30 ネコの隠れ家にて
ゴーーンゴーーン
お昼の12時を知らせる鐘が鳴る。
ローさんが予約をとってくれたのは、オムライスが自慢の洋食店だった。
村の角っこにあるお店で、お店の周りには綺麗な紫色のラベンダーが咲きほこっている。風でゆらゆらと揺れるラベンダー、そしてその風にのってラベンダーの爽やかなフローラルな良い香りが運ばれてくる。
ラベンダーには、「あなたを待っています」「清潔」「疑惑」「許し合う愛」なんて花言葉もあった記憶がある。
今度家の庭で育ててみるのもいいわね……。ハーブティーとしても飲めるし、ドライフラワーにしても素敵そうだし。
そして極め付けはお店の前の看板に〝ネコの隠れ家〟という文字が。
名前からして、もう、可愛い!
書かれているフォントも丸みを帯びた感じで、女性が特に好きそうな見た目のお店だった。ローさんたち、よくこんな良い店を知っていたわね。
それによ〜くみると、お店のドアにもネコのシルエットが………それになんとなんと、ネコ専用のミニドアまで……
ここは天国か何かかな???
カランカラン……
とお店のドアを開けると、
まず目に入ってきたのは〝猫〟
カウンター席に寝そべっているネコが2匹がまず視界に入った。この世界に来て、初めて見たネコだ。ちょっとテンションが上がった。
他にも床にゴロンと転がっているのが1匹、窓辺で寝ているのが2匹いた。
かっ、可愛い〜〜〜〜〜!!!
コレは……コレではまるで…………まるで……
〝ネコカフェ〟
猫好きには最高のご褒美では??いっそ〝ネコカフェ〟っていうコンセプトで売り出せばいいのに〜〜〜絶対流行ると思うのに。
でも、お店の名前といい、店主さんはかなりセンスがあると思う。
本当に素敵!
「予約をしていたローじゃが〜」
「いらっしゃいませ。予約のロー様ですね……席へご案内いたします」
出迎えてくれたのは10歳くらいの三つ編み髪の女の子。
エプロンをしていて、エプロンのポケットにも猫の刺繍があしらわれている。お店全体が〝ネコ〟で統一されていてほんと素敵だ〜〜
案内された席は一番奥で、ほんのりと日が当たるテーブル席。6人掛けの一番大きな席だった。
窓辺の奥から順番に私たちは、
一葉→ニ葉→三葉と並んで座り、
同じく窓辺の奥から順番に、
ロー→ミスト→ハヤテと並んで座った。
間もなく可愛い店員さんが、メニュー表をトテトテと持って来てくれた。
歩き方からこの子可愛い〜〜〜
って、このお店に来てから〝可愛い〟としか口に出していないような???
気のせい?
「こちらがメニュー表です!どうぞ、ご覧くださ………って!シロ!テーブルの上に乗っちゃダメっっっ!ほらっ、おーりーてーーー」
店員さんがテーブルの上に乗ってしまったネコのジジをおろそうとするが、本人は全く降りる気がないようだ。
テーブルの中央に堂々とゴロンゴロンと寝そべる。
「……かっ、かわいいわねっっ!」
ミストさんは口元に手を当てて、既にメロメロになっている。
「すみません……うちで飼っているシロっていうメスネコなんですけど、人懐っこくて……誰かれ構わず近付いていっちゃうんです……」
「え〜でも、ほんとかわいい〜構ってほしいのか?君は」
ニ葉はシロに話しかけちゃっているし……。その隣では三葉も、
「…かわいい」
と言って尻尾をいじっているし。
すると周りのネコたちも気になったのか、近くに寄ってくる。
私たちはあっという間にネコに包囲されてしまった。
やはりここは、猫カフェだったのかな。
テーブルにヒョイっと追加で乗ってきたのはジジ。黒いメス猫で、テーブルを一周するとどこかへ行ってしまった。
ネコは気まぐれな生き物だって言うけど、この世界のネコも向こうの世界と変わらないんだな。
ハヤテくんの足元でスリスリしているのは子猫。茶色いキジトラネコのミミだ。メス猫で好奇心旺盛なのだとか。
そして三葉の足元に寄ってきたのは黒猫のクロ。
大きなネコでオスネコだ。大きいくせに三葉の足元に寄ってはグルグルと周り、ちょっと離れては近付くといったのを繰り返している。
カウンターで欠伸をかいて寄ってこないのはハチワレでグレー色のハチ。
こちらもオスネコだ。全然興味がないようで微動だにしない。
「わわ……いつもはこんなに寄ってこないのにっ!?お、お客様、すみませんっっ!」
店員さんは慌てて謝ってくるが、
「いや、むしろありがとうございます……」
むしろご褒美だと、そう思った。
それから奥から出てきた店主さんに号令をかけられると、テーブルに寄ってきたネコ達は一斉にはけていった。
店主さん、強い……。
店主さんは年配のおじいさんで、この道のプロといった出立ちだ。
こんな店主さんが作る料理なんだから、美味しいんだろうな。何ていったって事前の情報によればお米もあると言うではないか!
あとで是非、お米について聞きたい。
そんなやり取りの後にメニュー表を見て、どれにしようか散々迷った末に注文したものは……
一葉は店主おススメのオムライスとサラダのセット、ニ葉はデミグラスのハンバーグに果実ジュース、三葉はカルボナーラパスタにミルクティーを頼んだ。
それぞれがそれぞれに好きなものを頼んだ。
ローはナポリタンとコーヒーのセット、ミストはグラタンとサラダのセット、ハヤテはカレーライスにビーフカツが乗っている謎の裏メニューを頼んだらしい。
なんだか、手慣れている?
食事が来るまでの無言が少々居心地が悪かったが、その間にサラッとスマホの受け渡しと、服の受け渡しをおこなった。
スマホには今ここにいる6人の連絡先を、全部登録してくれたという。それはすごくありがたい……。
服の方は紙袋に入れて、それぞれローさんとミストさんに渡した。2人はすっごく喜んでた。帰ったら早速着てみるそうだ。
それから少し経って、食事が出来上がって運ばれてくる。
食事が届くと、冷めないうちにそれぞれ食べ始めた。
「んん〜やっぱり暁月村にきたら、ここのグラタンとサラダのセットよねぇ〜」
ミストさんが嬉しそうに一口、そしてまた一口と噛み締めるように食べ始める。
「ここのお店、初めてじゃなかったんですね」
そう聞くと、
「えぇ、国中あっちこっち旅しているからねぇ。ここに来るのは3回目?くらいかしらね?」
暁月村に着いたら必ず立ち寄るんだそうだ。こういう、行きつけのお店の存在って、なんだかいいよね。思い出の味?っていうかさ。
〝帰ってきた〟って思えるんだろうな。
「……で、問題が……」
ローさんはハヤテを見るが、食事を黙々と食べているようだった。
すると勇者三葉が、そのタイミングで話しかけにいった。
「ん、ハヤテ……じゃなかった。外ではキース?…の食べてるのって裏メニューなんでしょ?そういうのもいいねぇ〜」
「…まぁ、名前はどっちでもいいけど…。初対面の人に最初にキースって名乗っているだけだし……日本人にそれ言われると中二病っぽくて恥ずかしいんだよな…。裏メニューは来店が2回目以降に頼めるよ……店主の気まぐれでカレーにプラスされるのが変わるけどね。今日は〝アタリ〟だな」
「〝ハズレ〟もあるの?」
「………ここの村のギルドの冒険者が言ってた情報だと、カレーの上にまるっとりんごが乗って出た事もあったとか………」
「うぉ…豪快……ある意味〝アタリ〟じゃん」
ほんと、それは色んな意味で〝アタリ〟だと思う。
りんごをすって入れると美味しくなる〜とはよく言ったものだが、りんごをまるまる入れるなんて……お笑いのネタか漫画でしか見たこと無いわよ。
現実に存在したのね。ビックリだわ………
「………ビーフカツも食ってみる?結構美味いよ」
「え、いいの?わ〜ありがと〜」
なんてやり取りが始まるし………?
まるで友だち同士の……?ん?コレは友達同士のやり取り?なのか。
イチャコラしているように見えるのは、私の目が汚れているからなのかな。
ハヤテくんは使っていないフォークでビーフカツを取り分けて、三葉の皿の上に乗せてあげた。
なんだか……コレって側から見たら…………………………っていや、いや!!!早とちりは良くない。……………あそこでぐずぐずしている大人と、同じになってしまうところだった。
でも正面の席で、ローさんもミストさんもジト〜〜っと疑うような目で見ているし。
「………ワシだってハヤテと話したいのに……ぐすん……」
「アタシだって………羨ましいわ………」
2人は寂しそうに遠目で眺めていた。
コレ、食事が終わったら、話の流れで仲を取り持つ感じだよね??
うまくいくのか……
よし、三葉に特に頑張ってもらおう……
ここはそれが手っ取り早いと、瞬間的に察した一葉とニ葉である。
女の〝勘〟だ
 




