7 その花の名前は
「で、そこの〝変態さん?〟粉々にされるのと、」
ニ葉は近くに落ちていた剣に向かって指を向ける。宙で円を描くと剣は透明なキューブ状の膜で囲われ、
「滅」
と声を発した瞬間、キューブが弾け、剣ごと粉々に砕けた。
男たちは、一瞬何が起きたのか脳が追いつかず、フリーズしていた。
が、ようやく理解したのかだんだんと顔が真っ青になり、
「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」
と情けない悲鳴を上げ、
「それとも、消し炭にされるの、」
三葉はもう一方の剣に向かって手をかざし、手の上に真っ赤に燃え盛る火の鳥を作ると、
「爆」
と言うと鳥は剣に真っ直ぐ向かって行き、その場で爆裂し、剣は文字通り消し炭にされた。
男たちはついにガクガクと震え始め、
「粉々がいい?」 「消し炭がいい?」
と2人に怖いほどの笑みを向けられた瞬間、ついに男たちは気絶し、その場に倒れた。
「………なんだ、威勢だけよくて情けないやつらだな。カッコわりぃ〜」
「………えぇ〜、拍子抜けなんですけど。ホントに男?ちゃんとタマついてる?え!?やだぁ〜こいつ漏らしてる〜」
言いたい放題、だった。
「ちょっと!2人とも口が悪いわよ?せめて、〝社会のゴミ〟くらいにしておきなさいな」
「……それはそれでひどくないか?」
ブレイヴは、思わず口に出して突っ込んでしまった。
「確かに。お兄さん、良い突っ込みだね!ところでお兄さんは、誰?」
「まさかとは思うけど、………こいつらの仲間じゃないよね?」
後から現れた2人はこちらを見て、睨んできた。
「………それは断じて違う。俺はこの暁月村の冒険者ギルドのギルド長をしている、ブレイヴという者だ」
首からぶら下げていたタグプレートのネックレスを掲げて見せた。
ブレイヴが持っているのは金色のタグプレートで、その色はAランクの冒険者である事を示す。そしてタグプレートにはブレイヴの名前と、どこの冒険者ギルド所属なのかを示すナンバーが彫られていた。ちなみに暁月村はNo.8だ。
そしてブレイヴはギルド長なので、タグプレートの右下には稀少な〝レッドダイヤモンド〟が埋め込まれている。
「俺は名乗ったぞ。で、君らは何者だい?この村の住人ではないよね?」
「ん〜、ここはちゃんと名乗ってもらったし、名乗り返すのが礼儀よね?私は一葉。さっきは助けようとしてくれてありがとう。この2人は私の妹たちよ。さ、2人とも?」
促され、渋々と口を開いた。
「ニ葉。次女」
「三葉。三女だ」
名前は教えてくれたが、妹たちは意地でも目を合わせて名乗りたくなかったようだ。
長女の態度はまだしも、この妹たちは不機嫌で、いまだ周りへの警戒を緩めない。もちろん、俺に対してもだ。2人は姉を守るように位置取り、真っ直ぐに瞳をこちらに向けてくる。
しかし、ここで簡単に引くわけにはいかない。
あまりにも気になる事が多すぎる!
「先ほど君らが使っていたのは〝スキル〟ですよね?」
「それを貴方が知ってどうするというの?開示義務は無いはずよ?」
向こうも易々とは口を割らない。ならば、押してみるのみ。
「まず、ニ葉さんと三葉さんが使っていた〝スキル〟は威力が段違いに強かった。相当の魔力量を有していると見受けられる。それにあまり見ないタイプの〝スキル〟だ。使い方によっては薬にも毒にもなりうる」
「ブレイヴさんは私たちが危険因子であると、そう言いたいのかしら?」
「………そこまでは言っていない。それに長女の… 一葉さんも、先ほどの力は一体何なのですか?それまでそこに無かったものがいきなり現れるなんて。相手は〝暗幕〟のスキルを使っていたんですよ?それをどうやって見破り、相手のスキルを破ったのですか?」
分からない、理解できない事が多すぎて次々と質問が口から出てくる。
「だから、私たちはそれに答えるつもりは無いと、そう言っているのよ。解決したんだし、もういいじゃない?それにこの子も家まで送り届けなきゃいけないし。きっと親御さんも心配しているわ」
………確かに。日はすっかり暮れ、夜だ。子どもが出歩いていい時間帯じゃない。
ギルド長として、このままにしておくわけにはいかないか。
「……分かった、この場は引こう。ではその子は私が責任を持って自宅へ送ろう」
そう言って娘を見るが、
「嫌っ!このお姉ちゃんに、お家に来てもらってお礼するのっ!あのね、お母さんと育てた大切な野菜を取り返してくれて、ありがとう!本当に、ありがとうなの!」
一葉は娘にニコッと笑い、
「無事で良かったわ。良ければお名前を聞いてもいいかしら?私は一葉よ」
「あたしはリリー!ほらっ!あの花壇に咲いているお花と一緒の名前なの〜!」
リリーが指で指した先を見るとそこにあったのは、白い百合の花だった。
白い百合の花言葉は〝純粋〟。リリーにぴったりの名前だと、一葉は思った。
「偶然ね。私たちも植物の名前なのよ」
「お姉ちゃんたちも、リリーと同じ?お花の名前なの?」
「えぇ、私の名前はそのままの読み方ではないけどね」
「???よくわからないかも」
「そうねぇ、あ。私たちの苗字がね、桜っていうの。桜はね、木に咲くピンク色の可愛いお花なのよ?」
「ピンク色ってどんな色?」
「うんとね、私たちの髪の色のような色の事よ」
「わ〜すてきな色だね!お花の名前、いっしょだね」
2人は向かいあい、笑い合っていた。
そして、その話を側で聞いていたブレイヴは驚いた。
平民は苗字など、持たない。つまりこの三姉妹は、ーーーーーーーー〝貴族〟という事になる。
 




