31 間を取り持つのも何だかんだ疲れる
食事も食べ終え、落ち着いたところでいよいよ話を切り出すしかなくなった。
ハヤテくんもあれから黙りだし、ローさんもミストさんもチラチラと様子をうかがっているしで………胃が……キリキリ……
あぁ、焦ったい………
ここは女子校か何かかっ!
そんな状況を察してか、三葉が真正面に座っているハヤテくんに話しかけた。
「んで、ローさんからある程度事情は聞いたんだけど……」
「……あぁ、あの薄らトンカチさんたちの事、ね。いや、もうどうでもいいかな……話すのも疲れるっていうか、さ?」
う、薄らトンカチって……ハヤテくんもずいぶんと罵るわねぇ〜……
ローさんとミストさんなんて、生まれたての子鹿のようにビクビク震えているし。なんだか少しかわいそうに思えてきたわ。
「……まだ怒っているわ……どうしましょ……」
「ハヤテや?そろそろ機嫌を直してくれんかの……?ワシら、とっても反省しとるんじゃよ……」
ハヤテくんの機嫌を窺うように、ゆっくりとしたトーンでローさんは話しかける。が、返ってきたのは意外な言葉だった。
「………別にもう怒ってない」
しかし怒っていないと言いつつも、ローさん達とは目も合わせようともしないハヤテくん。
物理的な距離じゃなくて、こう、心の距離が離れていっているような……。どこか態度が他人行儀で冷たい態度だった。
お2人も相当精神的にキテいるみたい……。
「そもそもワシらがハメを外しすぎて、酒を飲んで酔っ払ったのがことの始まりだったんじゃ…」
懺悔し始める始末だし。
「ま、私のいた会社でもお酒絡みで人間関係悪化させて、部署が異動になったり気まずくて仕事に来れなくなった人いましたけどね?」
「うっ……それは、耳が痛いわね。ちなみに気になったんだけど、ニ葉ちゃんはどこかのお店や役所で勤めていた事があるの?」
ミストさんにそう聞かれるが、この話って周りに聞こえたらマズイんじゃないかしら?
話に出たついでだし、話せるタイミングで話した方がいいだろうと目配せで確認し合う。
「ニ葉。……〝アレ〟張って!」
「そうだね、それじゃ失礼して……〝防音〟」
私たちの周りに薄い膜を張り、周りへ音が漏れないようにする。コレで何を話しても安心だ。
「えっ。ニ葉ちゃん、いまのスキルって……?」
「あ〜…はい。〝結界〟というもので、その派生系?の〝防音〟も使えるんです。……でもコレ、実はスキルではなくてですね……〝加護〟なんです」
「やや……まさか〝加護〟持ちとはな?〝結界〟の加護を授けられる神は……どの神の加護じゃったかのぉ?」
「んー。ツインテールの幼女で、ローさんのような話し方をする女神様でした。名前までは分かりません」
「確かに。あの神たち、自分らの名前明かさなかったよな〜えっと、一葉姉ちゃんが〝残念女神〟の加護で〝良縁〟、僕が〝イケオジ〟の加護で〝恵みの大地〟だね」
「んんんん????あなたたち、皆んな加護持ちで神さまと直接会ったことがあるの?………ってもしかして?もしかしなくても?ハヤテと同じ………?」
ミストさんが混乱し始めた。
「あ、いえ。同郷者ではありますが、ハヤテくんが〝転移者〟なのに対して私たちは〝転生者〟なんです。……前の世界……地球で私たちは〝死〟を経験しています。私はとある病で、ニ葉は通り魔に刺されて、三葉は自然災害……地震で」
「………死因までは聞いてなかったけど、そうだったんだね………」
ハヤテくんがそうだったのか……と相槌をうってくれる。
やっぱり優しい子だなぁ〜
「うん、僕は倒れてきたブロック塀の下敷きになってね。……でも最後に誰かを守れたから、前世の僕を誇らしく思うよ」
それを聞いたミストさんがうんうんと頷き、ちょっと涙ぐむ。
ハンカチまで出して。
「三葉ちゃんってカッコいいわぇ……案外人間って自分の事が一番大事じゃない?それでも自分の事より、他人を助けようだなんて……なかなか出来ることじゃないわよ。優しいのね……それに、イケメンよね………?女の子なのに」
ミストさんが三葉を見て、あらやだ〜とポッと頬がほんのり赤みを帯びる。
確かに今は濃い赤色の髪で、肩より少し長いくらいの長さの髪を後ろで結っている。姉の私たちからみても、中性的でカッコいい見た目をしていると思う。
「……ちょっと、三葉に手出したら今度こそ絶交するからね……」
「な、なによ。ちょ〜っと見てただけじゃない。減るわけじゃあるまいし〜それにアタシにはローっていう恋人がっ………」
言いかけると、多方面から否定の言葉が。
「……減るんだよ。はっ倒すぞ」
「……ワシも付き合うなら女の子がえぇのぉ……」
「ちょっとーーーーーーーぉぉぉ!!!あんたら失礼じゃない?素敵なレディに対して!」
「……声太いのに?」
「……揉める果実が実ってないじゃろぃ」
ハヤテくんまで便乗してディスり始めた。
ローさんなんて、まな板ストーーーーんっていうジェスチャーまでしちゃって。哀れなものでも見るかのような目で遠くを見つめながらも、思いっきりミストさんを煽っている……何て恐ろしいおじいちゃん。
「むっきぃぃぃぃぃーーーーーー!!!!」
「……そもそも立派な息子さんがいるでしょ」
「……ワシにもおるから……同居は流石にできんのぉ」
おいおいおいおい。下ネタやめぃぃぃぃ!!!
私たちは一体何を見せられているんだ。
何、ドラマの撮影かバラエティーの撮影かなんかなの?中継カメラ回っていたりします??
っていうか、私たちが仲裁しなくてももう仲直りしてんじゃ………
しかし、ちょっと〝アレ〟なワードも飛び交っていて、その場にいた我々三姉妹は、
〝超〟
………居心地が悪い。
後半からは下ネタのオンパレードだし。しかしこの人たち、ココに仮にも可愛い女の子が3人もいるのを忘れていません??
男子会じゃないんだから。ちゃんと配慮してよねーーーーー
修学旅行で女の子が「クラスで好きな子誰?」って聞いて、「ーーーくん!」って聞いた子が同じ子を好きだった…………っていうシチュエーションだとか、友達の告白現場を振られた所までセットで目撃してしまった…………っていうシチュエーションにも負けないくらい気まずい。
周りで起きた実談です。
〝防音〟で周りには漏れてないけど、ましてや10歳児の可愛いウエイトレスの女の子に何て聞かせられるような話しでは到底ない……。
………妹たちの教育にも、悪いわ………
姉の心情としては、いつまでも純粋無垢であってほしい………
って、
ニ葉はそっぽ向きながらもこっそり聞き耳立ててるし…… 三葉は顔を真っ赤にして明後日の方向向いてるし………
ねぇ、もう、帰ってもいいかなーーーー
間を取り持つのも何だかんだ疲れるのよ……
追加労働手当てでも貰わないと、割に合わんわよ……やっとられんわ
 




