


そして小柄な少年は〝遠見〟のスキルを持つ冒険者で名はセーリオ。真面目な性格でこのパーティーの参謀的な役割を担っている。見た目は小柄だがエルフの血を半分引いているハーフエルフで、このパーティーの最年長者だ。年齢は誰も知らない。



「別に?僕たちに適任だった依頼だったし、構わないよ」



「あぁ、それに俺らも村の周辺が気になっていたんだ。そこに〝村周辺の調査〟って依頼がきて丁度よかったぜ」



「でも、報酬は弾んでよね。他の依頼をキャンセルしてまで優先してあげたんだからっ」



現在この村の冒険者ギルドのパーティーはわずか5組しかいない。ランクごとに分けるとCランクが1組、Dランクが3組、Eランクが1組である。

つまり、Cランクパーティーのガイダンスは有事の貴重な戦力で、この村の最後の砦なのだ。しかもガイダンスはもう少しでBランクに上がる手前のパーティー、ギルド長が頼るのも無理はない。


そしてこの村、暁月の冒険者ギルドのギルド長をしているこの男は元Aランクの冒険者である。

昔、討伐依頼の途中で出くわした魔物の群れから、街を守った際に負った怪我で現役を引退したという話だ。ブランクはあるとはいえ、単独ではまだまだ実力はトップクラス。こんな辺境の村でギルド長をしている事も謎だ。

最後の砦と呼ぶに相応しいのは、このギルド長ブレイヴであると、実力を知っているガイダンスのメンバーは思っている。



「して、〝村周辺の調査〟はどうだった。何か分かったのかね」



ギルド長に聞かれ、ガイダンスのメンバーは見たまま、感じた事をそのまま報告した。

大きく分けると魔物の様子がおかしい事、魔物の行動範囲が拡大しているという事の2点だ。ガイダンスのメンバーはこの数日、野宿をしながら村周辺に異常がないかずっと張り込んでいたので魔物の行動パターンが変化していることにいち早く気がつけた。村人はまだ何も知らない。



「あ〜、あとこれは近くを通った行商人から得た情報なんだけど〜……う〜ん、報告するほどの内容でもないような……」



「なんだ、そこまで言ったのなら最後まで話せ。気になるではないか」



セーリオははそれでも少し迷ったような仕草を見せたが、一呼吸置いてからギルド長にこう答えた。








「村のはずれのミラー峡谷に〝魔女〟が住み着いたって噂を聞いたんだ」










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