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8 ギルド長としての後始末




さて、と、



「リリー、もう遅いし、今日はそこのギルド長さんと私が送って行くわね」


「でも…リリー、お礼がしたいの」



しょんぼりした顔で上目遣いに見つめてくるリリー。


っっっ、可愛いっっっ!!!カメラがあったら写真撮りたいっ!こんなふうに可愛い子どものお願いだったら叶えちゃいたくなるわ。

でも、急に家に転がり込んでもリリーのお母さんがびっくりしちゃうだろうし、常識的に考えてこの時間の長時間滞在はあり得ないわ。


一葉(かずは)はどうしたものかと考えた後、



「別にお礼なんていいのよ。でもそうねぇ、どうしてもっていうなら今度のお休みに私と遊んでくれないかしら?」



大替案を提案してみることにした。



「お姉ちゃんたちと?」


「えぇ、どうかしら?」



リリーの顔がパッと明るくなり、



「分かった!次のお休みは…3日後なの!」


「じゃあ、お昼の鐘が鳴る頃、リリーのお家まで行くわね」


「うんっ!」



ふぅ、納得してもらえた。一葉(かずは)は右手の小指を出して、



「指切りしようか」


「えっ、指切っちゃうの?」



と、突然不安そうな顔になる。

そんな表情もまた可愛い。



「指切りっていうのはね、約束をする時にするおまじないよ。約束を守ろうねっていう確認なの」


「そうなんだね。じゃあ、約束!」



そう言って互いに指を絡ませ、遊ぶ約束を交わしたのだった。







「それじゃあ、私たちはリリーを送って行くとして、あの〝変態さんたち〟はどうしましょうか?」



伸びている男たちに視線を向ける。



「はいはい!!私、名案があるよ〜?私らがこの世から跡形もなく消しておくのよ。変態貴族の1人や2人いなくなったところでどうせ誰も気付かないし、これまでろくな生き方してこなかった連中でしょ?むしろいなくなって喜ばれるんじゃない?これはれっきとした社会のお掃除よ」



「そうそう。人は見た目で判断しちゃいけないってよく言うけど、こいつらは見た目で判断しても大丈夫だよ。ほら、見て?この悪趣味な上着。さっきは暗くて分かりにくかったけど、金色だよ金色。それに手首や指にも金の装飾品だらけ。どんだけ権力を誇示したいんだろうね?どれだけ着飾ったところで中身が伴ってなければそれは〝駄作〟じゃん?見かけ倒しってやつ?こいつらは1話目で主人公に成敗されて退場する〝悪役AとB〟ってところだよ。僕らで害にしかならないなら、世界にとってもそれは〝悪〟だよ。消えてくれた方が世のため人類のためさ」



と、妹たちは笑顔でスラスラと恐ろしいことを口にする。

とてもじゃないが、この2人だけに任せるのは不安だ。



しかし、路地で伸びている男どもをこのままにはしてもおけない。目が覚めたら絶対逃げるだろうし、また懲りずに盗みをはたらくかもしれない。



「それなら私に任せてくれ」


「一体どうする気?まさか貴方まで〝消し炭〟とか言い出さないわよね?」


「……君の妹たちといっしょにしないでくれ。これでも一応、私は冒険者ギルドのギルド長だぞ?法に則った〝罰〟を受けさせるさ」



ブレイヴはそう言うと指を男たちに向け、宙をぐるぐるぐると3回ほどなぞると、指には薄緑色の糸が絡みつく。男たちに思い切ってその腕を振り抜くと、意思があるかのように糸は真っ直ぐ飛んで行き男らをぐるぐるに縛った。



「それってもしかして〝スキル〟?」



「あぁ〝捕縛〟のスキルだ。これは私がスキルを解除しないと決して解けない。ここに縛っておいて、あとでギルドの職員に回収させよう。今連絡を取るから少し待っててくれ」




ブレイヴは耳につけている耳カフスに触り、魔力を込める。すると耳カフスが魔力を帯び、小さな赤い石がほんのりと光った。



「………ビーン、ブレイヴだ。夜中に悪いがギルドの近くの路地で窃盗犯の貴族を2名捕縛した。ーーーーーーーいやこいつらは変態野郎だ、丁重に扱う必要はない。適当な牢屋に押し込んどけ。じゃ、あとは頼む」



話が終わると赤い石の光がスッと消える。




「それは何?」


「これか?これは〝魔道具〟だ。通信用の道具で魔力を込める事で発動する。魔力を込める量によって通信できる距離が変わるんだ」



「へぇ〜、便利な道具があるのね」



一葉(かずは)は魔道具が気になるようでじっとブレイヴの耳カフスを見て、すごく触りたそうに手をわさわさし出した。どんな仕組みで起動しているんだろう?子どものようにはしゃいでいる。


そして何を思ったのかリリーの真似をしてか、しょんぼりした顔で上目遣いに見つめてくる。


が、おもちゃじゃないんだ。おいそれとよくも知らない他人に渡せるか。

それに…上目遣いに見られたところで全然可愛くも何ともない。触ったところで魔力の波長が合わなければ結局ガラクタ同然だし、持っている意味はない。





「………やらんぞ」


「………ケチ」





そんな2人のやり取りをニ葉(つぐは)三葉(みつは)はジトーっとした目で見ていた。ブレイヴに対して警戒していた妹たちだったが、急に馬鹿馬鹿しく思えてきた。



「じゃ、私らは先に宿に帰ってるわ」


「早めに帰ってきてよ?姉ちゃん」



そう言い残すと、2人はさっさと帰ってしまった。








それから一葉(かずは)とブレイヴはリリーを無事家まで送り届けた。


お母さんも心配していたようで、ずっと家の周辺を1人で探していたようだった。リリーを見つけた時のお母さんは涙を浮かべながら駆け寄り、小さな娘の身体をぎゅっと抱きしめていた。お母さんからは何度も頭を下げ、お礼の言葉を何度も言われた。





リリーの家を後にし、





「ところで、さっきは聞けなかったんだけど、あの〝指切り〟って何?」



ブレイヴが突然気になったと聞くと



「あぁ、あれね。子どもってちゃんとした約束がないと不安になっちゃう子が多いでしょ?だから約束したの。本当はね、指切りげんまん〜嘘ついたら針千本の〜ますって言うのが正式な〝指切り〟なのよ?」



「えっ、何それ怖いんだけど…どこの地域のまじないだよ。聞いたことないんだけど」



「私たちの祖国では小さな子どもはまずこれを習うのよ?ちなみに〝げんまん〟は約束を守らなければ一万回殴るわよっていう意味で針千本はそのままの意味よ。嘘ついたら針千本を飲ますわよ?ってね」



一葉(かずは)はそう言って笑った。笑い方はやはり姉妹だからなのか、妹たちとよく似ていた。



しかし、この人の国ではそんな恐ろしいまじないを子どもに教育してるのか?考えただけでゾッとした。





「………で?君らの泊まっている宿はどこ?ついでだ、送っていくよ」



「別にいらないわ。ここから割と近いもの」



「あ、そう、じゃあ途中までだね」



方向は同じようだったのでそのまま黙って歩き始める。

5分……10分……



「……」



「……ねぇ、いつまでついてくる気?」



「……マジでこっちの方向なんだけど。もしかして君らの泊まっている宿って、この先の〝ロウソク亭〟じゃないよね?」



「……そのまさかだって言ったら何だっていうの?」



「いや、ほら」



ブレイヴが指を指すと噴水の広場を挟んで右手側に冒険者ギルド、噴水の広場を挟んで左手側に〝ロウソク亭〟があった。

結局は近くまで送ってしまったことになったのか。



「じゃ、私はここで失礼するよ。じゃあね」



ブレイヴは右方向へ歩いて行こうとする。



「……ちょ、あなた、まさかこんな夜中に職場へ戻る気?良い子は寝る時間よ?」


「おあいにく様、良い子って歳でもないんでね」



と言うと、今度こそブレイヴは冒険者ギルドの方へ歩いていき、やがて見えなくなった。




「……何あれ。働きすぎなんじゃないの?この世界には労働基準法、無いのかしら?」




それに自分の事を良い子って歳でもないって言ってたけど、どう見積もっても10代後半〜20代じゃない。今の私たちとそんなに年齢は離れていない、はず。

よくよく思い返せばブレイヴの目の下には大きな隈ができていたし、どことなく疲れているようにも見えた。若い時からアレは相当ヤバいんじゃない?





冒険者ギルドって、相当ブラックなのかな。





一葉(かずは)はブレイヴがニ葉(つぐは)に少し重なって見え、何だかやるせない気持ちになった。





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