44 話し合いは続く、そして緊急の知らせ
それから話し合いはまだ続いた。
「…………あとでちゃんと休むから、少しだけ質問に答えてくれ。まず、ロー、貴様は何の用で村へ来た」
ブレイヴはローを疑うような目で、睨みをきかせている。
「おやおや、いきなりじゃな。今回はいつもの〝配達任務〟じゃよ。この暁月村にも届け物があってな?ついでじゃから、この村でも集荷できる荷物があれば持っていくぞい?」
それに対してローは、少しおどけるような感じでそう返す。
「相変わらずか。いくつかそういった依頼があったはずだ。あとで掲示板を見てみろ。………それと他の村や王都の情勢はどうだ?何か大きな動きはないか?」
少しでも情報が欲しい。と知っている事を話すよう促す。
「ふむ、そうじゃのう………王都に近付くにつれて治安は悪さを増しているように感じるのぅ。出来れば今は王都には近付きたくないのが本音じゃ。それと………これは知っているかどうか分からんが、ある組織が動き出したようじゃ」
〝ある組織?〟
「………それは〝略奪者〟か?」
ブレイヴは神妙な面持ちでそう尋ねる。
「そのまさかじゃ。しかしさすが耳が早いのぅ。既に情報を掴んどったか」
「いや、俺も知ったのは昨晩…… 一葉さん、昨日の奴らを覚えていますよね?」
なんの話やらちんぷんかんな私に、ギルド長は話を振ってきた。
「あぁ〝変態貴族〟の事ですか?あの人らがどうかしたんですか?」
昨晩の事だ、よく覚えている。
「………あいつらが所持していた剣の鞘に、〝略奪者〟の紋章とよく似た装飾が施されていたんだ。逆さ十字と、五芒星を逆さにした逆五芒星のマークの、な」
それから、私にも昨日の事で無関係ではないと、ポツポツとその組織の実態を話してくれた。
まず〝略奪者〟とは、各国で暗躍している闇組織の名だそうだ。
盗みはもちろんのこと、平気で人を殺せる連中の集まりだという。禁止薬物や武器の密輸を行なっているだとか、様々な事件に関与していると噂されているそうだ。
しかしその組織の実態は不明な点が多く、各国でも手を焼いていると。各国で暗躍している闇組織の名だそうだ。
とにかくヤバい組織なのはローさんとギルド長さんの話から汲み取れた。
盗みはもちろんのこと、平気で人を殺せる連中の集まりだというではないか。
禁止薬物や武器の密輸を行なっているだとか、様々な事件に関与していると噂されていると。しかしその組織の実態は不明な点が多く、各国でも手を焼いている。
昨日の貴族が、そんなヤバい連中と繋がっていた……?
「………その変態貴族とやらは今どうしておるのじゃ?」
「色々吐かせたあと、そのままギルドの地下牢に繋いでいる。まだ聞き出せることがあるやもしれんからな」
「そうか。拷問なら手伝うぞぃ?」
剣の鞘に手をかけてそう微笑むが、ローさんの微笑みはいつもと違って愛嬌のあるものではなく、Aランク冒険者と言って間違いないオーラを秘めているような表情だった。
私は、背筋がゾクっとするのを感じた。
「………そういうの好きだよな、お前。しかし心配には及ばない。うちの優秀な部下が、しっかりと聞き出してくれるはずだ」
「部下というと、ビーン副ギルド長の事かぇ?なら、間違いないのぅ」
「あぁ。珍しく手こずっているようだが、それも時間の問題だろう」
ギルド長がそう言うと、ローさんの殺気のようなものは消えた。今のは何だったんだ?
しかし、ここまで聞いといて今更なのだが、
「………あのさ、無関係ではないのは分かったけど、そんな重要な話私にしちゃっていいの?いや、ほんと今更なんだけど……」
「………これも噂に過ぎないんだが、〝略奪者〟は〝癒やし〟のスキルを持つものを攫っているという情報もあるんだ。そう、〝一葉〟のような、ね。用心していた事に越した事はない」
「………そう。気をつけなくちゃいけない対象が増えるのね………〝貴族〟に〝教会〟に〝略奪者〟か。一気にきな臭くなってきたわね」
それから3人は黙り、部屋の空気はより重いような雰囲気になった。
「………関係あるかどうかは分からないけれど、北の山から魔物たちが住処を追われているようね」
それからフレイとフレイママ、そしてコボルドの話を要点を絞って話す。だいぶ端折ったが、重要なところは伝わったようだった。その話を聞いた2人は目をまん丸くして、驚いたような表情をする。
「つまるところ、 一葉殿は魔物と意思疎通ができるというわけか?にわかには信じ難いのぅ……」
「これも加護のおかげなんですがね。〝言語理解〟といいます」
「それに〝加護〟持ちときたか………昨日から驚かされてばかりだよ」
また間が空いたが、ブレイヴが顔を上げて語り出す。
「これで色々と合点がいった。近頃魔物が活発化しているという事実、大規模な住処の移動………それらは全て〝北〟で起きている事と関係しているようだな」
「………そのようじゃのぅ………はぁ、どうなっとるんじゃ近頃は」
「私も、フレイたちに今度改めて聞いてみます。他にも何か、北で起こっていることについて知っているかもしれませんし」
「………もし、可能であれば私もついて行って構わないだろうか。先ほどの話によると、その加護は周囲にいる人間にも効果が反映されるようだし、実際に私も聞いてみたいのだが」
「ふむ、そういう話ならワシも気になるのぅ……どれ、滞在期間を伸ばすのもアリかの?一箇所に留まらなければワシら的にも問題ないし?」
「えぇ……私の独断では決められませんよ。いっしょに住んでいる以上、妹たちにも確認を取らなきゃですし……」
「ふむ、ではその話は追々じゃの?どれ、ひとまず話はこれくらいにして受付へ戻ろうかの?もう発行手続きも終わっとるじゃろ」
時間をみると、随分と時間が経ったようだった。
お昼はとっくに過ぎているし、お腹も空いてきた。
「そうですね、私も一度宿に戻ろうかな?」
「もうこんな時間か。長々と引き留めて悪かった。お詫びと貴重な情報、そして貴重なスキルを使ってくれた礼に昼でも奢ろうか?」
「わ〜ぃ。ただ飯じゃ!」
ローさんが便乗して話に乗ってくる。
「………誰が貴様にまで奢ると言った」
「人の財布で食う飯は格別じゃからのぅ〜」
「………話を聞かんのも相変わらずか。これでAランク冒険者などと、どうなっているんだか」
そうしてワーワーと騒いでいると、ポケットに入れていたスマホが鳴った。
どうやら電話、着信のようだ。
相手は………あら?ハヤテくん?
三葉といっしょに商業ギルドへ登録しに行ったはずだけど、どうしたのかしら?無事終わったという報告?
それならメールかチャットでもいいような気がするけど……何かあったのかしら?
緊急かもしれないからと、私はそのままスマホを操作して電話に出た。
「はい、一葉です。どうしたの?ハヤテくん。三葉といっしょなんじゃ………」
「………………俺がついていながら申し訳ありません。三葉が、湖に飲み込まれて消えたんです」
「………………えっ、どういう事?」
私は嫌な予感と全身の血の気が引くのを感じ、その場に立ち尽くす事しかできなかった。




