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54 魔王の間へと続く廊下






一葉(かずは)ニ葉(つぐは)、リンドウとオウギ、ツバキとレンゲは魔王の間に向かって長い廊下を歩いていた。





古民家の和モダンな四角の照明が照らす、長い廊下。

フローリングの床は、天井から差す光を鈍く反射している。


壁は漆喰塗り。そしておおよそ2メートルおきに廊下を支える太い柱。

一般的にはスギやヒノキの木が使われる事が多いが、この木は何の木なんだろう。木目がとても綺麗で、木の香りが心地良い。





「廊下に使われている木は、スギかヒノキですか?」




「この木?確かこの木は……ケヤキだったかしら?」





ツバキさんが答えてくれる。





えっ、ケヤキ??

ケヤキってよく大黒柱に使われるような、あのケヤキ??

確かに固くて丈夫で、木目が綺麗な木だけれど。こんな廊下の柱1本1本がケヤキ??お値段的にも高かった気がするけど……スケールが違いすぎるわ……





「じゃあ大黒柱に使われているのは、これらのヒノキよりグレードの高いものを使っているんですね」




「……いえ、確か、大黒柱に使われている木は聖霊樹の木だったかと」




んんん???

オウギさんや?聞き間違いかな?






「せ、聖霊樹って言いました?」




「そのままの意味だ。精霊の森の王から譲り受けた貴重な木でな、あらゆる魔法も弾き返し周囲一体を守るとされている。この魔王城の中枢とも言えるべきものだな」






魔王がズルズルと引き摺られながら話す。

なんだ、そんなに息子とやらに会いたくないのか。




というか魔王城に聖霊樹???


なんかこう、普通あり得ないもの同士が同じ場所にあるような……猫とネズミが同棲しているような、水と油のような。


って言うか、ここが魔王城って事自体がいまだに理解し難いのよ。どう見ても内装は立派な和風の家屋……お屋敷のようなものだし。

魔王城ってもっとこう、配下の魔族的な者がうじゃうじゃいて、松明に照らされて石で出来た廊下なんじゃないの?


んでもってあたりからは断末魔のような声が響いて、天候は常に雷なんじゃ……




考えが古いのかしら。




それに、見た目もこう……確かに人間にはないツノが頭に生えている。


でも、大きな違いはそれくらいじゃない?服装も和風だし、袴とか着物って素敵じゃない?黒髪に黒い瞳の姿も、どこからどう見ても日本人………にしか見えない。





今時の魔王城ってこんなもんなのかしらね。




うん、そうなのかもしれない。





「魔王の間ってもっと先なんですか?」





あれから10分は歩いたような気がする。

長〜〜い廊下を抜けて、大きな階段を少しのぼって、また廊下を歩いていた。






「この廊下の突き当たりよ〜?ほら、あの扉」






レンゲさんが指差した先には、重厚感のある鉄の扉。

これまでとは雰囲気がガラッと変わる。空気も先ほどより重くなっているような……最初は気のせいかと思ったけれど、そうじゃない。

近付くにつれ、冷や汗をかいて動悸も少し早くなっている。






「あら〜……瘴気が漏れ出ちゃっているわね…… 一葉(かずは)さんとニ葉(つぐは)さん、人間にとってあまり良くないものだからこれ以上進まない方がいいかもしれないわよ……?」





扉の周囲から廊下にかけて、黒いモヤのようなものがかかっている。これが、瘴気?

確かに、肌が少しピリつくような。本能がこの先に行かない方がいいと、告げているようだった。





レンゲさんが心配そうな声で声を掛けてくれる。

でも、ここまで来て引き返すなんて出来ないわ。あとちょっとなのに。





「………いえ、何とかなりそうです。ニ葉(つぐは)、少し近くに来て」




「……?うん」





えっと、昔三葉(みつは)から借りたゲームで確かーーー

イメージ……イメージ……





「瘴気には………〝浄化〟」





回復系のスキルの派生で、使えると思ったらやはり使えた。

何でもありだな、この世界。


私とニ葉(つぐは)の周りに薄緑色の薄〜い膜を張る。その膜は周りの空気を〝浄化〟し、穏やかなものに変える。

言い方が悪いけれど、空気清浄機にでもなった気分だわ。





「いけたわ」




「おお。さすが一葉(かずは)ちゃん」





私たちにとっては、いつものやり取りだったのだけれど、レンゲさんたちは驚いたようにこっちを見ていた。






一葉(かずは)さん、あなた回復……いえ、〝聖属性〟のスキルが使えるの?」




「………〝聖属性〟か。回復より稀少なスキルだぞ?下手したら〝聖女さま〟の域に到達しているんじゃ?」




「十分あり得るわね」





って会話が繰り広げられているし。

ええ、〝聖属性〟とか〝聖女さま〟とか何よ………





「あぁ〜〜……たまたまやったら出来ちゃった、的な?」





少し言い訳が苦しい。だが、面倒ごとになるのだけは避けたい。





「たまたまでそんな芸当が出来るわけ……」




ツバキさんがそんなワケないでしょ!??といった目で見てくる。が、それをレンゲさんが横から止めた。




「………何か事情があるのよ。ね?今は聞かないわ………先を急いでいるようですし」




「……………ありがとうございます。お気遣い、痛み入ります」





ツバキさんはまだ納得がいっていない様子だったけれど、仕方ないわねと今はひいてくれた。少し心苦しいが、今は許してほしい。





「じゃ、進むわよ?あの扉の先が〝魔王の間〟なんだけれど、正直、私たちにすら今中の状況がどうなっているのか予測不可能なのよ」



「それはどういう?」





「扉の先にはリンドウの息子がいるんだけど、空間を捻じ曲げて遊んだりする事が多くて困っているの。この前は岩石地帯で火が噴き出す空間だったわ」



は?まさか火山??





「その前は氷だらけでしたね」



「その前は虫がうじゃうじゃいる森だったな」





この扉の先が、そんなデンジャラス空間だと??

そしてその空気を作り出したのが、魔王の息子ってこと??






「……覚悟してね。それじゃ、開けるわよ?」






ツバキさんの掛け声で、鉄の大きな扉が開け放たれた。










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