1 再会
「ーーーちゃん!」
「ーーでーーに…」
「それよーーのはーこ?」
永遠の眠りについたはずの耳元から、なんとも聞き慣れた声が聞こえてきた。私の大切な、大好きな妹達の、声?
私は直感で、〝起きなきゃ!〟と悟った。
一度閉じ切ったはずの重たい瞼をゆっくりと開けると、そこには、
「ニ葉に 三葉?」
何とか声を絞り出すと
「一葉ちゃん!?」
「一葉姉ちゃん!」
驚きに満ちた表情で涙を浮かべている二人の姿がそこにはあった。
「私、病院のベッドで死んだんじゃ…?」
何とか妹達二人に支えてもらって起き上がると、そこは見渡す限りの雲海の上だった。周りには何もなく、ただただ広い雲海がそこにあるだけだ。見上げると空は夕焼け色をベースに、様々な色が混ざり合った不思議な色合いをしていた。
そしてどういう現象なのか、雲の上に私たちは立っていた。え、っと、これ、物理的な法則無視してません?いきなり落ちたりしないよね、これ。それに、
「病院で着ていた…服、ね」
私は、私が死ぬ前に着ていたパジャマの格好のままだったのだ。それに右手首には氏名、生年月日、性別、患者番号、バーコードが記載されたリストバンドも装着されたままだった。全身の筋肉も落ち、だいぶ痩せ細ってしまっている。
そしてそのまま顔をあげ、妹達の格好を見ると自分の時以上に驚いてしまった。
「あ、貴女たち……」
思わず口に手を当て、
ニ葉はスーツを着ていたが、その腹部や胸には何ヶ所も穴が開いており、その穴の周りには血のようなものが付着していた。更によく見ると腕には打撲痕のようなもの、全身が傷だらけだったのだ。
三葉は上下ともに部屋着のラフな格好だったが、どこか埃っぽく、頭には大きな傷痕があった。それに少し、身長も伸びて大人びているような気がした。
ズキンと胸が締め付けられるように、私はショックを受けた。二人とも全身ボロボロで、目元には大きな隈がありどこか疲弊感を感じる。私が死んだ後に一体何があったの?私は先に病院で死んじゃって、二人もそのあとに死んじゃったって事?えっ、どうして?
だからそんなにボロボロなの?
私は、二人のお姉ちゃんなのに、二人を守ることが出来なかったってことでしょ?
大切な大切な二人を、私は、
〝守れなかった〟
そう、強く意識した途端、胸の中心部から温かい、でも強い、白い光が溢れ出てきた。
「ちょっ、えっ!?」
その光は一瞬にして目の前を覆い尽くし、そして、やがて収束するかのように消えていく。
何とも不思議な現象だった。
そして再び二人を見上げると、何と、
ニ葉のスーツは新品のようになっていて、血のようなものもきれいさっぱり消えていた。腕の打撲痕も、全身の切り傷も全て消えていたのだ。
三葉もニ葉と同様に新品のように服がきれいになっていた。頭にあった痛々しい傷痕がもきれいに消えていた。
それに二人とも、髪艶も良くなって肌もスベスベのツルンツルンになっているような…?目の隈も消えているし一体どういう事?
かくいう私も、痩せ細った身体は健康的だった頃のように筋肉が戻っていた。全身も力がみなぎるように溢れてくる。
〝〝〝これは、夢???〟〟〟
三姉妹は、この時全く同じ事を考えていた。
私達は死んで、その後奇跡の再会を果たした。
〝〝〝本当に?〟〟〟
どこからが現実で、どこかが夢だったのか判断する思考回路がオーバーヒートしてしまったようだ。
「……えっと、二人は、私は死んだ後に、その……死んでしまったの?」
遠慮がちに、それでも恐る恐る聞くと、二人とも小さく頷き、話してくれた。
ニ葉は就職した会社で上司によるパワハラで心身共に疲弊していたとのこと。それから会社であったことを1から10まで聞いた。そして帰宅途中、何者かに刺されて命を落としたということも。
可愛い可愛いニ葉を刺すなんて、その犯人、許せないっ!
会社の上司とやらも、よくも可愛がってくれたわね。そんな状況で、相談にも乗れなかっただなんて、とても悔しい。
三葉は私達二人が死んでしまった後、心を病んでしまったらしい。
あんなに大好きだった〝推し〟の力を持ってしても持ち直すことが出来なかったという。部屋に閉じこもり、随分と辛い思いをさせてしまったようだ。食事も喉が通らず、だいぶ痩せてしまったらしい。
それから久々に出掛けた先で大地震がおき、倒れてきたブロック塀から幼い兄妹を庇って下敷きになった。そこからの記憶はないそうだ。
「二人とも、本当にごめんなさい。まさか私が死んだ後にそんな事になっていただなんて」
「…… 一葉ちゃんが亡くなったあと、父さんも母さんもずいぶんやつれちゃってね、私はそれを誤魔化すかのようにガムシャラに働いたわ。まぁ、入る会社は間違えちゃったかもね。あの時、一葉ちゃんがいてくれたらたくさん相談したかったなぁ〜」
そう言ってニ葉は笑った。
「……僕は一葉姉ちゃんとニ葉姉ちゃんが逝っちゃったあと、すごく悲しかったよ。部屋に引きこもって、父さんも母さんにも心配をかけちゃった。まぁ、そのあとまさか大地震で死ぬなんて夢にも思わなかったけどね」
そう言って三葉も笑った。
何はともあれ、再びこうして三姉妹が揃った。
もう、それだけでいいかと思えたんだ。例えば今、この時間が夢だったとしてもね。
「……で、そろそろ出てきてもいいのかしら?」
突如そんな女性?の声がどこからか聞こえたかと思うと、宙に浮かぶ女性が目の前に現れた。
「私は〝神〟ですわ」
ーーーとても胡散臭い、自らを〝神〟と名乗っていた