38 裏路地と商業ギルド登録
Cランクパーティー〝ガイダンス〟の3人と離れた三葉とハヤテは、そのまま村の中央を突っ切って狭い路地裏へと入った。
表の通りとは打って変わって、人気のない道だった。狭いし、人一人すれ違うのがやっとといった狭さの道。
こんな道を通るの?!
何とかついていったが歩くスピードが弱まり、ハヤテが急に立ち止まったから三葉も慌てて止まる。
が、間に合わず、ハヤテの背中に思いっきりぶつかってしまった三葉。
「〜〜〜っ、もう、いきなりどうしたんだよハヤテっ!」
「…………あ、ごめん。鼻、ぶつけた?…………見せて」
ハヤテはそう言うと少し屈んで、三葉の顔を覗き込んできた。
頬に手を当てられ、じっと三葉の顔をみる。それでも路地が暗くてよく見えないのか、視力が単に悪いのか、被せていた帽子を取り顔を近付けてくるハヤテ。
って顔近っっっ!!!
思わず後退り、三葉は壁を背にハヤテと向き合っていた。
これじゃまるで……壁ド……
「…………ちょっと赤くなってる?あ〜……目、腫れちゃってるじゃん……」
鼻と鼻がくっつくくらいまでハヤテは三葉に近付くと、そのままキ…………
「って!それ以上は許しませんからっっっっ!!!キっ…………キスしようだなんてっっっ!!!」
路地裏に飛び込んできたのは何と、ニ葉。顔を真っ赤にさせて、わなわなと僕らを指差している。それ以上って……?今、僕ら何をしようとしていたんだ……?
「あらやだ〜〜ハヤテったら、見かけによらず手出すのが早いんだから〜〜」
ニ葉姉ちゃんの後ろには、ミストさんがニヤニヤして立っていた。えっと、何でここにミストさんまで?一体どんな状況?
「な、何でここにニ葉姉ちゃんとミストさんが……?」
いきなりの2人の登場に動揺していると、ミストさんが説明してくれた。
「一葉ちゃんに頼まれてね。ニ葉ちゃんが心配だからって、様子を見てくるように言われたらしいのよ。アタシはたまたま朝の散歩の途中だったんだけど?ニ葉ちゃんとたまたま会ったから、ノリでついてきたんだけど………」
「そうよっ!!人が心配してあとをつけてきたってのにっ!!」
「まぁまぁ、落ち着きなさいなニ葉ちゃん。で、ハヤテ………ってあらやだ(笑)」
僕はミストさんのその反応が気になってハヤテを見上げると、信じられないくらい顔を真っ赤にしてフリーズしているではないか。
「………ハヤテ?」
「………俺、今なにしようと………」
「………んもう、朝から盛ってんじゃないわよ?それじゃ、行きましょうかニ葉ちゃん」
「え!?でも、私はっ!!」
「いいからいいから。あなたたちだって、もうとっくに成人しているんでしょ?これ以上の介入は野暮ってものよ?」
ミストさんはそう言うとニ葉姉ちゃんを肩によいしょと担ぎ、足早に去っていった。
「は〜〜な〜〜せ〜〜」
とニ葉姉ちゃんの声が聞こえてきたが、今はそれどころではない。どうしよう、この居た堪れない雰囲気。
ハヤテはハヤテであれから一歩も動かないし、僕は僕でびっくりしたままその場から動けなかった。
えっと、ここからどうしたらいいの……?
僕たちはそのまま一歩も動けなかった。
しばらく経ってお互いに落ち着いてきた頃、ハヤテの方から、
「…………さっきはごめん。俺…………」
と言葉を詰まらせながら謝ってきた。僕だってそんなに改まって謝られると返す言葉に迷う。
「……いや、びっくりしたけど、さ。姉ちゃんが大袈裟なだけだろ?気にすんなって」
「……あぁ。ありがとう。それじゃ、……商業ギルドに行こうか」
それからもお互いに顔の火照りはおさまらないまま、商業ギルドに向けて歩いていった。示し合わせたわけじゃないけど、自然と僕とハヤテは手を繋いで歩いていた。
商業ギルドは路地を抜けたその先に建っていた。
大通りを通っても行けるらしいが、今の路地を抜けた方が早いらしい。
荷車など大きな荷物がある場合はその道は使えないが、身一つなら最短のルートだという。
村の建物と同様に西洋風の建物で、看板には〝商業ギルド〟と書かれている。
階段を数段上がると、ハヤテは扉を開けて中へ入る。僕もそれをついて行く。
ギルドの中はまだ閑散としていて、2・3人しかいなかった。
ハヤテと共に受付とみられるカウンターへ行くと、そこに座っていた若い褐色肌の女性職員へ声を掛ける。
目の下には大きな隈ができていて、とても眠そうにしていた。
「………マロンさんお久しぶりです。キースです」
「あら〜?キースくん村に戻っていたのね。それにしても早朝から商業ギルドに来る何て珍しいじゃない。今日は冒険者ギルドの方じゃなくていいの?」
「………今日は付き添いで。この子の商業ギルドへの登録と、身分証の発行をお願いできます?」
「へぇ〜。キースくんが世話を焼く何て珍しくじゃない。もしかして付き合っているの?」
ローやミストにもこの前言われたな。と思い出すハヤテ。
「は?……何でいきなりそうなるのさ」
「え?いや、だってそれ……」
マロンさんは僕とハヤテの間を指さす。すると、手を繋ぎっぱなしだったことにようやく気が付いた。
「「っっっっ!??」」
慌てて2人して手を離すが、時すでに遅いような気もする。
「………ま?個人の事で詮索はしないけど?それじゃ、まずお名前を教えてくれるかしら?」
「あっ、はい。三葉です」
「三葉さんね。それじゃこの木のプレートにちょっとだけ血をつけてくれる?はい、コレ針ね」
「えっ……血、ですか?」
「ほんのちょっとでいいのよ?登録するだけだし」
僕は先の尖ったもの……特に〝針〟が特に苦手だ。
小さい頃に病院で予防接種をした時、倒れたのをきっかけに〝針〟がダメになってしまった。物が二重三重に見えて足元が覚束なくなり、過呼吸で倒れてしまった記憶はいまだに鮮明に覚えている。〝泣くは〟〝針がダメ〟だわなんて……カッコ悪い。
しかもこの針、めっちゃ太い!何なら千枚通しくらい太いしデカいし、普通に怖い。
皆んなこんな太い針で刺してんの!?と血の気が引いた。
どうしよう……と内心慌てる。
ここまで来てやっぱり無理なんです!何て言えないし……ついてきてくれたハヤテにも悪いし……
「…………マロンさん、刺すのってその針じゃなくても大丈夫?」
「ん?ええ。プレートに血がつけられれば何でもOKよ?」
「そう……… 三葉、ちょっとだけ目を閉じていてくれる?………大丈夫。すぐ済むから」
「う、うん?」
ハヤテに言われた通り、目を閉じる。するとハヤテはそっと三葉の手をとると、指に触れた。
「………少しだけチクっとするけど、我慢してね」
「う、うん」
ハヤテは鞄から裁縫道具のセットを取り出すと、一番細い針で三葉の指にそっと針を刺した。
「うっ……」
少しチクっとして思わず目を開けそうになったが、ハヤテの手がそれを遮った。
「………だめ。もうちょっと我慢して」
「うん」
ハヤテはプレートを受け取ると、すかさず血をプレートにつけて登録を終わらせた。
鞄から消毒液とポケットティッシュを取り出し、ティッシュに消毒液を吹きかけそっと指を拭く。更にポケットから絆創膏まで取り出すと、その指に絆創膏を貼り付ける。
「……三葉、目開けていいよ」
三葉が目を開けると、商業ギルドへの登録と身分証の発行は既に終わっていた。しかも指には絆創膏まで貼られているし……。
もしかしなくても、針がダメな事、バレてた?
「ハヤ……キース、もしかして分かって………」
「………今日のお詫び。これで許して」
ハヤテが言葉を被せてきた。
「あ……ありがとう」
「……どういたしまして」
そんな2人のやり取りを、マロンとギルド内にいた数人の村人は目撃していた。
甘酸っぺぇな〜
その場にいた当事者たち以外は全員、そう思ったのだった。




