27 木漏れ日村での出会いと金銭価値
「ふぅ………」
電話を切ってから、ふと我に返ったハヤテ。
まさか、この世界でローとミスト以外に自分の事情を話す事になるとは……それにローとミストは機械オンチで、スマホを持たせていても全然使いこなせてないし、まともに電話で話すという事をしたのは、この世界に来てから初めての事だった。
今日会ったばっかりの人なんだけどな……。
あぁ漫画、好きそうだったし、とりあえず……100冊くらい送ってあげようか。
色んなジャンルのものと、オススメと……アニメ化、ドラマ化、映画化した作品も織り交ぜつつっと……。こんなもんかな。
メールを開いて〝添付〟をする。
この〝添付〟ってほんと便利なんだよなー。容量に制限ないし、何でも送れちゃうからなぁー。
「………っと、コレで送信………」
三葉宛てにメールを送信する。
まさかローとミスト以外の連絡先が増えるなんて、昨日までの俺では考えられなかった。
こっちに来てからというもの、右も左も分からない状況でパーティに誘ってくれたローとミスト。かれこれ3年くらいは一緒にいるけど、何も最初から仲が良かったというわけではない。
ローは今も昔もあんな感じだったけど、ミストは俺のこと嫌いだったろうし。
ローは俺に必要以上に構うし、ミストはそれが気に食わなくて……。
俺は〝木漏れ日村〟という村で、村長のおじいさんの元で居候をしていた。
気のいい村長で、何処の馬の骨ともしれぬ俺を村に置いてくれた恩人だ。本当の家族のように接してくれて、俺は村長が大好きだった。
そんな村での生活が1年経つ頃、ローとミストがこの村に訪れた。
この時で2人は既にBランクの冒険者だった。依頼の途中で寄ったらしいんだけど、この辺りの地理には詳しくなかったらしく、一番詳しい村長の元を訪ねてきた。
冒険者なんだから、冒険者ギルドへ聞きに行けよと思ったがおあいにく様、この村の冒険者ギルドは人口の減少によって数年前に無くなってしまったらしい。
「………どうぞ。粗茶ですが………」
お客様用の湯呑みを出して、早々に立ち去ろうとした俺だったが、ローに引き止められた。
「お主も飲んでいったらどうじゃ?」
この時は、何だこいつ?と思ったっけな。
そう大して年齢も変わらなさそうな見た目なのに、まるでおじいちゃんのような話し方をするからさ。変なやつだな、と一気に警戒度が上がったのも仕方ない。
ニコニコしているローに対して、ミストはこっちを睨んでくるしさ、早くこの場から離れたかったよ。
でも、村長を置いて行くのは心配だったから渋々その場に残ったんだ。
………本当に渋々だった。
「して、聞きたい事とは何ですかな?」
村長が話を切り出す。
「ワシらはこの辺りが初めてでな、この周辺の地図をいただけないかと思い立ち寄らせていただいたのじゃ。」
「そうよ。もし、貴重な物なら写させてもらうだけでも良いわ。勿論、どちらにせよ謝礼はします」
村長はう〜んと困っていたようだった。
それにしても、おじいちゃん口調で話すフード男に、オネェ口調で話す仏頂面男。どちらも俺は〝超〟苦手だ、と感じた。
「………この辺りの地図はあるにはあるんじゃが、何せ大きくてな?冒険者ギルドが閉まった時にギルドから譲り受けたもので、正確性は保証出来るんじゃが、おいそれと渡せるものではないんじゃ」
「なら、見せていただけれはこちらで書き写しますわ」
「そうじゃなぁ……そうじゃ、キースや、お主写本が得意であったろう?あの地図を写してやってくれんか?」
と、なぜか俺に白羽の矢が立ってしまう。
「………え、俺ですか?確かに写すのは得意ですが………」
村長に頼まれたら、やるのはやぶさかではなかったが……さっきからコイツ、すんげー睨んできて目合わせたくねぇんだよなーーー
睨んできていたのは、ミストだった。
そんな俺の気持ちも知らないで、隣の男は目をキラキラさせて、
「キースくん、お願い出来んかのぉ?この通りじゃ!」
って、頼み込んでくるし。
挙句、謝礼じゃと言って金貨まで出してくるし。えっ?冒険者ってこんなに稼げるの??って金銭感覚が狂いそうになるしさ。
この世界でよく目にしていた通貨は銅貨が多かった。稀に銀貨を拝む時もあったが……金貨なんて初めて見たぞ。村長もびっくりしてるし。
黙っていると、
「足りんかの?」
と言って今度は更に上の白金貨を出して来やがった。
金貨がおよそ10万円くらいの価値だとするなら、白金貨はその約10倍の価値はある。それをヒョイっと出せるなんて……冒険者は金持ちの集まりなのか??
おいおいおいおい………コイツ、頭が足りてねぇのか?それとも金銭的価値も分からないようなボンボンなのか?ともな。今思えばだいぶ失礼な事を考えていたと思う。
白金貨を見た村長はその場で気絶しちゃっているし……コレはもしかしなくても、俺が対応しなきゃダメなやつ?だった。
「……分かりました。金貨1枚でお引き受けします」
村長にはいつも世話になっているし、こんな時でも無ければ恩も返せないからな。
金貨1枚は許してくれ……。
「白金貨じゃなくていいのかぇ?」
「そうよ?あなた、価値が分からないってワケじゃないんでしょう?」
と聞き返してきたが……コイツら面倒クセェ……。
「……どこの世界に地図の写しに白金貨を出すバカがいるんですか。金貨でも貰い過ぎなくらいなのに……でも俺は村長に恩があるから、そのお金で村長に少しでも恩を返したい。この村にとっては十分すぎる大金なんで金貨はいただきますよ」
そう答えると、
「ふっふっふ……キースくん、お主、面白いなぁ!ワシは気に入ったぞ〜。だから言っただろ?ワシの人を見る目は確かじゃと!」
「ちょ!?何言ってんの、ロー!」
ローは腹を抱えて笑い始めるし、ミストはあり得ないってものを見るような目で俺を睨むし、もう、冗談抜きで、ほっっっとーーーに、心の底から、
「…………え、マジで迷惑なんだけど」
そう思ったはずが、声に出してしまっていた。
しまった。
と、思った時にはもう遅かった。
そしてそんな俺のぼやきもツボったのか、更に気に入られてしまう。
どうやら試されていたのは俺の方だったようで、俺は信用に値する人間だと、知らない間に認められていたようだった。
何でももう1人、パーティメンバーを探していたようで、俺が目を付けられたとそういういきさつだったらしい。
その一件以来、ローは俺に構うようになって、依頼を終えてからもしつこく自分のところのパーティに来ないか?としつこく勧誘してきた。
地図を写してやったんだから、さっさと出立すれば良いのに、あいつ暇なの?ウザかったんだけど。
雨の日も晴れの日も、毎日のように家に来るし。
それから、まぁ、話をだいぶ端折ると色々考えた末、俺はローとミストとパーティを組む事になった。
村長も、行っておいで?と快く送り出してくれたし。
「それじゃあまず、冒険者ギルドがある村でキースの登録をせねばな!」
「……足を引っ張ったら置いて行くからね」
ローは相変わらずだとして、ミストは口では憎まれ口を叩くけど、一度も置いて行かれた事はなかった。いくら俺が歩くのが遅くても、歩調を合わせてくれたり、少し歩いては立ち止まり、また少し歩いては立ち止まり……と待っていてくれたし。
この頃から、俺はミストを勘違いしていたんじゃないかと思い、話すようになったら打ち解ける事ができた。
何で睨んでくる事が多かったのかミストに聞いてみた事があった。何でもローが俺に構いすぎるから、単に気に食わなくて嫉妬していただけだという。
お前は子どもか!
そう思ったが、それは口に出さなかった。
 




