23 暁月村への到着と黒い板
そしてしばらく経ち再び話は戻り、
「………っていうことがあったのよ。だから一葉ちゃんも、出来るだけ周りに知られないように隠した方が良いわよ?」
ミストさんにそうアドバイスをもらった。
実際にミストさんはそれからも人攫いや、刺客に命まで狙われた事もあるとの事だった。それでも一緒にいてくれるこの〝グランディ〟のメンバーが大好きよって、笑顔で話してくれた。
「そうそう。ワシらが一ヶ所に拠点を持たずにいるのもそこが大きいんじゃ。キースにはワシらの事情に付き合わせてしまって悪いがのぅ…」
ローさんは一番歳下のキースさんに気を遣って、申し訳なさそうな顔をするが、
「…………今更なんだけど?それに、俺も貴族の連中は嫌いだし。………貴族の特権を行使されて指名依頼を出して来られちゃ断れないし、あっちこっち移動してた方が気楽で良いよ………」
別に気にする事は無いとキースさんは言う。
何だかんだ言いつつも、良い関係が築けているようだった。
「とにかくっ!それはおいそれと知られちゃダメなスキルなの。村に着いても人前での使用は、控えた方が懸命よ?」
ミストさんは「心配だわ〜…」と繰り返し言いながら、私たち以上に心配してくれた。
まるでお母さん?……お父さん?のようで少しむず痒くなったが。
「分かりました。私たちも平穏な生活を望んでいますので、十分に気をつけたいと思います」
それでも心配そうに見つめてきたが、ローさんに
「ミストや、そろそろ出発しなと夕刻まで村に着かんぞ?」
と言われ、ローさんにネイサンをまたおぶってもらいながら再び山を登り始めた。
そしてようやく山を越え、私たちはようやく目的地である暁月村へと辿り着いた。
暁月村は360度、まるッと山々に囲まれた場所にあってまるで時代劇にでも出てきそうな隠れ里のようだった。
村の周りは木製の板で3メートルはあろう壁にぐるっと囲まれていて、外側にはそこそこ深い堀まであった。水源は湖の方から延びているようで、綺麗な透明度が高い水が引かれている。よ〜くみてみると小魚が泳いでいるのが見えた。それにアレは、アメンボウ???
「何とか鐘が鳴る前に到着できたのぉ!いやいや、ギリギリじゃったわい……」
ローさんは危なかった〜とホッと胸を撫で下ろした。
門のところには門番が1人いて、何やら通行人に確認をとっていた。
私たちの前の前の前を通った2人組は、首からかけているものを門番の人に見せ何やらやりとりをしている。
次の馬車に乗ったおばさんも、門番の人に何やら見せているし………。
もしかしなくても、身分証的なものが必要なのでは!?
………ま、マズイかも。
「あ、あの〜〜もしかして身分証か何か必要だったりします?」
と、恐る恐るローさんに聞くと〜……
「そうじゃよ。もしやお主ら身分証を持っておらんのか?」
「は、はい……」
やっばーーー
私たち、ずっと峡谷で暮らしていたし、そんな物持ってないわよーーーーーー
どうする?どうする?と3人で顔を見合わせていたところに、助け舟を出してもらった。
「…………それなら君たちの身元を俺らが証明してあげるよ。…………コレでもAランクの冒険者だから、それくらいは出来るよ」
「あら?キースがそんなに面倒見がいいなんて珍しいじゃない。まぁ、そうね……この場はアタシらが何とかしてあげるわ」
「いいんですか?」
「構わんぞ?ワシらが村に滞在している間に、冒険者ギルドか商業ギルド辺りで身分証を作れば問題無いはずじゃし、任せぃ」
そうして〝グランディ〟の皆さんに身元を証明してもらった私たちは、無事に暁月村へ入ることができた。
ほんと、助けられてばっかだったなぁ。
「…それじゃ、ワシらはここで失礼するぞい。5日は滞在する予定じゃから、何かあれば冒険者ギルドまで来ておくれ」
「何から何までありがとうございます……」
「村の人たちはいい人が多いけど、気をつけてね?知らない人について行っちゃダメよ?」
それから少し話してから、村の中央付近で〝グランディ〟の皆さんと別れた。
短い間だったけど、何だか名残惜しいような気がした。
それから、振り返って何かを言いたげな様子でキースさんだけがスタスタと戻ってきた。
どうしたんだろう?と首を傾げていると、
「……………ーーーーーーーーーー………」
三葉にコソッと何かを言って、何かを手渡したようだった。
用が終わると、今度はさっさと行ってしまった。
何だったんだ???
「キースさん、何だって?」
三葉は、キースさんが歩いて行く姿をじっとみていた。
そして、一呼吸置いてから、私たちを見て話し始めた。
「えっと……コレ、手渡されたんだけど」
「それって……!!!」
「嘘っ!!?どういうこと!?」
「……さっき、ね」
「…………ねぇ」
「あっ、はい」
「………もし、コレの使い方が分かるならいつでも連絡してきて。………分からないなら、ただの板だし、捨ててもいいから」
「………って言われてコレ手渡されたんだけど」
三葉の手には黒い板……というかどっからどう見ても〝スマホ〟が握られていた。
まさかこの世界に来て、お目にかかれるとは思っていなかった代物だ。
何でこんな物がこの世界に……?
「キースさんって、もしかして私たちと同じ……?」
「可能性はあるわね……何にせよ、また会って話してみる必要がありそうね」
「僕らと同じ状況なら、詳しく聞いてみたいね」
それからまず、私たちは寝ていたネイサンを起こし、家の場所を聞いて無事に家まで送り届けた。
ネイサンは入るのが怖いと言って家の周りをウロウロしていたけど、帰る気はあるようなので後はネイサンの気持ちが固まったら入れるだろうと私たちはネイサンの家をそっと後にした。
今日一日で色んなことがあったけど、まずはネイサンが無事に家に帰れて良かったわ。
 




