21 Aランクパーティーとの邂逅
暁月村に向かっている最中、私たちはよく分からない人たちに話しかけられていた。
悪い人たちには、見えないけど……。
「えっと、私たちはこの先の暁月村へ行く途中なんです」
嘘をついても、この先は暁月村しか無い。あとは、〝山〟〝山〟〝山〟
下手な嘘をついて怪しまれるより、ここは正直に言ったほうが良い気がした。
「あら、そうだったのね。ちょうどアタシたちも暁月村を経由する予定なんだけど、一緒に行かない?ここからまた山を越えるでしょ?女性に子どもだけなんて、危ないもの」
この人たちも目的地は同じだったのか。
旅は道連れ世は情け〜なんて昔から言うみたいだけど。
旅をする時は一緒に旅をする道連れ(同行者)がいると心強いように、世の中を渡っていくには情けを持って仲良くやっていくことが大切で云々………なんだろうけど。
こちらが女、子どものみの集まりで、何かあった時大変だと善意から申し出てくれたんでしょうね。
あの〝残念女神様〟?
の話によると〝良縁〟っていう〝加護〟の効果が出ているだろうし。変な人の集まりだけど、たぶん、悪い人たちではない……ような気がする。
〝勘〟
だけれど。
でも、知らない人にホイホイとついて行くのも何だかなぁ。私が対応をこまねいていると、
「いっ、いえ。僕たち歩くの遅いですし、急いでいたんじゃないんですか?」
すかさず、三葉が理由をつけて遠巻きに遠慮してみせるが、
「構わんよ。わしらが急いでおったのは、村の門限に間に合わせるためじゃし。ここまで来れば鐘が鳴るまでには門を潜れるじゃろう」
「…………遠慮しなくてもいい。どうせ行き先は同じ」
「そうよ。それに、こういう仕事も〝冒険者〟の務めだし」
最後は半ば押し切られるような形で、有り難く申し出を受け入れることになった。
「……えっと、じゃあ、よろしくお願いします……?」
それで暁月村まで同行する事になった私たち4人と、冒険者だという3人は歩きながら軽く自己紹介をする事になった。
おじいちゃん口調で話しているのはローさん。
このパーティーのリーダーで、年長者らしい。
「ほぅ。ではあなたがたはそこの子どもを保護して、村に送り届ける最中なんじゃな。えらいのぉ!若いのに。実は、わしらも依頼の途中でな?」
オネェ口調で話すお兄さんはミストさん。
ローさんとは1歳違いで同じ村の出身だという。お互い、腐れ縁だと話していた。
「そうそう。今回は村から村への配達任務と、薬草の採取がメインね。アタシたちはよくこういう長期任務の専門?みたいな仕事を受ける事が多いわねぇ〜」
そして最後に、話のテンポが遅い男の子はキースさんだ。
この中では一番歳下らしい。ローさんとミストさんに勧誘されて、このパーティーに入ったようだ。
「……………皆んなやりたがらない仕事だからね。でも、絶えず依頼が来るって事は、それなりに需要があるって事なんだろうね」
3人は〝冒険者ギルド〟という組織に所属していて、ランクはAで〝グランディ〟というパーティーを組んでいるらしい。
なんとも個性がバラバラなメンバーだが、パーティーとしてうまく機能しているらしいから不思議だ。
こう、側から見ると〝陽キャ〟と〝陰キャ〟が同じテーブルを囲んで食事をしているような、そんな雰囲気に一瞬見えるんだが違和感は無い。
かく言う私たちも、人のことが言えた口じゃないんだろうけど。
それからしばらく、長い坂道を登った気がする。
雑談を交えたりしながら登っていたが、ネイサンは途中で膝をついてしまい、今はローさんにおぶられている。
いくら子どもとはいえ、かついで登るのはキツイだろうと思っていたけど、ローさんはヒョイっとネイサンをおぶると、顔色一つ変えずに一定のペースで登り続ける。
「あ、あのっ。ありがとうございますっ」
ネイサンが緊張した面持ちで、ローさんに話しかける。
「構わんよ?辛い時は、周りの大人に頼ってもいいんじゃ。にしてもネイサンは軽いのぉ〜。ちゃんと食っとるんかぇ?」
「は、はいっ!」
なんて、微笑ましいやり取りをしていた。
最初はちょっと不安だったけど、話してみるとめちゃくちゃ良い人たちだった。
ネイサンも何だかんだ言いつつも、もう打ち解けているし。
ローさんは涼しい顔で登っているが、よくどんどん登れるなぁ〜…。単に男の人だから単に体力があるだけなのか?
それとも冒険者って皆んなこういう人種なのか……と思いきや、振り返ると私たちの後ろでキースさんが辛そうに登っていた。
「キース、情け無いわね。冒険者なんだからっ、もうちょっとシャキンとしなさいな〜」
ミストさんが足を止め、後ろを振り返ってキースさんに声をかける。
「……………」
声を出すことでさえキツそうにしている。
なんだか足元もフラついているし見ていて危なっかしい。ほら、また足元の小石につまずきそうになってるし、あぁ、そっちは急斜面がっっっっ!???
落ちっっ!??
見ていられなくて私が手を差し伸ばしたけど、その前に三葉が素早く動いてくれた。
「大丈夫ですか?」
よろけそうになったキースさんの腕を掴んで、三葉が支える。
「………あ、ありが………ゴホッ、ゴボッ」
急に喋ろうとしてむせてしまったようだ。
三葉は肩を貸し、いったんキースさんをそのまま日陰へと連れて行き、木にもたれ掛からせて座らせる。
私たちも足を止め、2人の方へ駆け寄る。
近くで見ると、キースさんは熱中症の初期症状のような様子で今にも倒れそうだった。顔色も悪いような気がする。
太陽は照っているし、気温もかなり高い。おまけに湿度もある気がする。これではいつ誰が倒れてもおかしくない。
暑そうにしていたのでひとまず帽子を脱がせ、その帽子で仰いであげる。
コートもローさんたちに手伝ってもらい、なんとか脱がせる。コートまで汗びっしょりだ。
三葉は鞄からコップを取り出し、
「水」
と言うと、空気中に水を浮かべ、コップへ冷たい水を注いであげる。
「はい、どうぞ。飲んで?」
キースさんは目をみはりながらも両手でコップを受け取り、一気に飲み干した。コップは空だ。
「もっと飲みます……?」
三葉は更に水を注いであげる。するとすかざず、またすぐに飲み干した。
しばらく息を整えるのに必死だったキースさんだったが、
「……………すみません、ありがとうございました。助かりました」
「いえ、そんな大したことしてないですし。僕らだって助けてもらっていますし、お互い様ですよ」
三葉はローさんとネイサンを見ながら、そう言った。
私たちだって、ネイサンをローさんにおんぶしてもらっているしね。
するとキースさんはう〜んと考えるような仕草をしたあと、ゆっくりと顔をあげて三葉に問うてきた。
「……………あの、さっきの水、ちょっとしょっぱくて甘い、海?の海水のような味がしたんだけど?あれって、ただの水じゃないよ、ね?」
おっ?
三葉、まさかついにアレを作る事に成功したのか!??
「あぁ、脱水症状が出ていて塩分が必要かと……経口補水液……のような、もの?かな?ひとまず回復してよかったですね」
サラッと作っちゃったよ。
さすが三葉!
熱中症や脱水症になってしまったときは素早く水分補給を行う必要がある。そんな時、普通の水に比べて体への吸収速度が速く、推奨される飲み物として活用されているのが今回三葉が作ったであろう経口補水液だ。
〝飲む点滴〟なんて呼ばれたりもする。
電解質や糖分を含んでいるが、それも再現したって事でしょ?
〝創造〟と組み合わせて作ったんだろうね。
よく、どたん場ですぐに作れたわね〜。あとで詳しく聞こうっと。
 




