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サクラ三姉妹の楽しい学校  作者: 千間 美胤
出会いと旅立ち編
49/64

45 焦りと涙、そして湖へ





冒険者ギルド、ギルド長室内にて。

一葉(かずは)はスマホを片手に立ち尽くしていた。ひゅっと飲み込まれた空気はうまく体に取り込めず、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように浅い息遣い。


変な汗をかいてしまい手に握るスマホが、いきなり石を持っているかのようにずっしりと重く感じる。




ローも異変を感じてか一葉(かずは)の肩に手を乗せ、一葉(かずは)へ話しかける。






一葉(かずは)殿……?どうしたんじゃ?」



「……そこにローもいるんですか?なら、ちょうど良い。ローにも至急、湖に来るよう伝えてください。俺はニ葉(つぐは)さんやミストにも連絡を入れます……詳しくは集合してから話します。すみません、一方的になってしまって」






そう用件だけ伝えられると、電話を切られた。


ハヤテくんもいつもと違って、焦っているかのような声だった。いつもならあんなに饒舌に喋らないのに……





えっ?そもそも消えたって、どういう事?





その言葉の意味も、それ以上は考えたくないと脳が考える事を停止してしまったかのように理解できない。

理解したくない。


それ以上考えてしまったら、現実に打ちのめされてしまうような、そんな気がしたから。





私は切られたスマホを耳元から腰の位置へだらんと下ろすと、ブレる視界の中前へと歩き出した。



それでも〝行かなきゃ〟と湖の正確な位置も分からないまま歩き出す。三葉(みつは)の元に行かなきゃと、震える足を何とか前へ、前へ………






あれ?今までどうやって地に足をつけていたんだっけ?






そして、ようやく倒れ込むようにして掴んだドアノブ。しかし足がもつれ、床に両膝をついて倒れ込む。



力も入らないその手。



それでもドアノブへと伸ばしたその手を、ギルド長さんが掴んで止めた。





「おい、待て。明らかに様子がおかしいじゃないか。どうした、何があった」





ブレイヴは一葉(かずは)を落ち着かせるように、ゆっくりとした口調で話す。ブレイヴは握った手首から悟られないように、脈を測ると脈拍が弱いのが分かった。

決して寒いわけではないこの季節に、手も冷えきっているではないか。一体何がどうなったら一瞬で我を忘れるような状況に追い込まれるんだ。


とにかくこのまま1人で行かせるわけにはいかない。


それはローも感じたようで、チラッと横目でみると、大きく頷いたのが見えた。





「……行かなきゃ」





蚊の鳴くような声だった。

耳を澄まして聞いていなければ、聞き逃してしまうかのような、細々とした声。


その声からも、想像を上回るような事態なのだと察しがつく。何より、今日も昨日も、何でもはっきりと喋っていた彼女がこんなに取り乱すなんて。


貴族にだって物怖じせず、自分を貫き通していた昨日の面影はどこへいってしまったんだ。






「……どこへ?」






ブレイヴは一葉(かずは)へ、再度ゆっくりとした口調で尋ねる。


ゆっくりと、落ち着かせるように。






「……湖、に」



「……そこで何があった、ゆっくりでいい。話せ」






息遣いは荒いが、何とか喉の奥から絞り出して、言葉を出そうとする一葉(かずは)





「…… 三葉(みつは)がっ……湖、湖に飲み込まれて消えたって……」





そこまで口に出すと、堪えていた涙が堰を切ったように流れ出す。

ポタポタ、ポタポタ、、、


溢れる涙は止まらない。


必死に止めようと涙を拭うが、それでも絶えず涙は溢れ出す。






どうしよう






どうしよう。


三葉(みつは)が、三葉(みつは)に今すぐ会いたいっっっ。







「…… 三葉(みつは)さん、とは昨晩いっしょにいた妹さんか 」



「…………はい゛っ゛」






短い言葉で、何とか返す。

声はガラガラだったがそれでもはっきりと、そう答える。







「分かった。私もいっしょに行こう。そこの湖なら馬を使った方が早い」








ブレイヴは耳のカフスの通信機、魔道具で副ギルド長ビーンに連絡をかける。





「……ビーンか。今すぐ馬を2頭……いや、3頭用意できるか?……………あぁ、そうだ。ギルド前に、一番速いのを頼む」





「ロー、一葉(かずは)さんを馬に乗せて走れるか?俺はもう一頭連れて走る」



「……分かった。ミストに連絡をとって村の門前で落ち合おう」





ローは慣れないスマホを操作しながらミストとニ葉(つぐは)に落ち合う場所を伝えるため、電話をかける。





「……大丈夫だ。きっとすぐ見つかる」



「……」





こういう時、女の子の扱いに慣れていないブレイヴは気の利いた言葉1つ言えない自分を悔やんだが、それでも少しでも力になりたいとそう思った。



ブレイヴは一葉(かずは)を安心させるように、一葉(かずは)の両手を握り、指先を温める。ブレイヴは一葉(かずは)が落ち着くまでそうしていた。














それからようやく何とか落ち着きを取り戻した一葉(かずは)をローが馬に乗せ、急いで村の入り口を目指す。

門前にはミストと、ニ葉(つぐは)が立っており、やはりこちらも落ち着かない様子だった。そりゃ当然だろう。身内がいなくなったと聞かされたら、誰だって焦るし正常な判断が取れなくなってしまうだろう。




「ミストや、ニ葉(つぐは)殿を乗せて走れるか?」



「任せてちょうだい」




ミストはブレイヴから馬を受け取ると先に乗馬し、ニ葉(つぐは)の手を取り身体を引っ張り自分の前に乗せる。




ニ葉(つぐは)ちゃん、行くよ?」




ミストがニ葉(つぐは)に確認をとる。




「……はいっ!お願いしますっ……!」




かなり辛いはずなのにそれでも前を向く意思の籠った眼は、やはり姉妹だからなのかよく似ているなと思ったブレイヴ、ロー、ミストであった。






「……………行くぞ」






ブレイヴの先導で、一同は湖を目指して走り始めた。







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