33 教会での登録とヘビースモーカー
「で。あれが教会?ミストさん」
「えぇ、そうよ。暁月村の教会よ……」
暁月村の教会は赤レンガ造りで、レンガを使用した重厚感がある塀に囲まれている。数段ある階段も、レンガが敷き詰められていて、花壇の周りと舗装とが一体化された庭でとても美しい。
少し苔が生えていて、木の蔦も外壁に絡まっている。風情と趣きがある風体になっているのが特徴だろう。
全く手入れされていないという感じではないのだが、何処か少し廃墟ふうに見えてしまうのは古い教会だからなのか……
ニ葉は単純に、出そうだなと思った。
「いい?ここの教会を管理しているオヤジは色んな面に適当なところが美点だけれど、詮索好きで面倒な一面もあるから……余計な事は言わない!を徹底した方が身のためよ……適当に受け流しなさい」
「……分かったわ」
重厚感がある重い扉を開けると、アンティーク調の長椅子が何列か並んでいる。正面には大きなステンドグラスがあり、教会の中にあたたかい光を入れてくれている。よく見ると、天井にも丸いステンドグラスがあるではないか。その天井から差す光を浴びている女神様の像はとても神秘的で、思わず膝をついて祈りたくなるような風格をお持ちだった。
が、何だか変な臭いがするような……気のせい?
「おや?珍しいお客人のようだね」
何処からか男性の声が聞こえたが、その声の主の姿はなぜか見えない。
教会の中は声が反芻していて、あちらこちらから聞こえてくるように感じる。
「…………どうせまた…………」
ミストさんは中央の通路をずかずかと進んでいくと、一番前の長椅子の前で立ち止まった。
私もその後をついていくと、ミストさんの目線の先には長椅子に寝転んでいる男性が1人いた。しかもその手にはなんと、タバコが……
っていうかこの世界にも、タバコって存在したのね……
仮にもこの人、聖職者なんでしょ?喫煙なんて堂々としちゃって……
っか、すんごいこの辺りがタバコ臭いわ。空気が淀んでいるような気がするし……煙たい。
私はタバコの臭いが苦手で、思わず鼻と口を手で塞いだ。今は比較的何とも無いのだが、幼い頃は喘息気味で両親には手を焼かせてしまった。
「………受動喫煙って言葉、知ってます?」
「………?何だね、それは」
思わず初対面でメンチを切って睨みつけてしまったが、ここまで言ったら最後まで言わせていただこうじゃないの。
「あなたは今タバコを吸っていますけど、そのタバコの煙を吸ってしまっている周囲の人も同じように喫煙している状態になってるって事ですよ。……まさか、タバコの有害性について知らないとは言わせませんよ?」
「えっ、そうなの?健康に良いって友人から勧められたんだけど………」
そう言って椅子の下を見たので、同じように椅子の下を覗き込むとそこには木箱に入った大量のタバコが……
な、なにこの量。しかもよく見ると床にたくさんの吸い殻が落ちているし……1日に何本吸ってんだこのオッサン!!!
このオッサン、もしかしてヤバい人?
それにタバコが健康に良いって、………んなワケあるかっっっ!!!人体に有害でしかねぇよ!!!
「……こんな話を知っていますか?タバコを1本吸うと、寿命が11分縮まるらしいんです。……寿命を縮めてまで、タバコを吸いたいですか?」
そう言い放った瞬間、オッサンは持っていたタバコを凝視し、灰皿にタバコを押し付け消した。そう、それでいいんだよ。
タバコ1本を対価に命を削る必要はないって。
「………今すぐその友人さんとは縁を切る事を勧めます」
「………アタシもそうした方がいいと思うわ………〝アーク〟」
そのあとすぐ、教会の扉と窓を全開にして換気しました。
灰皿に残っていたタバコも、念の為水をかけて始末しておきました。火の不始末で火災……とか笑えないからね。
残った大量のタバコは……ここまで言ったんだから、良い大人なら自己判断でどうすればいいのか分かるよね?
で?
このヘビースモーカーこと、アークさんがなんとここの教会の管理人らしい。ミストさんとはちょっとした知り合いのようだったが、ミストさんはアークさんのことが苦手のようだ。というか、毛嫌いしてる?
ま、私もタバコ臭い人はホント無理だけど……服にまで染み付いていそうで嫌悪感が拭えなかった。
「で、そこの可愛いお嬢さんは一体何しに教会へ?……見たところ、この村の村人じゃないみたいだけど?」
「私はニ葉といいます。縁あってミストさんとこの暁月村へやってきました……スキルを持っていなかったので、スキルを授かりにきました」
「そうよ。あと、身分証の発行もしてちょうだい」
「………へぇ、スキルと身分証の発行ねぇ………ま、いいけどさ。スキルだったらそこの石板に触れて祈りな。神への祈りが通じればおのずとスキルは授かれるだろうさ。俺は身分証の方を登録してきてやるから、あとはミストが教えてやってくれ」
「……えらく今日は気前がいいじゃない」
「……今日は人様の事情に首を突っ込まない方が〝吉〟な日なんだよ。それに、色々教えてくれた礼……とでも思ってくれ。俺の気が変わらないうちにさっさと済ましちまうんだな」
そう言い残すと、アークさんは奥の部屋に引っ込んでしまった。
「………はぁ………いつもこれなんだから………でも今日は〝アタリの日〟だったようね。ラッキーだったわ」
「ミストさん、さっきもアークさん〝吉〟とか言ってましたけど……〝アタリの日〟って何なんですか?」
イマイチ話が読めない私は、ミストさんに思わず聞いてみる。
「あぁ、アークはね〝占い〟のスキルを持っているのよ……って言ってもその日の〝夢〟を見るだけらしいんだけど。こうすると〝吉〟で、こうなると〝凶〟みたいに夢でその日の行動を決めているから、いつも行動がチグハグというかね……ま、そんな話はさておき、今のうちに〝スキル〟を修得しちゃいましょう?」
私は頷き、石板の前にいくと石板にそっと触れ、目を閉じる。
フワッとした空気に包まれ、そっと目を開けると何も書いていなかった石板には文字が刻まれていた。
「……えっと、これって……?」
「そこに書かれているスキルが、ニ葉ちゃんのスキルってことよ。詳細も書かれているはずだから読んでおきなさいね。まもなくすると石板の文字は自然と消えてしまうから」
「……………これが〝スキル〟?」
 




