28 酒癖が悪い薄らトンカチども
昔の事を思い出していると、間もなくローとミストが部屋に入ってきた。
「あら?ハヤテ、何かいい事でもあった?」
開口一番にミストがそう言ってきた。
「………何で?」
って、近くに来たらミスト……酒クセェ……飲んできたのか?
「おや?そうじゃのぉ〜?ハヤテがちょ〜〜っと笑みを浮かべとるぞい?明日は雨でも降るんかの?」
「大雨かもしれないわよ〜〜」
コイツら……2人して酒クセェ……
もう酒で酔い潰れてんのか?
そうじゃなくとも、いつも言わせておけば……
「………ふんっ。そんな事言うなら、2人とはしばらく口聞かないから」
2人の態度に、久々にカチーーンときた。
歳下だからって、いつまで経っても弄りやがって……
「何不貞腐れてんのよ?あんた、自分から積極的にグイグイいくタイプじゃないし、アタシらとも喋んなくなったら、いつか声が出なくなっちゃうわよ〜???」
「そうじゃぞ〜じぃじとお話しするのじゃ〜〜〜」
ローがそう言って、俺の肩を掴んで絡んできた。酒臭いし、一体何杯飲んできたんだお前ら。
それに、久々にみる酒癖の悪さ!!!!
鼻を摘み、ローと離れる。
にしても、絶妙にイライラさせるな。今日のコイツら……
いくら酒で酔っているとはいえ、俺がコミュ症で友だちもいない可哀想な奴だって言いたいのか?……まぁ、確かに?人と話すのは得意ではないし?何なら他人に対しては無関心を決め込む事が多いけど?
「……2人と話せなくても、〝ヲタ友〟が出来たから問題ないよ」
「「……………ヲタ、友っ!???」」
「………って何じゃ?」
さぁ?と2人して、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「………とも?は、友だちの友って事かしら………?………ってええええええええええええ!??ハヤテに友だち??」
「何じゃと!?はっ!!まさか先程会ったあの子らか!??」
意味までは通じなくても、ニュアンスで無理矢理理解したよコイツら。
勘がいいというか何というか、何というやら。
「………そうだよ。三葉とスマホで連絡取れるようになったから。別にローとミストと話せなくても平気だし………」
「……………ハヤテや?んー?ワシ、年寄りじゃから、もう一度言ってくれんかの?耳が遠くなったようなんじゃ………」
「そ、そうよ?〝誰〟と〝何〟で連絡が取れるって??アタシも耳鳴りがして、良く聞き取れなかったわっっ」
面倒クセェ………。俺に友だちが出来たのが、そんなに信じられないって言うのかよ。
「…………だから、〝三葉〟とーーー」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっ!???ウソよーーーー」
言い終わる前に、ミストの奇声で声がかき消された。夜中に近所迷惑だし、鼓膜破れるからマジやめてほしいんだけど……。
いや、ウソって……マジなんだけど。
「………ミスト、うるさい。いい加減にしてよね」
「………ハヤテに、恋人が出来てしもぅた………え、ワシら捨てられるのかぇ?老後の面倒はハヤテに見てもらう予定だったんじゃが………え?ワシ、今、夢でも見ているんかの?」
って、とんでも爆弾発言しやがったコイツ。
ってメソメソ泣きはじめてるし!?
今度は泣き上戸かよ。
2人して、勝手に変な想像しないでほしいんだけど。何をどう飛躍したらそんな思考回路に至るワケ?
思考も回っていないのか?
「アタシ、母親として素直に喜んであげられないっっっ………」
ミストまで床に突っ伏して、泣きはじめた。
「………いや、でもミスト母親じゃないし。………しかも男だろ」
「ひどいっ!体は男でも中身は乙女なのよっっっ!!」
「いや、どうでもいいんだけど?それより…… 〝三葉〟はーーー」
「うんぎゃあああああああああーーーーーーーーーーーっ」
「アタシのこと、そんな事よりってーーー!??もう、アタシなんてどうでもいいのねっっ!!浮気者っっっ!!」
「そうじゃ!年寄りはもっと大切にせぇ!!」
「そうよ!そうよ!」
「甲斐性無しっ!!」
「この野蛮人っ!!」
「…………ほぅ……?」
もう、2人が何を言いたいのか分からない。
呂律も回っていないし、興奮して顔も真っ赤だし……足元ふらふらで目の焦点合ってないし。
これだけ言われて、キレるなって方が、難しいよね?
俺、そこまで人間出来ていないからさ………コレは当たり前の反応だから
それから俺は、自分でも驚くくらいの低い声が出た。
「おい……テメェら、いい加減にしろよ?」
それから、部屋の温度が一気にマイナスに冷え込んだ。
いや、比喩とかではなく、熱せられていたその場の空気が、文字通りにカチーーンと、固まった。
「「………ハ、ハヤテくんっ?」」
「………ようやく酔いが覚めたか。この、薄らトンカチどもが」
言うまでもなく、俺はその日から丸一日、ローとミストとは全く口を聞かなかった。
 




