50 魔王城にて
「えっと?………今何と?」
ーーーーーー聞き間違いかな?自分の耳が信用出来なくて、もう一度聞き返す。
「我の名はリンドウだと言った」
「いや、その後だよ」
何だか話が噛み合わないな。
「リンドウはこの〝魔王城〟の現〝魔王〟と言ったのよ?知らなかったの?」
ーーーーーーーーどうやら聞き間違いでは、なかったようだ。
あの、マオウってあの魔王で合ってますか?魔界を統べる王的なアレですか?
だめだ、思考が追いつかない。
「……ところでニ葉さんはどこから来たの?アタシらはリンドウに抱えられて部屋に来た所からしか分からないのだけれど?」
「あ〜……っと、えっと……」
何て説明すればいいんだろう。
私も気がついたら、塔の上なんかにいてパニクっちゃって現状がいまだに整理出来ていない。それに……2人とも合流出来ていないし、何とかうまいこと説明しないと……
唸って考えていると、部屋の外の廊下から微かに足音が近づいてくるのがわかった。
1人……いや、2人か?
その足音は、私がいる部屋の前で止まる。
「……魔王様、オウギです。今、お時間よろしいでしょうか」
「オウギか。良い、入れ」
この変態男、本当に魔王なのか。
イメージしていた魔王とは随分と掛け離れているけど、人は見かけによらないっていうし、そいつもそこそこ強いのかもしれない。
いざとなったら、逃げられるかな。
相手の力量を計らないと。
襖を開けて入ってきたのは、1人の男の子とーーーーー
「……この者が、妹とやらを探しているようでして」
オウギについてきた一葉は、オウギの横からひょこっと顔を出す。
「……おい、くれぐれも失礼な態度は取るなよ」
「わかってるって〜」
その、声はーーーーーー
「あれ?一葉ちゃん?!」
「あっ!ニ葉!やっと会えた〜〜………って、何、この状況?」
ベットの上には4人。
ニ葉と、左右に美女。そしておそらく魔王様。やたらとニ葉に近い。
え〜っと……?
一葉は咄嗟に考える。
①何かいかがわしい事をしていた。
その場合私とオウギはお邪魔なので立ち去る。ニ葉ももう大人だし、私がいちいち口を挟む事ではない。
もしくは合意なく手を出そうとしていたのであれば、平手打ちをかましてここから逃げる。
後者の場合、許さない。罪。
②何かの事情で倒れたニ葉を介抱していた。
その場合は姉としてお礼を言わねばなるまい。
だかしかし、もしくは介抱した事をいいことにニ葉に言い寄っていた。襲いかかっていたとする。
これも、後者なら罪。
③飛ばされた先がベッドの上だった。
美女2人と魔王が良い感じだったところに、偶然ニ葉が迷い込んでしまった。この場合私とニ葉、オウギは邪魔なので退散するべし。
しかし、状況を楽しんだ魔王がニ葉も交えて如何わしいことをしようとしていた。
これももちろん、後者なら罪。
「………どれかしら?」
どれだったとしても、後者なら死すべし。
愛すべき妹に手を出されて、怒らない姉なんていないのよ。
「………おい、お前の姉、背景にドス黒いオーラが出ているような気がするんだが。気のせいか?」
「一葉ちゃんが私のために怒ってくれているっ……!尊い……!」
「おい、話聞けよ」
「あらら」
「まぁまぁ」
「……?」
その後、その様子を傍らで見ていたツバキとレンゲ、そしてオウギがのちに仲裁に入ってくれたとさ。
「それではまとめるわよ?まずリンドウが塔でお昼寝をしていたら、突然ニ葉さんが降ってきたと。起こして挨拶しようとして、バトラーに教わった人間への挨拶でビンタされたのね。……無いわ弟ながら」
「それで?ニ葉さんを抱えて塔から飛び降りたというの?……だめよ。リンドウの基準でものごとを判断しちゃ。人間はか弱い者が多いと聞きます。いきなり抱えられて急降下なんてしたら、気絶しちゃうに決まっているでしょう?何を考えているのよ、もう」
「それでベッドに運び、介抱していたとそういう事ですか?介抱という名のセクハラではなく……?」
一葉は魔王に冷たいゴミを見るかのような視線を送り、どこかにか隠し持っていたナイフをチラチラとチラつかせる。
「おいおいおいおい。オウギよ、そう煽るような事を言うでない!俺の首が物理的に飛ぶ!!」
「だいたいこんな感じだけど、リンドウは本当にニ葉さんを運んできただけだよ?あとはアタシらが付きっきりだったし。変なことはしてないよ?たぶん」
「そうね。変なことはしていないわよ?おそらく」
〝たぶん〟〝おそらく〟
ってつくのは何でなのかしら?多少なら如何わしい行為をしようとしていたと、そういう事なのかしら???
ーーーーーーまぁ、今は話が進まなくなってしまうから、一旦聞き逃してあげるけど。
「……まぁ、いいわ。それで?私たちは暁月村の近くの湖から、引きずり込まれて気がついたらここにいたんです。もう1人女の子が近くにいるはずなんですが、知りませんか?………私たちの妹なんです」
「俺は知らんな。オウギは知っているか?」
「いえ、知りません」
「アタシらも知らないよ?………な?」
「えぇ、存じ上げませんわ。………しかし、湖に引きずり込まれたと仰っていましたよね?」
「はい」
「その時に、何か兆しのようなもの……例えば〝鈴の音〟なんて聞いていませんよね?」
「「「!!!」」」
湖に引きずり込まれる前、確かに、鈴の音が聞こえた。
「………確かに聞こえました。それと〝見つけた〟と、声も」
「それはもしや?」
「ーーーーーーそうならば、その三葉さんという方はここにいるかも……しれません」
一呼吸おいて、レンゲさんが口を開く。
「どっ、どこですか!!」
三葉が、ここにいる!??
やっと、会える!??
「……魔王の間です」




