LEGEND3 プリンス・アヴァソル
世界の中心地にある聖なる宮殿と思われし聖塔に導かれた少女、充夏。
ここがまさかの目的地だなんて夢にも思わなかった少女は、みすぼらしい姿のまま来るのはみっともないと感じた。
「こちらがドレスルームでございます。お好きな衣装にお着付けなさいませ」
どうやら気品な姿に厳重なのを判断した充夏。そりゃあ、聖なる建造物の中なのだ。清楚なスタイルは当然だろう。
女の着付けなんてどこかに外出する時の衣装選びで時間かかるって分かりそうだが、綺麗な衣装なのに着崩れしやすい物ばかりあったので、彼女は仕方なく早目にサイズと着崩れしない物が一着しかないから、そのドレスに決めて着替えた。着替え終えると、魔法がかかったように自然に頭部と顔のメイクアップがされたのだった。それもヘッドドレスやイヤリング、リップ着けも完璧にだ。
すべてが整った後、ドレスルームから出てきた少女は、どこかのお姫様のような可愛らしいドーリー(人形のような公女を軽視した表現)に見られて、各々の迎賓たちから拍手喝采されたという。
迎賓たちが集合したパーティー会場に到着した少女は、パーティーの中心人物に導かれた。
どうやら、今日は中心人物の誕生日会が開かれていたようだ。
「私くしは、アヴァソル・トゥオール・ティストナーと申し上げます。どうかプリンス・アヴァソルとお申しください。ミス・ドーリー」
「みす……どぉりぃ? わたしはミチカと申し上げます。なので……」
「おお、それは申し訳ない。ミス・ミチカ。では、当パーティーの主役である、私くしの誕生パーティーにご参加くださって誠に感謝いたす」
「あ、はい……」
どうやら、パーティー会場では、必要以上に目立っていた充夏。もうどうにでもなれと言わんばかりの状況であった。
「改めましてお誕生日、お祝いいたします。ええと、あのう……」
「なんでしょうミス・ミチカ」
「あのう……わたし、鏡の外側から来たよそ者でございます」
「なぁんだ、そのことですか〜。ご心配なく。私くしはそのミラーの外から参られたドーリーを待っていました」
「えっ⁉ このわたしを?」
「近い将来、私くしとミス・ミチカは婚姻することに決められています。この世界のコトワリになっているのです。ご無礼をかけたのは重々承知の上のこと。大変失礼おかけした。どうか……」
「婚礼? それって、王子様の嫁入りって、国のお妃様に?」
「まあ、手短に言えばそうなりますね」
冗談じゃない!!
と会場、つまりこの聖塔を飛び出して、街へと逃げたくなった充夏。
だが、空気を読んで行動しなければ、このような誕生パーティー会場の外には出られはしない。
「ちょっと、お気分が……」
「衛生係の者、ミスのお暇である。御身を丁重に扱い、憩いの間へ通しなさい」
「はい、ただちに。ミス……ささ、こちらへどうぞ……」
憩いの間の中。門番が張り込んでいた。
「張り込みの門番さん、人払いをよろしくお願いします」
「いえ、なりません。プリンスのお言葉は絶対でございますゆえ、ここにて御身のお大事をお守り通します」
「軽い症状です。そこまで大げさにしないでください。わたしは、もう少ししたら一人で会場へ戻ります。そこまで心配されると、この場で自決するとプリンスにお伝えください」
「お自決はおやめくださいませ。我々がお叱りを受けてしまいますゆえ」
「じゃあ、人払いよろしくできるかしら?」
「かしこまりました。ですが、そのようなことは金輪際二度とおやめくださいませ」
「承知しました。では、人払いお願いします」
2分くらいしてから、充夏は憩いの間の窓からの脱出劇を成功させた。
衣装の中には畳んでおいた軽装を吊るしていた。それに着替えた後の脱出なので、追手を撒くことは可能なのだ。
こうして、充夏は、聖塔から3キロ先の向こうまで駆け足で逃げ切れたという。
人払いから10分以上たって、様子がおかしいとプリンス・アヴァソルは憩いの間まで出向いた。
みだりにぬぎ終えた衣装が落ちていて、窓が開放されていた。それが脱走と知り、アヴァソルは、追手の部隊を揃えては、充夏の行方をしらみ潰しに徹底的に捜索したのだった。