18 迷子の迷子の?
気になって来て見たものの、コレは一体どういう状況?
「……で?君はこんな所で一体なにしているの」
「で、って……」
少年はポカーンとした顔で見上げてくる。少年はまるで私の言っている意味が分からない、と言いたげな表情をしている。
「ほらっ。あなたたちも住処へ帰りなさい」
同じく頭の上に〝?〟マークを浮かべているコボルドにもそう促すが、
「グギィ?グギギィィ」
ん?何?
子どもが落としていった靴?を?その子どもに、返したくて?すたこらさっさと、追いかけて来た?逃げるから、「待って」って言ったけど言葉が通じなくて?
コボルドが持っていたのは片方だけの靴。
それをグイグイと掲げてみせる。
「えっ?あぁ、そういうこと。えっと、君。この子たちは君が落としていった片方の靴を届けようとしてくれたみたいよ?」
コボルドから靴を受け取り、少年の前に置く。
「あっ、僕の靴……。え、っていうか何で魔物の……コボルドの言葉が分かるの?もしかして……お姉さんは……魔女なの?」
「グギィィ?」
そう言えば何でだ?とコボルドまで首を傾げる。
「えっ?魔女?」
魔女っていうと、あれですか?
シンデレラに素敵なドレスを着せてカボチャの馬車を用意してあげたり、白雪姫に毒リンゴを食べさせて眠らせたり、人魚姫に声と引き換えに陸で歩く足をあげたりした……あの〝魔女〟のこと???
「そうだよ。不思議な力を使う人の事を、魔女って呼ぶって絵本に書いてあった。違うの?」
うーん、この世界での〝魔女〟の定義がよく分からないわ。
不思議な力っていっても、成人すると教会から1つだけスキルがランダムで貰えるって神さまたちは言ってたし。
この子はまだ成人してないだろうから、〝スキル〟や〝加護〟が珍しく感じる年頃なのかしら?
「私にもよく分からないわ。それよりあなたたちはこの辺に住んでいるわけではないの?よく見たら、見かけない顔だったから」
少年の質問にはサラッと受け流させてもらった。適当な事を言って嘘つくのも、変な話だし。
次に私はコボルドたちに事情を聞く。
「グギィ、グギィ」
最近住処を変えたと話すコボルド。
そして、
「あら?もしかしてあなたたちも北の山から来たの?フレイたちと一緒ね」
「グギィ?」
「あぁ、フレイっていうのはフレイムベアの事よ。親子で最近この辺りに引っ越ししてきたのよ」
「グギィ〜グギィ」
という事はこの辺りには食料があるんだな。と聞いてくるコボルドたち。よく観察してみると結構痩せ細ってる?何も食べてないのかしら?
「グギィー」
「そう……あぁ、食料がないの?まだ地理が把握しきれてないから?なるほどね。それでこの辺りにいたのね。比較的この辺りは木の実とか色々落ちてるし。そうだ、良かったら魚や野菜を分けましょうか?少しなら、肉もあるわ」
「グギィ!」
良いのか!と驚くコボルド。
「良いわよ。この辺りに住むのであればご近所さんだし。今すぐ持っていく?」
「グギィ〜」
是非そうしたいと、そう言っている。
「今度会った時に、この辺りのことについて教えてあげるわね。食べ物の収穫場所とか。えっと…少年をこのままにしておくわけにはいかないし………少しの間ここで待っててくれる?」
「グギ!」
いくらでも待つと、返事をするコボルド。
「ということで、そこの少年。少しは歩ける?私の家がすぐそこなの」
「う、うん」
「じゃあ、ついてきて」
よし、話はまとまった。
私は少年を連れて、家へ招き入れた。
起きてきたニ葉と三葉には事情を簡単に説明し、先に〝癒やし〟のスキルで少年を治療してあげる。
少年は余程お腹が空いていたのか、お腹の虫が大きく鳴ったのでニ葉に料理を作ってもらう事にした。
そしてその間に私と三葉は食料を渡すため、コボルドたちが待っている場所に食料を運んだ。
木箱の中にはサケやイワナの魚類、もう一つの木箱には猪肉、ダンボール箱の中にはにんじんや白菜といった野菜を急いで詰めてきた。
その量を見たコボルドたちは
こんなに貰って良いの?
と聞き返してくるが、遠慮するなと全部渡す。
三葉は紙コップを作ってコボルドたちに水もあげていた。
喉も渇いていたみたいでコボルドたちはとても喜んでいた。やっぱ食べ物と飲料水は生きていく上で欠かせないよね。
それはどんな生き物……人間だって、魔物だってさ。




